#385 オレゴン大学のS&Cコーチがアメフト選手を病院送りに!!

公開日: : S&Cコーチとしての思考


 

Oregon O gestures

 

年明けにTwitter上で衝撃のニュースを目にしました。米国のオレゴン大学のS&Cコーチが、シゴキに近いトレーニングをアメフト選手にやらせて、3選手が横紋筋融解症(Rhabdomyolysis)という症状で病院送りにされたというものです。

詳しくは以下のリンク先でまとめられています:

オレゴン大のトレーニングを巡る一連の騒動

 

 

何が問題だったのか?

冬休み明けのトレーニングセッションで、1時間近く腕立て伏せとかをやらせていたという情報が飛び交っています。

まあ、正確な情報は外部には出てこないのかもしれませんが、この断片的な情報と3選手が入院しているという事実を見るだけでも、このS&Cコーチはアスリートを指導する資格のない最低な人間であることがわかります。ワタシ、こういう人、キライ(なぜか片言の日本語風)。

では何が問題だったのでしょうか?

 

①効果の期待できないトレーニングを精神修行的にやらせている

競技練習にプラスしてあえてトレーニングをやる理由は「より健康的に・より効率的に・より最大限に」体力を向上できるからです。

残念ながら、漏れ伝わってきているトレーニング内容から判断すると、オレゴン大学のS&Cコーチがやらせていたのはこの3つのどれにも当てはまらないシロモノです。そもそもトレーニング効果を狙っていたとは考えづらく、むしろ精神修行的な意味合い(シゴキ?)を持ってやらせていたと推測せざるをえません。

世の中には「時には理不尽なトレーニングをやらせることも必要だ!」なんて言って、とりあえずキツいことをやらせるS&Cコーチもいるみたいですが、そんなの無責任です。ワタシ、こういう人、キライ・・・。

このオレゴン大学のS&Cコーチは新任だったと報道されているので、最初にガツンとキツいことをやらせることで「アスリートからなめられないように」とか「規律を確立したい」とかいう考えがあったのかもしれません。でも、その結果、3人の選手を病院送りにし、1ヶ月の謹慎処分を受けているので、アスリートからの信頼なんて得られないでしょう。

まったく、軍隊じゃないんだから。バカじゃないの・・・。

アスリートが現役を続けられる年数は限られていて、さらにトレーニングに使える時間も限られているんだから、ちゃんと意味のあるものを与えるべきです。その意味も説明できず「理不尽」という言葉で片付けちゃうようなシゴキに近いトレーニングをやらせるS&Cコーチには、アスリートを指導する資格なんてありません。

 

②冬休み明けにいきなりキツいトレーニングをやらせている

冬休み明けでトレーニング量が低下して体力が落ちていた状態からいきなりキツいトレーニングをやらせた、という点も3人のアスリートが病院送りになった理由として考えられます。

アスリートがケガをする要因の1つとして、最近は「acute : chronic workload ratio」なるものがスポーツ科学者の間で注目されています(特にオーストラリアのスポーツ科学者Tim Gabbettのグループを中心に、ここ2~3年の間に多くの論文が発表されています)。これは一般的には「直近1週間のworkloadを過去4週間のworkloadの平均値で割った値」として定量化されます。

この「acute : chronic workload ratio」が高くなるとケガをしやすいと考えられているのです。つまり、急にworkload(=練習やトレーニングの量)を増やすことがケガにつながるということです。

オレゴン大学の例で言うと、冬休みの間はworkloadが減っていたはずで、軽いdetrainingが起こっていた可能性があるのに、冬休み明けにいきなりキツいトレーニングをやらせたので「acute : chronic workload ratio」は非常に高い状態であったと予想され、ケガが起こっても不思議ではない環境をS&Cコーチがアスリートに与えていたことになります。

こんなこと「progressive overload(漸進性過負荷)の原則」を知っていれば防げるはずですが、このS&Cコーチはそれを理解していないか、その重要性を軽んじて、それよりもアスリートをシゴクことを選んだということです。バカじゃないの・・・。

 

 

まとめ 

オレゴン大学のアメフト選手の中には、病院送りになったチームメイトに対して「冬休み中に怠惰な生活をして身体が鈍っていたからダメなんだ」というコメントをして、S&Cコーチを擁護している選手もいるようです。

たしかに、休暇期間等でアスリートが自分の手元を一定の期間離れる時に、その間にあまり怠惰な生活をしてdetrainingが起こらないように、「これやっといて」と自主トレーニングプログラムを渡しておいて、さらに、休暇明けで戻ってきた時に体力測定を予定しておいて、ちゃんと自主トレーニングをやっていたかどうか確かめるぞ、と脅しをかける戦略を取ることはあります。だから、休みの期間中も自主的にトレーニングをやっておくという責任はアスリートにもあったのかもしれません。

しかし、このオレゴン大学のケースは論外です。休み明けにやらせている内容がまったく意味がないし、横紋筋融解症(Rhabdomyolysis)で3人が病院送りになるなんて異常です。だって、横紋筋融解症は死に至る場合もあるんですよ。そんな状態まで追い込むなんて、アスリートの自主トレーニングが足りなかったということだけで説明できるものではありません。

まともなS&Cコーチを目指すのであれば、軍隊のシゴキみたいな理不尽なことをアスリートにやらせて「なめられないようにしよう」なんてバカげたことは考えず、アスリートにとって効果のあることをトコトン突き詰めて考えて与えることによって信頼を勝ち取ることを目指しましょう。

とりあえずキツいことをやらせて、シゴキをしたほうが簡単です。「時には理不尽なトレーニングをやらせることも必要だ!」なんて言い方で逃げたほうがラクです。でも、責任のあるS&Cコーチであれば、それよりもはるかに大変かもしれないけど、一生懸命勉強して、トコトン考えて、アスリートにやらせること全てに意味のある(説明できる)トレーニングを提供できるように努力をしてもらいたいです。

自分はそれだけの努力をしている自負があるので、このオレゴン大学のS&Cコーチのような人間が許せません。いつだって被害者はアスリートなんですから。

 

 

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【編集後記】

また論文査読をしました。今回はThe Journal of Strength and Conditioning Researchからの依頼でした。

これまでも「査読を無償でやるのはどうなんだろうな〜」と愚痴をこぼしていましたが、査読コメントを書く以外に最近は英語で文章を書く機会がないので、英語作文力維持のための練習と割り切ることにしました。ただし、自分が過去にやった研究に関連のある論文以外は断る、という基準を設けることにしました。

4月からは個人事業主。自分が仕事をしないと収入はないし、ひとり仕事なので時間も限られています。だから、「仕事を断る基準」を自分の中で設けて、少しずつその基準も見直しながら、自分なりのルールを確立していきたいと思います。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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