先日、「爆発的パワー向上の科学的基礎」というタイトルでセミナーを実施しました。
このテーマでのセミナーは、まだJISSに勤務していた2015年にNSCAジャパンからご依頼をいただいて実施したのが最初です。
» 参考:【セミナー】大宮でセミナー講師を務めました「爆発的パワー向上の科学的基礎」
同テーマでのセミナーは、内容のアップデートを重ねながら、これまで合計9回実施してきました。
私の大学院修士課程での研究テーマでもあり、個人的には世界でもトップクラスに詳しいと自負しているトピックです。
今後も最新の科学的知見をアップデートしながら、繰り返し定期的にセミナーを企画できたら、と考えています。
これまで「爆発的パワー」の定義を説明していなかった理由
これだけ個人的に思い入れのあるテーマでありながら、「爆発的パワー」という言葉が何を指しているのかについて、これまでブログ等では解説をしてきませんでした。
セミナー内では、もちろん解説をしています。それなりの時間を割り当てて、かなり詳しく。
でも、だからこそ「爆発的パワー」という言葉の解説も有料セミナーで提供する価値の一部だ、と考えてしまい、ブログ等で無料で発信することを躊躇っていたのかもしれません。
「有料でセミナーに参加してくださっている方々に対して申し訳ない」みたいな感じで。
しかし、逆の立場で考えてみると、「爆発的パワー」が何なのかもわからないのに、それをテーマにしたセミナーに参加する、というのは難しいですよね。
私のセミナーは相場と比べると参加費が高い分、なおさら躊躇するかもしれません。
また、セミナー以外でも、ブログやSNSで私は「爆発的パワー」という言葉をたびたび使いますが、その定義を理解してもらっていないと、伝えたいことも伝わらない恐れがあります。
そこで、「爆発的パワー」という言葉の定義について、ブログで解説をすることにしました。
最低限のベーシックな部分だけの解説になるので、より詳しい説明についてはセミナーや動画教材に譲りたいと思います。
私が「爆発的パワー」と呼んでいるものの正体
まず、「爆発的パワー」を文章で定義すると、以下のようになります:
投げる/跳ぶ/走る/打つなどのスポーツ動作においてパフォーマンスを最大限に発揮するために、短時間で大きな力積を発揮して、外的な物体または自分の身体を最大限に加速させる能力のこと
ここでポイントとなるのが以下の2点です:
- ①実際に何かが爆発するわけではない
- ②力学的には「パワー」ではなく「力積」を発揮する能力のことである
①実際に何かが爆発するわけではない
「爆発的」という言葉が入っていますが、実際に何かが爆発するわけではありません。
バーベルは爆発しないし、トレーニングしている人の身体も爆発しません。
しかし、「爆発的」という言葉には「物事が突然はげしい勢いで起こるさま。急激に広まるさま」という比喩的な意味があります。
たとえば、「怒りが爆発する」とか「爆発的な売れ行き」といった表現がそれにあたります。
どちらも、実際には何も爆発しているわけではありませんが、比喩表現として「爆発(的)」という言葉が使われています。
それらと同様に、私が「爆発的パワー」という言葉を使うときには、「短時間で素早く大きな(出力をする)」という比喩的な意味合いを持たせているつもりです。
そのような形での「爆発的」という言葉の使い方に関連して、最近「『爆発的(explosive)』という表現は国際単位系で定義されたものではないから使用すべきではない」と主張する論文が発表されました。
そして、それに対して反論する論文が発表され、それに対して再反論する論文も発表されています。
この議論は面白いので、ぜひチェックされることをオススメします。
- Ide, B., Silvatti, A., Staunton, C., Marocolo, M., Oranchuk, D., & Mota, G. (2023). Explosive is not a Term Defined in the International System of Units and Should not be Used to Describe Neuromuscular Performance. International Journal of Strength and Conditioning, 3(1).
- Schumann, M., Feuerbacher, J. F., Alcazar, J., Behm, D. G., Granacher, U., Häkkinen, K., & Walker, S. (2024). Comment on: “Explosive is not a Term Defined in the International System of Units and Should not be Used to Describe Neuromuscular Performance”. International Journal of Strength and Conditioning, 4(1).
- Ide, B., P. Silvatti, A., A. Staunton , C., Marocolo , M., J. Oranchuk , D., & R. Mota , G. (2025). Response to the Comment on our Article: “Explosive is not a Term Defined in the International System of Units and Should not be Used to Describe Neuromuscular Performance”. International Journal of Strength and Conditioning, 5(1).
この議論は、そもそも研究者同士によるもので、論文や研究という文脈で「爆発的(explosive)」という表現を使うべきか否か、という話です。
なので、現場で働くS&Cコーチの視点とは少し異なるので、その点は注意してお読みいただければと思います。
ちなみに、現場で働くS&Cコーチとしての私の意見は、「ニュアンスの伝わりやすさを重視して比喩的な表現として『爆発的』という言葉を使うぶんには問題ないっしょ!」です。
②力学的には「パワー」ではなく「力積」を発揮する能力のことである
私が「爆発的パワー」という言葉を使うときには、「外的な物体または自分の身体を最大限に加速させる能力のこと」を指しています。
つまりは「加速能力」ということです。
で、物体の「加速」には「力積」が直接的に貢献します。
これは、「物体の運動量の変化は受ける力積と等しい」ことから導かれます。
※この辺は力学やバイオメカニクスの話になりますが、詳細は割愛します。
つまり、「パワー」という言葉が入っていますが、力学的には「パワー」ではなく「力積」を発揮する能力を指して「爆発的パワー」と呼んでいるのです。
「だったら、『爆発的力積』と呼べばいいじゃないか!」と思われた読者もいるかもしれません。
私自身、力学的な正確性を重視して「爆発的力積」と呼ぼうかどうか、迷ったこともあります。
ただ、「爆発的力積」という言葉を使っても、私が意味しているものが相手に伝わるか?と考えたら、おそらく伝わらないだろうな〜と思います。
やっぱり「爆発的パワー」と言ったほうが、私が伝えようとしているもののニュアンスは伝わりやすいはずです。
なぜなら、私が「爆発的パワー」と呼んでいるものが、一般的には「パワー」と呼ばれることが多いからです。
たとえば、ピリオダイゼーションの文脈で「筋肥大期→筋力期→パワー期」みたいな感じで「パワー」という言葉が使われることがあります。
多くの人が「パワー」という言葉に馴染みがあるはずなので、「爆発的力積」と言うよりも「爆発的パワー」と言ったほうがなんとなく伝わりやすいのではなかろうか、ということです。
「だったら、従来どおり『パワー』と呼んでおけばいいじゃないか!わざわざ『爆発的パワー』なんて言い換える必要ないだろ!」と思われた読者もいるかもしれません。
ただ、「パワー」だけだと力学的な意味のパワーとの差別化が難しいので、力学的な意味のパワーとは違うんですよ、という意味合いで意図的に「爆発的」という言葉をくっつけている感じです。
さらには、単純に「パワー」だけだと、持久系競技で長時間にわたって低い出力を発揮し続ける場合も当てはまるので、それとは差別化するために「爆発的」という言葉をくっつけています。
まとめ
私が「爆発的パワー」と呼んでいる体力要素が何なのか、解説しました。
「力学的な正確性」と「伝わりやすさ」の両方を完璧に満たしてくれる100点満点の用語があればよいのですが、ないので、私なりに丁度よいバランスを探った結果、今のところは「爆発的パワー」という呼び方が良いだろう、ということに落ち着いています。
より詳しく知りたい方は、「爆発的パワー向上の科学的基礎」セミナーを収録した動画教材の購入をご検討ください。
「爆発的パワー」の向上方法についても完全解説しています。
2週間前に、2020年以来5年ぶりに内容をアップデートしたセミナーを実施して、それを収録した動画教材をちょうど本日から販売開始したところです↓

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【編集後記】
オンラインでのパーソナルトレーニング指導を見据えて、iPhoneを12から16Plusに機種変更しました。
カメラ機能がUPして、画面も大きくなったので、これを活用してオンラインでの指導を近いうちに始めようと思います。