先日、以下のようなつぶやきをしました。
バスケ界では「インテンシティ」という言葉が使われることがあります。
練習や試合における「激しさ」みたいなものと、私は理解しています。
私もS&Cコーチとして「インテンシティを高めるようなトレーニングをしてくれ」とバスケコーチから依頼されることがあります。https://t.co/0ih9Vkcg9B
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
つぶやきはこの後もしばらく続くので、興味のある方は全部読んでみてください。
今日のブログでは、この点について深掘りしてまとめたいと思います。
バスケ界における「インテンシティ」とは?
冒頭のツイートで紹介したネット記事において、男子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチのコメントが紹介されています:
選手たちの気持ちがさらに強くなり、自信も芽生えています。練習中のインテンシティが本当に高く、常にアグレッシブにプレーしています
この「インテンシティ」という言葉は、バスケ界で最近使われることが増えてきたように思います。
サッカー界では、もっと昔から「インテンシティ」という言葉が使われていた印象です。
イングランドのプレミアリーグは世界でもインテンシティがトップレベルに高いリーグだ、なんて寸評を聞くこともありますし。
私自身は、バスケコーチとのコミュニケーションを通じて、練習や試合における「激しさ」みたいなものを指す抽象的な言葉が「インテンシティ」である、と理解しています。
もう少し具体的に言うと
- ディフェンスでボール保持者にプレッシャーをかける
- ディフェンスリバウンドでしっかりとボックスアウトやスクリーンアウトをする
- オフェンスリバウンドに飛び込む
- ゴール下のポジション争いでフィジカルに激しく身体をぶつける(ファールにならないよう注意しながら)
- トランジション(攻守が切り替わる)時にがんばって走る
等のプレーを高い意識で激しくやることを「インテンシティが高い」という言い方をするのかな〜と思います。
他の方の解釈を知りたい方は、こちらのリンク先の記事も読んでみてください↓
参考 バスケットボールにおけるインテンシティ(強度)の意味と高め方“ゴールドスタンダード・ラボ”
バスケの「インテンシティ」を高めるようなトレーニングって?
たしかに、強いチームと弱いチームを比べてみると、前者は高いインテンシティでプレーしていることが多いです。
また、普段の練習から高いインテンシティでプレーをすることができれば、チームとしても個人としても成長するだろうし、試合でも勝つ確率が高まるだろうことも、容易に想像がつきます。
だからこそ、バスケコーチたちは、練習や試合における「インテンシティ」を高めることに苦心されているのでしょう。
私もS&Cコーチとしてプロや高校でバスケチームに携わる機会がありますが、「インテンシティを高めるようなトレーニングをしてくれ」とバスケコーチから実際に依頼されたことがあります。
私もコーチからの依頼に応えたい気持ちで、どうやったらトレーニングで「インテンシティ」を高めることができるのか、いろいろと考えてみました。
その上での私なりの結論は「体力的なトレーニングでバスケのインテンシティを高めることは難しい」というものでした。
私なりにバスケ界で使われる「インテンシティ」というものを理解しようと、練習や試合を見学していて気づいたのは、「インテンシティ」というのは体力的な能力を指しているのではなくて、選手たちの意識とか意欲の問題である、ということです。
たとえば、試合の前半に、相手チームのインテンシティが予想以上に高く、大きく点差をつけられてしまった時に、ハーフタイム中にコーチからの激が飛び、選手たちも気持ちを切り替えて後半に臨んだ結果、インテンシティで相手を上回るプレーを見せて逆転勝ちをする、なんてことがありました。
前半中は体力が低かったのに、後半になって急に体力が向上した、なんてことはありえません。
体力はそんな急に向上しないので。
ということは、前半と後半の「インテンシティ」の差は、体力的な問題ではなく、やはり選手たちの意識とか意欲の問題なのではないか、と考えられるのです。
もし、そうした私の考察が正しければ、「インテンシティを高めるような(体力的な)トレーニング」というものは存在しない、ということになります。
だから、「インテンシティ」を高めるのはS&Cコーチの役割ではない、というかS&Cコーチにはできない、というのが私の結論です。
バスケの「インテンシティ」を高めるのは誰の役割?
選手一人一人の意識とか意欲の問題なので、インテンシティを高めることができるのは、究極的にはアスリート本人です。
アスリートの意識が変わらないと、どうしようもありません。
ただ、アスリート自身は意識や意欲が高く、やる気があったとしても、具体的にどうすれば高いインテンシティでプレーできるのかわからない、ということがあるかもしれません。
「アグレッシブにプレーするぞ!」というやる気だけが空回りして、ファールばかりしてしまうようでは、インテンシティが高まっているとは言えません。
そういうケースにおいては、より具体的な方法論を提示して導くのは、バスケコーチの役割だと私は思います。
また、高いインテンシティでプレーをする必要がある、ということがイマイチ理解できていないようなアスリートに対して、それを指導するのもバスケコーチの役割でしょう。
もし、どれだけ指導しても高いインテンシティでプレーする意欲を見せないアスリートがいたら、チームから外して他の選手と入れ替える、というのが健全な競争原理だと思います。
日本代表の場合は、選手の入れ替えがしやすいので、そのような競争原理が働きやすい環境であるといえます。
また、チーム内に高いインテンシティでのプレーを体現しているベテラン選手がいたら、それを見て周りの選手のインテンシティが引き上げられるようなこともあるでしょう。
そういう流れが続いているチームには、高いインテンシティでプレーをすることが文化として根付いている、ということになるのだと思います。
また、高いインテンシティでプレーしている他のチームと試合をすることで、「あ、これが高いインテンシティでプレーするってことなのか!」と学び、その後の練習や試合でのインテンシティが高まる、ということもあるかもしれません。
つまり、インテンシティを高める上では、「環境」という要素も非常に大きいのではないかと考えられるのです。
この「環境」というのは、先程述べた競争原理が働きやすい環境というのも含まれますが、バスケコーチが整備することができる部分もあれば、バスケコーチにはコントロールしようがない部分もあります。
そのように論理的に考えると、バスケの「インテンシティ」を高めるのにS&Cコーチができることはほとんどない、やりたくてもできない、というのが私の結論です。
そんなことを言うと冷たく聞こえるかもしれないし、「河森はチームの勝利に貢献するつもりがないのか!」と思われるかもしれません。
しかし、できないものはできないんです。
専門家としては、自分ができることとできないことを冷静に分析して認識しておくことが重要です。
できないことを無理してやろうとしてもプラスにならないどころか逆にマイナスになりかねません。
私だって専門外のことを一切したくない、というわけではありません。
モップがけだろうがシュート練習中のボール拾いだろうが、專門ではなくても自分ができることはやります。
それらは、私の專門外のことではありますが、専門外でもできることであり、専門外の私がやってもチームにとってマイナスになるリスクはないからです。
一方、S&Cコーチがバスケの「インテンシティ」をトレーニングで高めようとすることは、専門外のことであり、できないことであり、無理してやろうとするとトレーニングの内容を変更することで本来のトレーニング効果が低下してしまう、つまりチームにとってマイナスになりうることです。
チームの一員として、感情的にはバスケの「インテンシティ」を高めるお手伝いをしたいという気持ちはありますが、専門家として感情論ではなく論理的に考えてチームにとってベストの選択をするのが本当の責任ってもんだろうと思います。
なかなかそのあたりをバスケコーチに伝えて理解してもらうのは難しいので、コミュニケーションをうまくする必要があるのは間違いないですが。
S&Cコーチが専門家としてできること?
バスケの「インテンシティ」を高めることにS&Cコーチが直接的に貢献するのは難しいです。
しかし、高い「インテンシティ」でプレーをする下支えをすることは可能だと私は考えます。
たとえば、アスリートの意識だったりバスケコーチの指導だったり環境だったりが整うことで、高いインテンシティでプレーをできるようになった場合、ケガのリスクが高まることが想定されます。
S&Cコーチとしては、トレーニングによって体力を向上することで「ケガのしづらい身体づくり」という点から、その下支えをすることが可能です。
また、トレーニングによって体力を向上することで、「絶対的なインテンシティ」を高めることも可能だと思います。
いきなり「絶対的」という言葉が飛び出しましたが、私は「インテンシティ」には相対的なものと絶対的なものが存在すると考えています。
今回のブログ記事でここまでお話してきた内容は、「相対的なインテンシティ」に相当します。
つまり、自分が持っている能力を最大限引き出してプレーをするために、意識を高く持って練習や試合に臨むというお話です。
一般的にバスケの「インテンシティ」という話をする場合は、こちらのことを指すケースが多いのではないかと思います。
一方で、自分の持っている能力を100%引き出して高いインテンシティでプレーをしていても、たとえば日本の高校生のインテンシティとNBAチームのインテンシティは全然違うはずです。
同じだけの高い意識(=相対的なインテンシティ)でプレーしていても、筋力や持久力等の体力が向上すれば、「絶対的なインテンシティ」は高まるよね、ということです。
そういう意味で、S&Cコーチとしては高い「インテンシティ」でプレーをする下支えをすることができるはずです。
こんなことを言うと「なんだ、結局S&Cコーチだってトレーニングでインテンシティを高めることができるんじゃないか?」と思われるかもしれません。
しかし、私の経験上、バスケコーチが求めている「インテンシティ」は「相対的なインテンシティ」であるケースがほとんどであり、やはりそこはS&Cコーチの専門外です。
また、「絶対的なインテンシティ」を高めるためになにか特別なトレーニングが必要というわけではなく、S&Cコーチが指導する通常のトレーニングで体力が向上すれば、自ずと「絶対的なインテンシティ」も向上する、というだけのことです。
したがって、S&Cコーチの立場としては、やはりバスケの「インテンシティ」を高めることに直接貢献するのは難しいけど、その下支えをすることは可能です、というスタンスが適切だと私は考えます。
まとめ
今後もS&Cコーチとしてバスケチームに携わるうえで、バスケコーチから「インテンシティを高めるようなトレーニングをしてくれ」と依頼される可能性があります。
その時に、うまく自分の考えをまとめてコミュニケーションを図れるように、ブログ記事を書くことで頭の中を整理してみました。
このテーマについては、科学的にどうこうという類のものではなく、私の個人的な考え方なので、絶対的に正解とは言い切れません。
異なるご意見をお持ちの方は、ぜひSNSやブログ等で発信してみていただければと思います。
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【編集後記】
バスケといえば、ワールドカップがあと2週間ほどに迫ってきましたね。
前回は5戦全敗という結果で、「試合の終盤に足が止まってしまう」という声も聞かれましたが、この4年間でどう進歩したのか。
とても楽しみですね。
日本共同開催なので、時差に悩まされずにテレビ観戦できるのがありがたいです。