久しぶりに論文レビューをやります。
論文の内容
※無料でPDFファイルがダウンロードできるはずです
研究プロトコル
運動後のクールダウンが疲労からの回復に効果的なのかどうかについて、過去の研究をまとめてレビューした論文です。
メタ分析はしておらず、いわゆるnarrativeなレビュー論文です。
特に、「アクティブクールダウン」として、運動後1時間以内に実施される低強度〜中強度の自発的な運動の効果に限定して調べています。
イメージとしては、軽いジョギングや自転車こぎのようなクールダウンです。
また、運動後の当日(>4時間後)または翌日のパフォーマンスに与える影響にフォーカスして調べています。
長期的な影響(ケガ予防効果やトレーニング適応)についても言及していますが、もとになる研究データ数が少ないので、ここでは取り上げません。
基本的に、「パッシブクールダウン」との比較で効果の有無・大小を検証しています。
パッシブクールダウンは、特に運動せずに座って休んでいるようなイメージです。
結果
アクティブクールダウンは、当日(>4時間後)のパフォーマンスを向上させる効果は見られず。
場合によっては、ネガティブな影響を及ぼす可能性もある。
翌日のパフォーマンスについても、アクティブクールダウンを実施しても、それほどポジティブな影響はなさそう。
また、パフォーマンスだけでなく、心理学的・生理学的指標のリカバリーについても触れられていますが、全体的には、アクティブクールダウンがリカバリーを促進するとは言えないという結論。
アクティブクールダウンの一般的なガイドライン
レビューの結果をもとにして、論文著者は以下のようなガイドラインを提供しています:
- 代謝レベル的に低強度〜中強度のダイナミックな運動(血流を増やしつつ、さらなる疲労を溜めないように) ※軽めのラクな運動っていうこと
- 力学的インパクトが低強度〜中強度の運動(さらなる疲労や筋肉痛を防ぐため) ※着地衝撃等が少ないものっていうこと
- 30分以内の短時間で(グリコーゲン再合成を邪魔しないように)
- アスリート個人が好むタイプの運動
あまり効果がないって言っているのに、ガイドラインを提供しているのは矛盾していると感じるかもしれませんが、どうしてもやるのであればこの程度に留めておきましょう、という感じだと私は解釈しています。
考察
アクティブクールダウンのやり方によっては、あるいはアスリートの鍛錬度によっては、アクティブクールダウンが疲労からの回復を促進する可能性は残されています。
しかし、全体的に見ると、アクティブクールダウンをしないよりもしたほうが良いと自信を持って言い切れるだけの科学的知見は存在しないというのが現状のようです。
科学的知見を知れば知るほど、昔からの習慣でやっていることが本当に効果があるのか考えさせられることが多いですが、今回紹介した「アクティブクールダウン」についてもそれが当てはまります。
ただし、実際の効果の有無とは別に、「アクティブクールダウンは疲労回復効果がある」と信じているアスリートが多いのもまた現実です。
科学的には効果があると言えないからといって、無理やりアクティブクールダウンを中止して、アスリートを不安がらせるのは得策ではありません。
おそらく、アクティブクールダウンを長時間あるいは高強度でやりすぎるとマイナスの影響が出る恐れがありますが、軽めで短時間にしておくぶんには問題ないはずです。
したがって、完全にやめるのが現実的でないなら、アスリートに最新の科学的知見をしっかりと説明したうえで、徐々にクールダウンの強度を下げていく・時間を短くしていく、という工夫が必要かもしれません。
まとめ
科学的知見が全てだ!とは言いませんし、それを現場で活用するには、それ以外のさまざまなことを考慮しないといけませんが、だからと言って科学的知見が意味がないとは思わないので、S&Cコーチとしては押さえておくべきなのでしょう。
それを使うか使わないか、いつ使うか、どのように使うか、といった部分がS&Cコーチの腕の見せどころだと思います。
ちょっとプライベートがバタバタしていて論文を読むペースが落ちていました。
プライベートは安定してきたので、もっと論文を読んで、論文レビューも増やしていくつもりです。
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【編集後記】
最近は左肩がずーっと痛くてオーバーヘッド動作ができていなかったのですが、昨日は調子が良く、久しぶりにスナッチでキャッチできました。
ずーっとスナッチプルばかりやっていましたが、やはりキャッチすると達成感がありますね。