#10 モビリティについて Part 1:定義と必要性



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2008 Indianapolis Performance Enhancement Seminar DVD6枚組)を観ていて、その中の1枚の「Optimal Flexibility Training」というプレゼンが非常に勉強になりました。このDVD1枚を観るためだけに6枚組のDVDセットを購入する価値があると言っても言い過ぎではないくらいオススメです。

このDVDを観ていてインスパイアされてしまったので、自分の復習の意味も込めてモビリティについて語りたいと思います。DVDの内容をそのまま書いているわけではなくDVDでインスパイアされたトランス状態の私の個人的な意見を書いているだけですのでご承知おき下さい。 

 

モビリティの定義(静的柔軟性との違い) 

まず、「モビリティとは何ぞや?」という点から始めたいと思います。我々が一般的に言うところの柔軟性はもっと細かく言うと「静的柔軟性」と呼ぶことができ、単純に「ある関節における可動域」と定義されます。これは例えば、長座位体前屈で測定できるような能力の事を指します。

それに対して、モビリティは「動的柔軟性」とも呼ばれ、DVDではThe ability to achieve the desired movement in a certain situation under certain conditionと定義されています。この中でも特に後半の部分が重要で、モビリティについて語る場合は「何の動作におけるどの部位のモビリティか?」といったところを頭に入れておく必要があります。

また同様に重要なのが、モビリティと言った場合には、「動作をコントロールする能力」という意味合いが含まれるという事です(静的柔軟性では含まれない)。上記のモビリティの定義でも「The ability to achieve the desired range of motion」ではなくて「The ability to achieve the desired movement」となっている事からも、単純な関節可動域だけではなくて動作をコントロールする能力の重要性が示唆されています。たとえ静的柔軟性が優れていて関節の可動域が広くても、モビリティが伴っていなければ、逆に傷害のリスクが高まる可能性もあります。

また、静的柔軟性が必ずしも動的なスポーツ動作のパフォーマンスに直結するわけではありません。例えば、長座位体前屈テストのスコアが高いバスケ選手が、実際の競技中にルーズボールを拾い上げてすぐさまドリブルをして速攻からレイアップシュートを決められるとも限りません。

モビリティと静的柔軟性との違いをもう少し分かりやすく説明すると、例えば死体の足を持ち上げれば股関節は動くので「死体の股関節には静的柔軟性がある」と言えますが(死後硬直で固くなっているかもしれませんが)、死体は自らコントロールして足を上げるという動作を行う事ができないので、「死体には股関節のモビリティはない」と言えます。趣味の悪い例えですみません。 

 


なぜモビリティが重要か 

では、そもそもなぜモビリティが重要なのでしょうか?これには主に2つの理由があります。1つ目はパフォーマンス向上のため、2つ目は傷害のリスクを減らすためです。


パフォーマンス向上

まずパフォーマンス向上に関して、例えば体操競技やフィギュアスケート等においては、手脚を前後左右に大きく開く事のできる能力(すなわちモビリティ)が競技成績に直結するので、モビリティの重要性は明らかでしょう。

これ以外の競技(例えば野球や陸上競技)においても、力を発揮する事のできる関節可動域(=モビリティ)を広げる事によって、ボール等の外部の物体や自分自身の身体に対してより大きな力積(ちょっと専門的なバイオメカニクス用語ですが)を加える事ができるようになり、その結果としてより速いボールを投げたり高くジャンプしたりする事につながります。


傷害リスク低減

一方、傷害のリスク低減にモビリティが貢献するという点に関しては、いくつかの要因が挙げられます。例えば、スポーツ場面で自分の姿勢がコントロールできずにどこかの関節が自らの持っている能力以上に動いてしまった場合(例:フェンシングでバランスを崩したり足を滑らしたりして脚が前後に開きそうになった時)は傷害のリスクが高まります。もし優れたモビリティ能力を有していれば、自分の姿勢や関節の動きをより良くコントロールする事ができるので、フェンシングの例で言うと、完全に脚が前後に裂けてしまう前に自らの姿勢をコントロールし直す事ができますし、たとえ完全に裂けるとしてもそのときのスピードを遅くすることで身体に対するダメージを軽減する事ができます。また、高いモビリティ能力を有していれば、上記のような場面で傷害につながる関節可動域に到達するまでの「遊び(緩衝域?)」が広がるので、傷害のリスクを減らす事ができます。

さらに、ある関節のモビリティが不足している場合、その負担が身体の他の場所にかかってしまい、慢性的な痛みや傷害を引き起こす事もあります。例えば股関節のモビリティが不足していると、その足りない動きを補おうとして必要以上の腰椎の動きにつながり、結果として腰痛になるという事が考えられます。これを予防するためには股関節のモビリティ向上が欠かせません。



まとめ 

以上のように、モビリティ向上には2つの大きな目的があります。しかし、すべてのアスリートがモビリティを最大限に向上する必要があるわけではありません。また、関節によってもモビリティの必要度は異なります。このあたりの議論については、次回詳しくしていきたいと思います。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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