#58 【論文レビュー】持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを両方実施するとレジスタンストレーニングの効果が薄れる

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 プログラムデザイン, 論文レビュー


 

Alex

 

持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを同時に実施すると、レジスタンストレーニングのみを実施する場合と比較してレジスタンストレーニングの効果(筋力向上、筋パワー向上、筋肥大etc)が阻害されるという現象(interference effectとかinterference phenomenonと呼ばれます)は、1980年のHicksonの論文[1]をはじめとして、これまで多くの研究によって報告されてきました。

逆に、持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを同時に実施すると、持久力トレーニングのみを実施した場合と比較して持久力向上が阻害されるという報告はほとんどありません。つまり、このinterference effectはレジスタンストレーニングの効果に対してのみ見られる一方向的な現象であると言えます。

今回は、このinterference effectに関する過去の研究をまとめてその効果をmeta-analysisという手法で分析した論文[2]を紹介します。

 

 論文内容のまとめ

  • レジスタンストレーニングのみを実施した場合とレジスタンストレーニングと持久力トレーニングを両方実施した場合のトレーニング効果を比べると、筋肥大と筋力向上については統計的な有意差は見られなかったが、筋パワー向上については統計的に有意なinterference effectが見られた→筋肥大や筋力よりも筋パワーのほうがinterference effectの影響を受けやすい
  • 下半身メインの持久力トレーニングを実施した場合、レジスタンストレーニング効果に対するinterference effectは下半身のみに見られて、上半身には見られない→interference effectは持久力トレーニングが主にターゲットにする身体の部位に特異的に見られる現象である
  • レジスタンストレーニングによる効果に対するinterference effectは、実施した持久力トレーニングの量(週あたりの頻度、一回あたりのトレーニング時間)が多いほど大きい傾向にある
  • 最大酸素摂取量に対するトレーニング効果に関して、持久力トレーニングのみ実施した場合と持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを実施した場合を比較した時に、統計的に有意な差は見られなかった(interference effectなし)→持久系アスリートがレジスタンストレーニングを取り入れる事による悪影響の心配は必要なし
  • 体脂肪減少に対するトレーニング効果に関しては、統計的に有意なinterference effectは見られない

 

個人的な感想

特別に新しい発見は見られませんでしたが、これまで個々の研究で報告されてきたinterference effectに関する一般的な情報が、meta-analysisという統計手法によりまとめられてさらに強いエビデンスとして提示されたという印象を持ちました。つまり簡単に言うと、「レジスタンストレーニングと持久力トレーニングを同時に実施すると、前者のトレーニング効果が阻害される(特に筋パワー)が、一方後者のトレーニング効果には悪影響がない」という事です。

この論文が提供するエビデンスをどのように解釈してどのように実際のトレーニングに活用するかは、アスリートの種類によって異なります。例えば、ウエイトリフターや陸上の投擲選手のように筋パワーが重要で有酸素系持久力はほとんど必要のない種目においては、有酸素系の持久系トレーニングを実施するのをできるだけ避けるべきです。interference effectの可能性があるので。

一方、持久系アスリートに関しては、レジスタンストレーニングを実施しても有酸素系パワーや能力に悪影響はなく、逆にレジスタンストレーニングを実施する事によるプラス効果が期待されるので、レジスタンストレーニングを積極的かつ適切に取り入れる事が推奨されます。

また、持久力と筋力・筋パワーの両方が求められるような種目(球技種目やラケット系種目)のアスリートに関しては、interference effectをできるだけ抑えつつ両方のトレーニングを実施する必要があり、両者のトレーニングをどのくらいの割合で実施するかはアスリートの長所・短所やトレーニング時期、ポジション、種目特性etcに応じてS&Cコーチが判断しなくてはいけません。

※この記事を読んで興味を持った方は、論文のPDFを手に入れて自分で全文読んでみて下さい。

 

参考文献

[1] Hickson RC. Interference of strength development by simultaneously training for strength and endurance. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1980;45(2-3):255-63.

[2] Wilson JM, Marin PJ, Rhea MR, Wilson SM, Loenneke JP, and Anderson JC. Concurrent training: a meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. J Strength Cond Res. 2012;26(8):2293-307.

関連記事

#72 矛盾:レジスタンストレーニング初心者がトレーニングを始める時

私が学生時代に抱いた疑問 私が大学生の時、スポーツ生理学やレジスタンストレーニング

記事を読む

#299 バスケ選手みたいに背が高くて大腿部の長いアスリートのウエイトトレーニングについての考察

    今の職場での契約も来年度で終わるので、その後はバスケチーム等を指導したいな〜と思って

記事を読む

#291 多関節エクササイズ中心にトレーニングするのが原則だけど、別に単関節エクササイズをやっちゃダメと言ってるわけじゃないんだから♡

    最近はブログ閲覧数も増えてきて、たくさんの人に読まれているプレッシャーが無意識にあり

記事を読む

#309 ウエイトトレーニングの挙上重量が伸びるスピードはエクササイズによって違う(動員される筋線維の数が違うから)

    ウエイトトレーニングにおいては漸進性過負荷の原則にもとづいて、少しずつ挙上重量を増や

記事を読む

#248 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載③】体幹トレーニング

     月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズ

記事を読む

#36 【論文レビュー】アクチベーションドリル その1

前回のブログでアクチベーションドリルとは何ぞやという事について書きました。今回は、このア

記事を読む

#283 速筋線維を鍛えるにはオールアウト(training to failure)しないとダメ?

    「ジャンプやスプリントのような爆発的な動きにおいては速筋が大事で、サイズの原理にもと

記事を読む

#4 両脚エクササイズor片脚エクササイズ?

    ファンクショナルトレーニングというコンセプトを世に広めたMike Boyleという米

記事を読む

#279 前額面のパフォーマンスUPのために、まずは矢状面メインのストレングスエクササイズで筋力を上げてみる、という考え方

    前額面における動き、つまり横方向の移動能力が重要な競技は色々とあります。じゃあ、前額

記事を読む

#63 やっぱりトレーニング初心者に高レップ数はNO!

    以前のブログでトレーニング初心者に高レップ数を実施させるのはよろしくないという主張を

記事を読む

  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

    • 166今日の訪問者数:
    • 938昨日の訪問者数:
PAGE TOP ↑