#658 【論文レビュー】スクワットのしゃがむ深さが筋肥大効果に及ぼす影響

※本ブログはアフィリエイト広告を利用しています

 

Hipcravo eFx1KZhaSvo unsplash

 

スクワットにおける「しゃがむ深さ」

ウエイトトレーニングにおける可動域の大きさ、とくに「スクワットのしゃがむ深さ」は多くの関心を集めるトピックです。

本ブログでも、スクワットのしゃがむ深さに関する論文をいくつか取り上げてきました。

» 参考:【論文レビュー】スクワットのしゃがむ深さがトレーニング効果や痛みに与える影響

» 参考:【論文レビュー】スクワットの深さがジャンプパフォーマンスに与える影響

 

これらは、スクワットのしゃがむ深さがジャンプ等のパフォーマンスに与える影響について主に調べた研究でした。

つい最近、スクワットのしゃがむ深さが筋肥大に与える影響について調べた論文が発表されたので、紹介します。

 

 

論文の内容

Kubo et al. (in press) Effects of squat training with different depths on lower limb muscle volumes. Eur J Appl Physiol.

 

研究プロトコル

少なくとも過去1年間トレーニングをやっていない健康な男性を2つのグループに分けて、スクワット(SQ)を週2回10週間3セット×8レップ実施してもらった。

  • ①フルSQ群:膝が約140°曲がるまでしゃがむ
  • ②ハーフSQ群:膝が約90°曲がるまでしゃがむ

10週間のトレーニング期間の前後に、MRIで下半身右側の断面図を10mm毎に撮影して、各筋肉の筋量を計算した。

※他にも1RM等がトレーニング期間前後に測定されていますが、本ブログでは「筋量」についてのデータにフォーカスして議論を進めます。

 

結果

主な結果を図でまとめてみます。

NewImage

 

上図の「膝伸筋群」は、大腿四頭筋を指しています。トレーニング前後で両グループに有意な肥大が認められますが、グループ間で差はありません。

また、「大腿直筋」は「膝伸筋群」を構成する4つの筋肉のうちの1つですが、他の3つは有意な肥大が認められたのに対して、「大腿直筋」だけは両グループともに筋量に変化が見られなかったと報告されていたので、この筋肉だけあえて取り出して、上図に含めました。

「ハムストリング」に関しても、「大腿直筋」と同様に、両グループとも筋量に変化は見られませんでした。

「内転筋群」は、大内転筋・長内転筋・短内転筋をすべて足し合わせたものです。トレーニング前後で両グループに有意な肥大が認められますが、その変化量はフルSQ群のほうが有意に大きいです。

同様に、大殿筋においても、トレーニング前後で両グループに有意な肥大が認められますが、その変化量はフルSQ群のほうが有意に大きいです。

 

 

考察

最も注目すべき結果は、内転筋群と大殿筋の筋肥大効果はフルSQのほうがハーフSQよりも大きいということです。

これらの筋群をデカくしたい場合は、スクワットにおいて深くしゃがんだほうが効果が高そうです(「べつにスクワットじゃなくても他のエクササイズでこれらの筋群を鍛えればいいだろう」という意見はとりあえず横においておいて)。

 

また、筋肉をデカくすることを目指しておらず、競技力向上に繋げるためにスクワットをしているアスリートにとっても、このデータから得られる示唆は興味深いです。

というのも、内転筋群と大殿筋がスクワットで深くしゃがむことで太くなったということは、深くスクワットをするとこれらの筋群が使われている・鍛えられていることを示唆しているからです。

たとえ筋肥大は求めていなかったとしても、内転筋群と大殿筋の筋力向上を狙ってスクワットするのであれば、深くしゃがんだほうがいいかもしれません。

もし、筋肥大(というか体重増加)はさせずにこれらの筋群を鍛えたいのであれば、栄養やらトレーニング量を調整すればいいだけです。

 

内転筋群はその名の通り、「股関節内転」が主な働きと思われがちですが、フルSQ時のように股関節の屈曲角度が大きい場合は「股関節伸展」の役割も果たします(とくに大内転筋)。

大内転筋を「第4のハムストリング」と呼ぶこともあるほどです(まあ、この研究結果を考えると、大内転筋はハムストリングとは別物と捉えたほうが良さそうですが)。

そのような解剖学的な役割を考えると、股関節がより屈曲した状態で股関節伸展をすることになるフルSQのほうがハーフSQよりも内転筋群の筋肥大効果が高かったのも頷けます。

 

大殿筋に関しては、スクワットで深くしゃがんだほうが筋活動レベルが高くなることが筋電図を用いた研究で以前から報告されていました(Caterisano et al. 2002)。

私なんかは、この論文をもとにして「深くスクワットしたほうがケツに効くよ!」なんて言っていたのですが、筋電図のデータはあくまでも長期トレーニング効果を予測する手がかりにすぎません。

実際に数週間〜数ヶ月間トレーニングをやってみたら、筋電図が示唆したのとは異なる結果が出ることも珍しくありません。

そういう意味では、10週間のトレーニング研究によって、フルSQのほうがハーフSQよりも大殿筋肥大効果が高かったと報告した今回の論文は、とても大きな価値があると思います。

 

短期間で終わるような筋電図とかを用いた研究と比べて、長期間かかるトレーニング研究ってやるのは本当に大変なんですよね。

私も博士課程の研究でやったからその大変さはわかります。手間暇がめちゃくちゃかかるんです。

同じ論文1本でも、トレーニング研究の論文は5本ぶんくらいの価値があると個人的には思います。

 

さらに言うと、大殿筋の筋肥大効果を調べる研究って少ないんです。

周径を図ったり、超音波で筋厚を計測したり、が難しいので。

だから、トレーニングによる筋肥大効果を調べた研究では、もっぱら大腿四頭筋とかハムストリングのデータが報告されるばかりで大殿筋のデータは少ないんです。

それを今回紹介した研究ではMRIを使ってしっかりと調べているんです。

なんて素晴らしいんでしょうか!!

10週間のトレーニング研究という点と大殿筋の筋量をMRIで調べている点。

この2点をもってして、この研究を実施した東大の研究グループの皆さんに大拍手を送りたいと思います。パチパチパチ!!

 

少し話がずれましたので戻ります。

次に「膝伸筋群」について見てみると、グループ間で差はないというデータが報告されています。

私のイメージでは、スクワットで深くしゃがむとケツが鍛えられて、しゃがみが浅いと大腿四頭筋がメインで鍛えられると考えていましたが、少なくとも今回のデータによると、大腿四頭筋の筋肥大効果においても、浅くしゃがむハーフSQのアドバンテージは見られなかったということです。

だったら深くしゃがんだほうが、内転筋群と大殿筋も鍛えられるんだから一石二鳥なのでは、と思ってしまいます。

 

また、もう1つ興味深いのは、大腿四頭筋全体ではトレーニング前後で有意な筋肥大が見られたのに、大腿直筋には筋肥大が見られなかったという点です。

推測でしかありませんが、おそらく大腿直筋が「二関節筋」であることが原因だと考えられます。

大腿四頭筋の他の3つの筋肉は膝関節だけを介している一方、大腿直筋は膝関節と股関節の2つを介しています。

スクワットでしゃがむときは、膝関節が曲がるので大腿直筋の下の方は伸ばされそうですが、股関節も曲がるので大腿直筋の上部は緩むはずで、結果として大腿直筋全体はあまり長さを変えないものと推測されます。

つまり、二関節筋である大腿直筋は、スクワット実施時にほぼアイソメトリックに近い状態で力を発揮していると考えられ、ダイナミックにエキセントリックとコンセントリックを繰り返す他の内側広筋・外側広筋・中間広筋よりも筋肥大効果が少なかったのではないかということです。

 

ハムストリングにおいて有意な筋肥大が見られなかった理由についても、大腿直筋と同様に「二関節筋」というキーワードを使えば説明がつきそうです。

つまり、ハムストリングは大腿二頭筋短頭以外は股関節と膝関節を介している二関節筋であり、スクワット中はほぼ長さを変えずにアイソメトリックに近い状態で力を発揮していると考えられるので、結果として筋肥大効果が乏しかったということです。

ハムストリングを鍛えたいのであれば、別途、RDL等で直接ダイナミックなトレーニング刺激を加える必要がありそうです。

 

 

Limitations

被験者が非鍛錬者であった点は心にとめておいてもいいでしょう。

このデータがトレーニングを日常的にやっている経験者にそのまま当てはまるかどうかは不明です。

ただ、トレーニング始めたばかりで最初の10週間でも筋肥大が見られたというのは、それはそれで興味深いデータでもあります。

教科書的に考えると、トレーニング開始直後の筋力向上は主に神経系の適応で、筋肥大が起こるのはしばらくたってからと一般的に言われているので。

 

また、本研究ではあくまでも各筋の「筋量」の変化を見ているにすぎないので、それが必ずしも各筋の「筋力」向上効果とイコールではないことも理解しておく必要があります。

とくにここ最近は研究の世界において「筋力向上に筋肥大は必要か?」的な議論がホットになってきていますし。

 

最後に、一言で「スクワット」といってもやり方はさまざまです。

そしてやり方が変われば、トレーニング効果、とくにどの筋群に刺激が行くかは大きく変わる可能性があります。

なので、本研究のデータは興味深いものではありますが、すべてのスクワットのやり方に当てはまるとは限りません。

 

 

まとめ

私はもともとスクワットでは狙ったフォームを維持できる範囲内で深くしゃがませる派です。

また、スクワットでは「ケツ」の筋力アップをメインの狙いとしています。

今回ご紹介した研究データは、そんなS&Cコーチとしての私のやり方を後押ししてくれるようなデータとなりました。

今後もさらに自信をもって、基本的にはスクワットでは深くしゃがませる指導を続けようと思います。

 

ちなみに、二関節筋がどうこう、という解剖学にもとづいた考察について、イマイチ理解できなかった、という方には、以下の書籍で勉強されることをオススメします。

少し難しい内容なので、余計理解できないかもしれませんが、「理解できない」ということを知るだけでも意味があると思います。

 

 

|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

【編集後記】

梅雨らしい天気になってきましたね。

汗っかきの私は、湿気が1番キライです・・・。