#170 ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチまでやる利点?

公開日: : 最終更新日:2015/08/10 S&Cコーチとしての思考, エクササイズ


 

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前回のブログで、ウエイトリフティング関連エクササイズにおけるキャッチの有無について軽く触れました。それに関連して、以下のような質問をメールで頂きました。

ウエイトリフティングのキャッチの有無についてですが、私はキャッチまですることの方が利点があると考えます。…私が考えるキャッチのもう一つの利点は、負荷を受け止める(吸収する)能力(The ability to accept force)の向上というものかと考えます。キャッチ時には、重り+自分で作った力+自体重+重力が合わさって、それを体で吸収しなければ安全にキャッチはできないと考えます。またそれができるということは、負荷を吸収する能力が高い=怪我のリスクを減少できる身体能力があると考えます。この意見についてどう思われるでしょうか?

上記の質問に対する私の答えを書いていたら、結構長くなってしまったので、それを今日のブログに転載することにしました。

 

 

キャッチを含める利点について、現時点での私の考え方

以下が私の返事です。

キャッチを含める利点として「負荷を吸収する能力の向上」というのは私も聞いたことがあります。主にウエイトリフティングのバックグラウンドをお持ちの方がおっしゃることだと私は認識しています。確かに一理あるかな~と思わないでもないですが、冷静に考えてみるとビミョーだな~というのが現時点での私の感想です。理由を説明します。

 

 

キャッチが負荷を吸収する能力を向上するかどうかビミョーだと思う理由

①定義が曖昧

そもそも「負荷を吸収する能力」の定義が曖昧です。そこをもう少し明確に定義したうえで議論をしてもらわないと、やっぱり「ウエイトリフティングはキャッチしないとアカン」という結論ありきで言ってるんじゃなかろうかと疑ってしまいます。

 

②キャッチ時の衝撃・エキセントリック負荷はそれほど高くない

ウエイトリフティング関連エクササイズにおいては、バーをキャッチした時点でのバーの下向きの速度はゼロに近い状態になると思います。つまり、プル動作でバーに対して上向きの加速度が与えられてバーが放物線運動(的な動き)を始めてその頂点に到達するあたりでキャッチされるということです(実際には頂点を超えて下向きの動きを始めたくらいにキャッチすることが多いかと思いますが)。

したがって、バーという負荷に対してブレーキをかけるという点では、「バーの重量+自体重」に少し毛が生えた程度の力をエキセントリックに発揮すれば良いという事になります。そういった意味で、キャッチ動作を含むウエイトリフティング関連エクササイズにおいては、エキセントリックな力発揮(つまり減速)の必要性はそれほど高くないというのが私の認識です(もちろんゼロではありませんが)。実際に、パワークリーンのキャッチ時の着地衝撃は、垂直跳びの着地等と比べても低いとする報告もあります(コチラ)。

このような特徴は別にマイナス要素ではありません。むしろ、そのような特徴があるからこそ、高負荷に対するパワー発揮を安全に鍛えることができる種目として、ウエイトリフティング関連エクササイズの有用性が高いのだと私は信じています。この点については、次にもう少し詳しく説明します。

 

③エキセントリックなトレーニング刺激はそれほど大きくない

エキセントリックな力発揮能力やブレーキをかける能力を鍛えたいのであれば、バーベルを担いでジャンプスクワットを実施したほうが負荷ははるかに高いと思います。したがって、そのような能力を鍛えたいのであれば、ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチをすることを強調する意義は小さいでしょう。

ただし、ジャンプスクワットのようなエクササイズにおいて高負荷を扱おうとすると、着地衝撃を含めたエキセントリックな負荷が大きくなりすぎるため、痛みやケガにつながりかねないので、個人的にはおススメしません。私はジャンプスクワットをやらせる場合は低負荷で実施するようにしています。

ただし、ある程度の高負荷に対してパワーを発揮する能力を鍛えたい場合は、ウエイトリフティング関連エクササイズが有用です。なぜなら着地衝撃を含めたエキセントリックな負荷が小さいため、痛みやケガのリスクを抑えつつ高負荷を用いたパワートレーニングを実施できるからです。

この議論を逆から考えると、ウエイトリフティング関連エクササイズが「負荷を吸収する能力」の向上に必要な適切な過負荷を与えることができるのかについては疑問だと言うことができます。

 

 

キャッチを含めることのポジティブな面

ここまでネガティブな議論ばかりしたので、少しポジティブな面についても考えてみたいと思います。

 

①減速姿勢を取る練習になる

ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチ動作を取り入れることによって、負荷を受け止めるまたは減速をするために適切な姿勢を取る練習になる可能性が考えられます。

一般的に、減速においてはトリプルフレクションとでも言いましょうか、股関節・膝関節・足関節を適度に屈曲することが推奨されており、キャッチ姿勢はまさにそのような理想的なポジションと捉えることができます。ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチ動作を取り入れることで、そのような姿勢を取ることがうまくなる可能性はあるでしょう。

 

②全身、特に体幹部(脊柱+骨盤)の剛性を高める能力の向上

キャッチを取り入れることで、トリプルフレクション的な減速姿勢をとったうえで、バーを受け止める準備段階で身体全体、特に体幹部(脊柱+骨盤)を固めて剛性(stiffness)を高めるという能力も練習することができるかもしれません。あらかじめ剛性を高めておくことにより、下肢で発揮した力を効率的に減速につなげたり、より短い可動域で減速をすることができたりする可能性が高くなるので、結果として減速能力(多くのスポーツで必要な能力)を鍛えることにつながるかもしれません。

 

 

減速姿勢を取る能力や全身のスティフネスを高める事はどれほど重要か?

「減速姿勢を取る練習」と「減速に備えて全身、特に体幹部の剛性を向上させる練習」という2点、キャッチ動作が「負荷を吸収する能力の向上」につながりうる要因として挙げました。ただし、どちらもトレーニングというより練習に近いのかな〜というのが現時点での私の感想です。練習は動きに特異的なものであり、練習効果が他の動作に転移する可能性は低いと私は考えています。

例えば、ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチ動作の姿勢の練習をして上達をしたとしても、例えばサッカー選手がダッシュの後に減速してから方向転換をするという動作の向上にもつながるのかというと疑問です。やはりそのような動きにおける正しい減速能力を身につけたかったら、そのような動きを練習する必要があるでしょう。

一方で、減速に備えて全身の剛性を高めておく能力はある程度globalまたはgeneralなものであり、ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチを取り入れることでその能力を高めることが、他の多様な動作にも転化しうる、という可能性も捨て切れません。もしかしたら、減速動作だけでなく、相手との身体接触(例:ラグビーのタックル)に備えて全身の剛性を高める能力にも繋がるかもしれません。

ただし、現時点では何とも言えません。可能性はあるけど、自信を持ってそうだとも言い切れないといった感じです。

 

 

まとめ

以上、ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチ動作を含めると「負荷を吸収する能力の向上」という利点が期待できるという考え方に対して、現時点での私の感想を述べました。これは現時点で私が持っている知識や経験をもとにして考えたものなので、これとは異なる視点をお持ちのS&Cコーチもいらっしゃるでしょうし、私も新たな知識を手に入れたら数週間後には考え方が変わっているかもしれません。

誤解しないで頂きたいのは、私はキャッチ動作のそのような利点を完全に否定しているわけではなく、キャッチ動作を含めることを推奨する要因としてはちょっと弱いかな~と考えているだけです。私自身、キャッチ動作を含めたウエイトリフティング関連エクササイズはアスリート指導で活用していますし、有用なエクササイズだと思っています。特に全身の剛性を高めるという効果はあるのかな〜と感じています。しかし、全身の剛性を高める能力と、エキセントリック筋力(=ブレーキ能力)とは必ずしも同じ能力ではないので、そこは分けて考える必要があると思います。

私は、ウエイトリフティングをバックグラウンドとして持っていないS&Cコーチとして、ウエイトリフティング関連エクササイズの効用に対してより冷静で客観的な目を持ち続けたいという気持ちが人一倍強いというだけです。人間誰しも知らないうちにバイアスを持っているものですが、それを認識したうえでできるだけ客観的に物事を判断することが重要なのかなと思います。

私自身、ウエイトリフティングもパワーリフティングもボディビルディングも陸上競技もアスリートとしてやっていたわけではないです。特定のバックグラウンドを持っていないというのはS&Cコーチとして弱みでもありますが、逆に言うと客観的な目でエクササイズやトレーニング方法の有効性を判断できるのは自分の強みだと思っています。そういった思いで考えた私の感想が上記のものとお考えください。

ちなみに、ウエイトリフティング関連エクササイズが高負荷に対するパワー発揮能力を向上させるのに適しているという議論について、さらに詳しく知りたい方は以下の文献を一読するのをオススメします。

Hori et al. (2005)  Weightlifting exercises enhance athletic performance that requires high-load speed strength. Strength Cond J. 27(4):50-55.

 

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【編集後記】 

今日が2014年の仕事初めでした。今年もバリバリと仕事をしつつ、ブログ等での執筆活動も続けていきたいと思います!!

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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