#354 学術論文を批評的に読むということ②

公開日: : 最終更新日:2016/09/15 論文の読み方, 論文レビュー


 

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前回のブログでは、「学術論文を批評的に読む」というプロセスを実践している動画を紹介しました。そのうえで、その動画が取り上げている論文の内容と筆者の主張を簡単にまとめました。

#353 学術論文を批評的に読むということ①

今回は、その論文の研究内容や筆者の主張に対して、動画内でどのように批評が展開されているのかを簡単に紹介します。

 

 

動画内での批評のまとめ

前回のブログで紹介した動画は、パネルディスカッションの様子を撮影したもので、基本的には編集が加えられていませんでした。そのため、動画の長さが1時間半ほどにもなり、英語で聞かないといけないということも合わさって、ちゃんと動画を見た読者の方が思ったよりも少なかった、というのが私の印象です。

ありがたいことに、その後、編集が加えられて時間も短くなった「要約バージョン」が公開されたので、そちらを紹介します:

英語で聞かないといけないのは変わりませんが、全体の時間が15分ほどにグッと凝縮されているので、前のバージョンよりも見やすくなったと思います。※でも、このパネルディスカッションの内容をしっかりと理解したいのであれば、オリジナルの長時間バージョンを視聴されることをオススメします。

とりあえず、動画を見てもらったという前提で、動画内で展開されている論文に対する批評について、主要なものをまとめてみます。 

 

①被験者がresistance-trainedって本当かいな?

この論文と同じような研究(低重量・高レップ vs. 高重量・低レップ)は、今回の論文を発表したカナダの研究グループ自身によって過去に実施されています。しかし、過去の研究では被験者がuntrained(非鍛錬者)でした。

untrainedな人は伸びシロが大きく、どんなトレーニング刺激に対しても適応します。極端な話、全然運動していない人にジョギングをさせても筋力はUPするんです。

したがって、被験者がuntrainedの場合、微妙なトレーニング刺激の違いが実際のトレーニング適応の差として出づらい(=トレーニング効果の違いを研究しづらい)、というマイナス面があります。また、untrainedな被験者を使って実施した研究の結果が、普段からトレーニングをやっている人(trained)にもそのまま当てはまる可能性は極めて低いです。

過去に発表されている論文と比べて、今回の論文のオリジナリティというか強みは、「resistance-trainedな被験者を使った」という点にあります。

だが、しか〜し!!この論文の肝である「被験者がresistance-trainedである」という点が、動画内では徹底的にツッコまれています。一応、被験者は「レジスタンストレーニング経験が2年以上ある」との記述はあります。しかし、よ〜く論文を読んでみると、筆者が主張するほど被験者がresistance-trainedなのか、という点で疑問が残ります:

  • ベンチプレス1RMが97-98kg程度(体重は85-88kg)⇒弱いじゃん!
  • 本研究のニーエクステンションの1RMは76kg程度だけど、untrainedな被験者を使った過去の研究では同エクササイズの1RMが71-76kgと報告されている⇒untrainedと筋力があまり変わらないのにresistance-trainedと呼べるのか?
  • LRグループは75-90%1RMの重量で8-12レップ実施したと記述されている⇒resistance-trainedな人だったら、90%1RMで8レップもできないんだけど・・・

以上のような点から、そもそもこの研究の被験者はresistance-trainedと呼べるか疑わしく、むしろuntrainedもしくは初心者に近い状態だったと考えられます。そのため、この論文のオリジナリティ・強みのはずである「resistance-trainedな被験者を使った」という主張そのものが崩壊していると動画では批判されています。

 

②トレーニングプログラムが現実的・実用的ではない

次にツッコミの対象となっているのがプログラムの内容です。ま〜、S&Cコーチとしての立場で見ると、「こんなのありえない!」っていうくらい非現実的なプログラムなんです・・・。詳しくは論文PDFをダウンロードして確認してください。

簡単に説明すると、まず、5つのエクササイズを3セットずつ実施していて、すべてのセットがvolitional failureまで実施されています。volitional failureとは、「もうこれ以上のレップはできないよ〜」という限界まで追い込むということです。LRグループは8-12レップでvolitional failureになるよう重量を調整していて、HRグループは20-25レップでvolitional failureになるよう重量を調整しています。さらに、セット間のレストが1分間という短さ!そして、全身を鍛えるプログラムを週4回実施しています。

個人的に、そんなキツいプログラムをやり切る自信なんてありません。途中で逃げ出すにちがいありません!だから、本当に被験者はこの論文内で書かれているとおりにトレーニングを完了したのかどうか疑わしいです。

また、①でも指摘したように、LRグループは75-90%1RMで8-12レップ実施したと記述されています。もし、この研究の被験者がresistance-trainedであるならば、90%1RMで8レップも実施することは不可能なはずです。こんなところも、この論文で報告されているプログラムが嘘っぽく見える理由の1つです。

 

③Low repetition(LR)グループのレップ数(8-12レップ)がそもそもlow repじゃないし、高重量でもない

この研究の結論、つまり筆者の主張は「重い重量を使わなくても、軽い重量をたくさんのレップ数こなせば、同じくらいの筋肥大や筋力向上効果が期待できる」というものです。

しか〜し、そもそも「高重量・低レップ」と位置づけられているLRグループのトレーニングでは、レップ数が8-12レップとなっています。実際にアスリートの指導をしているS&Cコーチの感覚から言うと、これは「高重量・低レップ」というより「中重量・中~高レップ」と呼びたくなるシロモノです。

したがって、この研究で検証されているLRグループ(8-12レップ)とHRグループ(20-25レップ)の比較を持って、「筋力向上や筋肥大には高重量の使用は必要ない!」と主張されても、違和感しか残りません。そんなこと言いたいんであれば、1セットあたり3-5レップでもっと高重量を使ってトレーニングするグループと比較してもらわないと意味無いじゃん!ということです。

 

④3週間ごとに1RM測定をしている!?

本研究では、12週間のトレーニング期間の前後の体力測定に加えて、3週間ごとに週4回のトレーニングセッションのうち1回を使って、1RM測定を実施したと書かれています。でも、その1RMのデータは報告されていません。報告されているのは12週間のトレーニング前後の測定データだけです。

だったらなんで3週間ごとに測定したんだ?という話ですが、論文筆者の主張としては「高重量で持ち挙げる練習だった」との事です。う~ん、なんだかよく意味がわかりません・・・。

そもそも「高重量を使わなくても、低重量をたくさんのレップ数実施すれば、同じくらいの効果がある」という仮説を検証するための研究なのに、3週間に1回という低頻度とはいえ、1RM測定という、ある意味「高重量・低レップ」なトレーニング刺激を両グループに与えるというのは理解に苦しみます。特に、この論文の被験者は実際はuntrainedに近い初心者だったと考えられるので、たとえ3週間に1回という低頻度であっても、その高重量でのトレーニング刺激による影響は小さくはないはずです。

LRグループとHRグループのトレーニング効果の違いを調べたいはずなのに、両者に対して「高重量・低レップ」なトレーニング刺激を与えてしまうと、トレーニング効果に差があったとしても、その違いが薄まってしまいます。なので、研究デザインとして、そのようなconfounding factorを入り込ませてしまったのは、大きな失敗と言わざるをえません。

 

⑤ベンチプレス1RMの変化率には違いがあるのにそこに触れなさすぎ

この研究を受けての筆者の主張の全体的なトーンとしては「重い重量を使わなくても、軽い重量をたくさんのレップ数こなせば、同じくらいの筋肥大や筋力向上効果が期待できる(ベンチプレス1RM向上効果は別として)」みたいな感じです。カッコ内の事実、つまり、ベンチプレス1RMについてはLRのほうがHRよりも向上したという事実は例外扱いです。

しかし、私にとっては(そして動画内のパネラーの人たちにとっても)、この研究で1RM測定が実施された4種目(レッグプレス、ベンチプレス、マシンショルダープレス、ニーエクステンション)のうち、ベンチプレスが一番まともで関心の高いエクササイズです。正直、他の種目については1RM測定をやらせることなんてないですから、あまり気になりません。だから、ベンチプレスに関しての結果を例外とみなして軽く扱っているのがどうにも納得いきません。

「トレーニングで用いる重量はトレーニング効果に関係ない」という筆者の主張ありきで、研究結果を意図的に曲解しているようにさえ思えます。これはいけません。研究者は、実験前に仮説を立てることはしますが、実験結果が出たらそれを客観的に解釈しないとダメです。

 

 

まとめ

私がこの研究結果を解釈してアスリートに説明するとしたら、「軽い重量を用いて、(重い重量でトレーニングする時よりも)たくさんのレップ数(2~3倍)をこなせば、筋肥大効果は同じくらいで、筋力向上効果は少し低くなるでしょう。一方、重い重量を用いて、1/2から1/3ほどのレップ数をこなせば、筋肥大効果は同じくらいで、筋力はさらに向上します」ということになります。後者を選択したほうがメリットが大きいのは明白でしょう。

一方で、論文筆者の主張は「筋肥大や筋力向上には70-85%1RM以上の高負荷でトレーニングする必要があるとこれまでは言われてきたが、軽い負荷であってもvolitional failureまでトレーニングすれば同じような効果が得られますよ」といったトーンです。これを見ると、「軽い重量でもトレーニング効果が変わらないのであれば、そっちのほうがラクそうだ!」と判断してしまいそうです。 

したがって、同じデータを見ていたとしても、解釈の仕方やその活用方法が180度変わってしまう場合があるということです。もっと言うと、論文内で研究結果をもとに主張されているようなことであっても、その内容を精査すると「この研究デザインと実験結果からは、そんなこと言えないじゃないか!」というケースが多々あるのです。

だから、我々S&Cコーチが学術論文を読む時には、今回紹介した動画内のパネルディスカッションで行われていたように、「論文を批評的に読んで自分なりの解釈をする」というプロセスが必要で、そのための能力を磨くことが大切です。というのが私の主張でした。

 

 

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【編集後記】

先日、外苑前のジムB.E.A.Tさんで、スタッフ向けの研修会講師を務めました。久しぶりに5時間しゃべりました。やはり汗びっちょりんこでした。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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