先日、Xで以下のような投稿をしました↓
「子供にウエイトトレーニングはやらせるな、やるなら自体重だけを使って動きを練習させろ」みたいな主張をちょいちょい見かけますが、エクササイズによっては自体重だけでも負荷が高いものもあるんですよね。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
このような主張はたびたび見かけるのですが、私から言わせると全くの的外れです。
私がそう考える理由を掘り下げてブログを書きます。
子供がウエイトトレーニングを実施するのは危険?
冒頭で紹介した投稿をしたのは、こちらのネット記事を読んだのがキッカケです↓
参考 「危険を伴うので絶対に推奨しない」筋肉量を増やして球速を上げた齋藤隆が野球少年のウエイトトレーニングに警鐘を鳴らす納得の理由文春オンラインこちらの記事はツッコミどころが満載で、どこからツッコんでいいのかわからないほどです。
その中でも、今回のブログでは、野球少年に対するウエイトトレーニングについての記述について取り上げます。
具体的には、以下のように書かれています:
成長途中の子供が過度なウエイトトレーニングを行うことは、危険を伴うので絶対に推奨しない。やるとしたら自重トレーニング(スクワットやランジ、腹背筋、腕立て伏せなど、器具や道具などを使わず、自分の体重のみの負荷で行うウエイトトレーニングのこと)だろう。
まず、“過度な”ウエイトトレーニングが危険である、という主張については、否定するつもりはありません。
そもそも「過度な」という言葉には「やり過ぎ」という意味があるので、子供だけでなく大人にとっても“過度な”ウエイトトレーニングは危険です。
逆に考えると、過度にならないように注意して、適切なやり方で実施すれば、ウエイトトレーニングはそれほど危険な活動ではない、ということです。大人にとっても子供にとっても。
実際に、NSCA等の専門家団体もポジションステイトメントという形で、子供にとってのウエイトトレーニングの安全性について公式見解を発表しているので、興味のある方はチェックしてみてください↓
参考 青少年のレジスタンストレーニング:NSCAポジションステイトメント 最新版NSCAジャパンHP
自重トレーニングであれば子供にとっても安全?
となると、問題は、子供にとって“過度な”ウエイトトレーニングとはどういうものなのか?ということです。
今回取り上げているネット記事では、「自重トレーニング(スクワットやランジ、腹背筋、腕立て伏せなど、器具や道具などを使わず、自分の体重のみの負荷で行うウエイトトレーニングのこと)」であれば過度にならず子供にとっても安全である、という趣旨の主張がされています。
おそらくですが、バーベルやダンベル等の外的負荷を使うようなウエイトトレーニングは過度である、という考え方なのでしょう。
だから、そうした外的負荷を使わずに、自分の体重だけを使うトレーニングであれば安全だし、自分の身体の動かし方を覚えることもできるから子供には適している、と思われているのだろうと推測されます。
これが大きな間違いです。
とくに2点を指摘したいと思います:
- ①自体重が“過度な”負荷になることもある
- ②漸進性過負荷の原則を適用できない
①自体重が“過度な”負荷になることもある
外的負荷を使わずに自体重だけでトレーニングをしておけば過度にならず安全である、というのは間違いです。
冒頭で紹介した投稿でも言及しているように、エクササイズによっては自体重だけでも負荷が高くなりすぎることがあるからです。
たとえば、腕立て伏せや懸垂なんかは、筋力が弱い子供や体重が重い子供にとっては、自体重で1回もできないなんてことはザラにあります。
つまり、1RMの負荷を超えている、ということです。※1RMとは、1回だけ実施できる最大重量のこと
1RMを超えるような負荷は明らかに過度であり、「自重トレーニングであれば過度にならず子供にとっても安全である」という主張がいかに間違っていてテキトーであるか、よくわかるでしょう。
場合によっては、ベンチプレスやラットプルダウン等を代わりに選択して外的負荷をかけたほうが、自体重で腕立て伏せや懸垂をするよりも負荷としては軽くて、その子供にとって適切な負荷をかけられる、ということもあるのです。
重要なのは、「バーベルやマシン等の外的負荷を使うか自体重を使うか」ではなくて、「個人の筋力レベルに合わせて適切な負荷をかけてあげられるかどうか」です。
それにもかかわらず、強い影響力をもった元アスリートが「自体重を使ったトレーニング=軽い負荷だから安全」なんて発信をされてしまうと、逆に“過度な”ウエイトトレーニングをやらせて危険を誘発することに繋がりかねないのです。
だから私は専門家としてプンプン怒っているし、SNSやブログでもわざわざ指摘しているのです。
「あなた、子供の安全を守るために発信しているつもりなのかもしれないけど、逆に安全を損ねるようなこと言っちゃってますよ💢トレーニングについては専門家じゃないんだから、わからないことをわかったかフリして無責任に発信しないでくださいよ💢」と。
まじで、激おこぷんぷん丸なんですから。
②漸進性過負荷の原則を適用できない
仮に、自分の体重に対して十分な筋力を有していて、自体重トレーニングが過度なレベルの負荷にはならないような子供がいたとします。
そういう場合は、適切なフォームで実施できている限り、自重トレーニングが危険になることはないでしょう。
ただし、だからといってずーっと自体重だけを負荷に用いてトレーニングをしているようでは、トレーニングによる恩恵を受けることができません。
すでにお伝えしたように、「バーベルやマシン等の外的負荷を使うか自体重を使うか」ではなくて、「個人の筋力レベルに合わせて適切な負荷をかけてあげられるかどうか」が重要です。
これは、安全面のことだけではなく、体力向上効果についても当てはまります。
そして、個人の筋力レベルに合わせた適切な負荷というのは、適応を引き起こすのに適した負荷のことであり、それは「漸進性過負荷の原則」に基づいて設定されるべきものです。
「漸進性過負荷の原則」については、外部サイト向けに記事を書いているので、そちらをお読みください↓
参考 レジスタンストレーニング「漸進性過負荷の原則」AthleteBody.jp
ようするに、自体重でトレーニングをすることに身体が慣れてしまうと、自体重は適応を引き起こしてくれるような「過負荷」ではなくなってしまうので、継続して適応を引き起こし続けるためには、過負荷を漸進的に増やしていく必要がある、ということです。
そのためには、バーベルやマシン等の外的負荷を使うことが有効です。
「漸進性過負荷の原則」を遵守して、少しずつ外的負荷を増やしていく限りにおいては、子供であってもバーベルやマシン等を用いたウエイトトレーニングが危険になることはありません。
存在することのない幻の危険を怖がるあまり、自体重以外の器具や道具を用いたトレーニングを否定するのは、子供にとって不利益を与える行為であり、強く非難されるべきだと個人的には思います。
私の主張に対する反論として、子供のうちはウエイトトレーニングで体力向上を図る必要はないから、漸進性過負荷の原則なんて適用しなくていい、と訴える方もいるでしょう。
成長期が終わってからOR大学生くらいになってから漸進性過負荷の原則を適用したウエイトトレーニングを実施すればいいから、子供のうちは自体重だけを使ってウエイトトレーニングのエクササイズ動作だけを練習しておけばいい、みたいな。
それに対する私の考え方はすでにブログで書いているので、そちらをお読みください↓
» 参考:ウエイトトレーニングを若くから始めてしまうと、大人になってからのパフォーマンスの伸びしろを狭めてしまうのか?
まとめ
アスリートとしては実績があったとしても、トレーニングの専門家じゃないんだから、間違った発信をしてくれるなよ、というのが今回のブログで私が主張したかったことです。
専門家ではない人からすると、斎藤隆さんの発言にそれほど大きな問題があるようには思えないかもしれないので、何が問題なのか詳しく解説しました。
ただ間違っている、というだけではなく、逆に子供にとって危険を誘発しかねないような内容だったので、指摘せずにはいられませんでした。
もし共感していただけたら、シェアしていただけますと嬉しいです。
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【編集後記】
長女の小学校入学式が終わりました。
幼稚園の卒園式と小学校の入学式と、立て続けに2回スーツを着る機会がありましたが、またしばらくは着ることはないでしょう。
やはりジャージ系がラクでいいですね。
毎日スーツで出勤されている方々は大変だな〜と改めて思いました。
お仕事ご苦労さまです。