#16 【論文レビュー】ハムストリング肉離れのリスク因子



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私事ですが、2ヶ月ほど前にバスケットボールをプレー中にハムストリングを肉離れしました。幸い、周りにはトレーナー関係者がいたので、対処法を教えてもらって、すぐにアイシングと圧迫を開始しました。当日は、びっこをひきながらも自分で歩いて帰る事ができたし、痛みもそれほどひどくなかったので、程度は軽いと思っていました。

しかし、翌日トレーナーの方に「陥凹(筋線維断裂により筋肉がへこんでる事)があるね〜。これはI度じゃなくてII度だね〜」と笑顔で指摘され、思っていたよりも重傷であることが判明(といっても中程度ですが)。それからしばらくは下半身を動かすような運動を中止して、安静にしていました(上半身のトレーニングは続けました)。最近は、下半身のトレーニングも以前と同じようにできていますし、使用重量も徐々に受傷前のものに近づきつつあります。

そんな経験があり、ハムストリング肉離れに関する情報に敏感になっていた時期に、次のようなレビュー論文を見つけました。ハムストリング肉離れに関する文献がうまくまとめられていると思うので、簡単に紹介します。

 

 

論文の内容 

Mendiguchia J, Alentorn-Geli E, Brughelli M. Hamstring strain injuries: are we heading in the right direction? Br J Sports Med. 2012;46(2):81-5.

 

このレビュー論文では、ハムストリング肉離れのリスク因子として以下の6つを挙げて、それぞれについて過去の研究をレビューしています。

 

①過去の受傷歴(previous injury)

過去の受傷歴があると再受傷のリスクが2〜6倍増えるというデータがあり、ここで挙げられているリスク因子の中ではトップに挙げられています。

ということは、すでに一度ハムストリング肉離れを経験している私は再受傷のリスクが高いという事になります。実際、再受傷が怖かったので、受傷後に下半身のトレーニングを再開する時はめちゃめちゃ軽い重量からトレーニングを始めたり、トレーニング後は必ずアイシングするようにしたり、ビビり過ぎなくらい用心している今日この頃です。

 

②柔軟性(flexibility)

一般的に、「筋肉がかたいから肉離れが起きる」というイメージがあって、それを予防するためにウォームアップで静的ストレッチをするという方が多いのではないでしょうか。

しかし、過去の研究によると、ハムストリングの柔軟性とハムストリングの肉離れ発生率の間に関係があるというデータと関係がないというデータの両者が存在していて、上記の一般的な考え方を科学が裏付けているとは言い切れない状況にあります。さらなる研究が必要という事でしょう。

ここで一つ興味深いのは、股関節屈筋の柔軟性とハムストリング肉離れのリスクとの間に関係があるという論文が紹介されている点です。

股関節屈筋とハムストリングは一見関係のないような気がしますが、股関節屈筋の柔軟性が低下して骨盤が前傾すると、ハムストリングが引き伸ばされる事になり、これがハムストリングに負担をかけている可能性も考えられます。ある部位または特定の筋の傷害発生リスクを考える時に、そこだけに注目するのではなく、大きな視点を持って考える事が重要だと改めて考えさせられました。

 

③筋力(strength)

 一般的に、筋力不足がハムストリング肉離れに与える影響について調べる時、アイソキネティック(等速性)な膝屈曲力の左右差(受傷側と非受傷側の差)を見たり、膝伸展力と膝屈曲力の比率を見たりします。これらの方法を使った過去の研究では、筋力不足がハムストリング肉離れと関係あるというデータと関係ないというデータの両者が存在し、結論を出すのが難しい状況です。

そもそもハムストリングは二関節筋(大腿二頭筋短頭除く)なので、膝関節周りだけの筋力を測定することの問題や、アイソキネティックな測定が実際のスポーツにおける筋の動態とは異なるという問題等もあり、なかなか「ハムストリングの筋力」というものを定量化するのが難しいというジレンマが存在していると思われます。

また、ある研究によると、股関節伸展筋力(臀筋群?)が弱いとハムストリング肉離れのリスクが高まる可能性が指摘されています。ハムストリングは二関節筋なので、膝関節屈曲だけでなく股関節伸展にも関与します。この際、股関節伸展のメインとなるべき臀筋群の筋力が弱いと、それを補おうとハムストリングに余計な負担がかかり、肉離れのリスクが高まるという事なのでしょうか。

アメリカの理学療法士Shirley Sahrmannは「Any time you see an injured muscle, look for a weak synergist」と言っていますが、まさにこの事だな〜と思いました。

ハムストリングの肉離れ予防のための筋力トレーニングとして、エキセントリックトレーニングが注目されています。Nordic hamstring lowerとかRussian leanとか呼ばれているエクササイズです(私は個人的にRussian leanと呼んでいます)。最近は、傷害予防トレーニングの一環としてサッカー界ではFIFAの11+というプログラムの一部にも組み込まれていて、実際にこのエクササイズが実施されているのをあらゆる現場で見ることができます。

しかし、今回取り上げているレビュー論文によると、このエクササイズがハムストリングの肉離れ発生率を低下させると言い切れる科学的根拠はないという事です。私の中では、このエクササイズは中・上級者向けの非常に強度の高いエクササイズという分類なので、そもそもデッドリフトやRDLのような基本的なエクササイズをやっていないアスリート(特に若いアスリート)がこのエクササイズをやらされているのを見ると、「逆に怪我すんじゃねーか?」と思ってかわいそうになります。

エクササイズ自体は悪くはないのですが、その使用はトレー ニング中・上級者に限定されるべきで、やるにしても量や頻度に十分気を使うべきだと思います。

 

4. コアスタビリティ(core stability)

コアスタビリティとハムストリングの肉離れ発生の関係はあまり研究されていないようですが、ハムストリング肉離れのリハビリ中にコアスタビリティをトレーニングすると再受傷率が低下したという報告もあり、今後さらなる研究が期待されるトピックと言えます。

コアスタビリティが向上すると体幹部分のスティッフネスが増加するので、相対的に股関節のモビリティが向上してハムストリングへの負担が低下する可能性が考えられます。この辺りはrelative stiffnessという考え方が絡んでくるのですが、このrelative stiffnessについてはまたいつか触れたいと思います。

 

5. 疲労(fatigue)

サッカーの試合中、前半と後半の終盤でのハムストリング肉離れの発生率が高いという報告があり、疲労がハムストリング肉離れに影響を与えるリスク因子の一つだと考えられています。疲労により筋力・RFD・スティッフネス・motor control等の要因が低下して、怪我のリスクを高めている事が推測されますが、具体的な研究に関してはまだまだこれからのようです。 

 

6. 形態(architecture)

レビュー論文の筆者達は、ハムストリングの肉離れは大腿二頭筋でより頻繁に発生すると述べており、その原因が大腿二頭筋に特徴的な形態にあると考えています。

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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