新型コロナウイルスの影響で、スポーツがまったくできない自粛期間が数ヶ月ほどありました。
また、自粛期間が終了し、徐々にスポーツを再開できるようになってはきましたが、まだまだ制限があることが多いでしょう。
コロナ前とまったく同じ環境で練習や試合ができているケースのほうがレアだと思います。
そんな状況のなかで、私もトレーニング指導を再開してしばらくたち、気づいたことがあります。
それは、あきらかにコロナ自粛の影響によるものです。
これは、今後、数ヶ月〜数年ほどの期間中にトレーニング指導をするうえで知っておくべきことだと感じたので、ブログでシェアします。
新型コロナウイルスが遺していったもの
これからお話する内容は、私が担当している限られた人数のアスリートを観察していて感じたことにすぎません。
何百人ものアスリートのトレーニング指導をしているわけではないので、私が感じたことがどれほど一般化できるかはわかりません。
また、トレーニング指導に対するアプローチが私とは異なる場合は、当てはまらないかもしれません。
そんなことを踏まえたうえで、1つの意見として参考にしていただければ。
まず、トレーニング指導の専門家として、新型コロナウイルスの影響でいつもとは異なる現象が見られているな、と感じた点が2つあります:
- ①いつもより筋力向上効果が高い
- ②爆発的パワーが低下している傾向がある
①いつもより筋力向上効果が高い
とくに、コロナの影響で、通常よりも競技練習の頻度や量が大幅に減っているアスリートが、ウエイトトレーニング自体は通常通り実施できているケースに当てはまることです。
筋力がグングンとUPしているのです。
しょっちゅう筋力測定しているわけではないですが、トレーニングで挙上する重量をモニターしていると、いつも以上にグングンと増えています。
おそらく、競技練習の量が減ったことが原因だと考えられます。
私がそのように推察する前提として、「競技練習とウエイトトレーニングを両方実施すると、ウエイトトレーニングだけを実施するよりも、筋力向上効果が阻害される」という考えがあります。
とくに競技練習をたくさんこなしているアスリートの場合、練習による疲労が残っている状態でウエイトトレーニングを実施することになります。
結果として、トレーニングで持ち挙げられる重量が減ってしまい、トレーニング効果も下がってしまいます。
また、生理学的にも、「持久力トレーニングとウエイトトレーニングを両方実施すると、筋力向上効果が阻害される」という現象(=Interference Effect)が存在します。
» 参考:【論文レビュー】持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを両方実施するとレジスタンストレーニングの効果が薄れる
競技練習は持久力トレーニングとイコールではないものの、生理学的な観点で考えると、競技練習を多くの量をこなすと、身体が受ける刺激は持久力トレーニングのそれに近づくはずです。
結果として、競技練習をガシガシやることでもInterference Effectが発生して、筋力向上効果が阻害されてしまうと考えてよいでしょう。
以上のような理由から、コロナ前は通常どおりの競技練習をしているだけで、ある程度ウエイトトレーニングによる筋力向上効果が阻害されていた状態でした。
コロナの影響で練習量が減ったことで、そのような阻害効果が減少し、筋力向上効果がコロナ前よりもUPしているものと思われます。
②爆発的パワーが低下している傾向がある
コロナ自粛後、筋力が向上している一方で、私が「爆発的パワー」と呼んでいる能力が低下している傾向があると感じています。
一般的には「瞬発力」と呼ばれることが多い能力で、いわゆる高くジャンプしたり素早く方向転換したりするような能力のことです。
筋力は向上している一方で、この爆発的パワーは低下している傾向があるのです。
私がそのように感じたのは、トレーニング中における爆発的パワー系エクササイズ(ジャンプとかメディシンボール投げたりとか)の動きを観察していて、「動きが遅いな」「あまり爆発的ではないな」と思ったのがキッカケです。
また、単なる私の主観だけでなく、実際にジャンプ高の測定等を実施して数値化しても、低下傾向が見られます。
そのような現象が起こっている原因として私が考えるのは、これまた競技練習の量が減ったことです。
これは競技の特性にもよるのですが、持久系競技以外のほとんどのスポーツにおいては、競技のなかで素早く爆発的に動く動作が頻繁に起こっています。
たとえば、ジャンプする・ダッシュする・投げる・蹴る・打つ・切り返す・減速する等々。
つまり、競技練習をしているなかでも、爆発的パワー向上に必要な刺激を身体が受ける機会が数多く存在しているということです。
通常、我々のようなトレーニング指導の専門家がトレーニングの具体的な内容を考える場合、競技練習のなかで身体が受ける刺激と、トレーニングで身体に与える刺激とが重複しないように配慮します。
そもそも、競技練習をしているだけでは得られないような刺激を与えるために、あえて競技練習とはべつにトレーニングを実施するわけなので、そのような配慮は当たり前のことです。
で、競技練習をたくさんしているアスリートを対象にウエイトトレーニングのプログラムを作るときには、競技練習において爆発的な動作を繰り返し実施していることを前提に、ウエイトトレーニングの内容を考えます。
もっと具体的にいうと、トレーニングにおける爆発的パワー系エクササイズの量は最小限に抑えつつ、高負荷をかける筋力系エクササイズの比重を多めに設定するのです。
後者のタイプのエクササイズによる刺激は、競技練習では得ることが難しい刺激なので、トレーニングにおける優先度が高くなるわけです。
この考え方は妥当なもので、コロナ前はうまくいっていたと思います。
しかし、コロナ自粛の影響で、競技練習の量が減ってしまったことで、爆発的な動作を実施する回数も減ったはずです。
結果として、爆発的パワー向上のために必要な刺激が足りなくなってしまったのだろうというのが、私の予想です。
今後、どのようにトレーニングを調整していくべきか
ここまで説明したような変化を踏まえて、じゃあ、今後どのようにトレーニングの内容を調整していくべきなのでしょうか?
その答えは場合によります。
まず、筋力向上効果が高くなっているというのはポジティブなことなので、それについてあえて対処をする必要はないでしょう。
一方で、爆発的パワーが低下しているのはマズイので、なにかしらの対策が必要になります。
単純な対策としては、トレーニング中における爆発的パワー系エクササイズの量を増やす、ということになるでしょう。
今後も競技練習の量がコロナ前と比べて少ない状況が続くのであれば、競技練習で身体がうける爆発的パワー向上のための刺激が減った分を、トレーニングで補う必要があるということです。
とはいえ、単純に爆発的パワー系エクササイズの量を増やすだけだと、ウエイトトレーニング全体の量や実施時間が増えてしまいます。
競技練習の量が減っているから、ウエイトトレーニングの量や時間が増えてもOKということなら、それでもいいでしょう。
しかし、もしウエイトトレーニングに費やすことのできる時間が固定されていて増やすことができないようであれば、爆発的パワー系エクササイズの量を増やしたら、そのぶん、他の部分を削る必要があります。
それなら、筋力向上効果が高まっているから、筋力向上をメインとしたエクササイズの量を減らす、というのも選択肢としてはありでしょう。
あるいは、そもそもコロナの影響で、試合や大会が中止されていて、しばらく再開する見込みはない、という状況であれば、一時的に爆発的パワーが低下してもあまり気にせず、むしろ今のうちにドンドン筋力を向上できるだけ向上してしまおう、という考え方もアリだと思います。
爆発的パワーという能力は筋力よりも競技におけるパフォーマンスに直結することが多いので、重要な試合が近づいているのに爆発的パワーが低下しているのは問題です。
しかし、どうせしばらくは試合が再開される見込みがなさそうなのであれば、一時的な爆発的パワー低下にビビる必要はなく、あえてトレーニングの内容を調整せずに、筋力向上効果が高い現状を享受するという戦略は決して悪いものではありません。
まとめ
今回お話したのは、以下の2つの条件が当てはまるケースについて言えることです:
- 新型コロナウイルスの影響で競技練習の量が減っている状況
- 競技練習のなかで爆発的な動きを繰り返すようなスポーツ
そのような条件が当てはまる状況で今起こっている現象について、トレーニング指導の専門家の観点で気づいたことを分析してみました。
大規模に、そして詳細に調査をしたわけではないので、一人のS&Cコーチの頭の中の妄想にすぎません。
ただ、その妄想の前提として、科学的知見や同じアスリートを長年見てきて特徴を把握しているという経験が存在しているので、そんなに精度は悪くない妄想なのではないかと自負しています。
ここで私が観察・分析した現象が実際に起っているとしても、そのうえでどのように対処すべきなのかは、状況や条件によって異なります。
やはり自分の頭で考えて、たとえそれが妄想であったとしても、自分なりの対策を導くことができるのはS&Cコーチとして重要な能力だと思います。
そして、その妄想の精度を高めるためにも、基礎的なスポーツ科学の勉強をする・論文を読む・論理的な思考を磨く、等の自己研鑽が必要だと感じます。
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【編集後記】
Twitterやメルマガでは告知したのですが、私の新刊「競技力向上のためのウエイトトレーニングの考え方」の出版を記念して、11月にセミナーを企画しました。
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「河森のセミナー興味あるけど高いんだよな・・・」という方は、ぜひこの機会にご参加いただければ。