#57 ドローイン vs. ブレイシング

公開日: : 最終更新日:2015/11/04 S&Cコーチとしての思考, 傷害リスク低減


 

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先日、友人と体幹の話をしていて「ドローイン(draw-in)」「ブレイシング(bracing)」の話題になりました。

ドローインとは、おヘソを背骨に付けるようなイメージでお腹を凹ませる動きのことで、腹横筋を選択的に活動させる目的で用いられます(「ホローイング(hollowing)」とも呼ばれます)。一方でブレイシングは、体幹まわりの筋全体を同時に活動させて、体幹の安定性を高めるための戦略として提唱されているものです。ブレイシングは、これからお腹をパンチされるという時に「グッ」とお腹に力を入れる感じと表現されます。

今回は、S&Cコーチの立場から、この話題について書きたいと思います。

 

なぜドローイン?

ドローインはここ10年ほどS&C業界で良く目にした言葉です。腰痛予防・パフォーマンス向上等の目的で、腹横筋をアイソレートして鍛えるエクササイズとして提唱されています。

まず、そもそもなぜ腹横筋が注目されたのかを調べてみると、オーストラリアの研究者HodgesとRichardsonが発表した研究(2)に行き着きます。この研究では、上肢の運動(肩関節の屈曲・外転・伸展)時の腹横筋の筋活動が調べられて、腰痛歴のある人はない人と比べて腹横筋収縮のタイミングが遅いという事が報告されました。

ここで重要なのは、この研究が発見したのは「タイミングが遅い」という事だけだという点です。「腰痛のある人は腹横筋の筋力が弱い」とか「腹横筋を発火させる事ができない」とは筆者自身も一言も言っていません。

なので、この研究結果をもとにして「腰痛予防には腹横筋の筋力を向上させたり発火できるようにする必要があり、ドローインエクササイズを用いて腹横筋をアイソレートしてトレーニングするのが効果的である」と主張するのは説得力がありません。

そもそも腹横筋をアイソレートして鍛える必要性がわからないし、アイソレートできるのかどうかも怪しい所です。

もし、ドローインエクササイズを実施する事によって、四肢を動かす動作中の腹横筋発火のタイミングを早める事ができて、その結果体幹の安定と腰痛予防につながるという研究結果があれば、腰痛予防エクササイズとしてドローインを実施する意味はあると思いますが、今のところそのような研究を私は知らないので、私自身はドローインエクササイズを指導したことは一度もありません。

 

競技中やトレーニング中もドローイン?

ドローインは腰痛予防のエクササイズとして提唱されているだけでなく、レジスタンストレーニング中やスポーツ競技中に体幹の安定性を高めてパフォーマンスを高めるための戦略としても提唱されています。

個人的には、お腹を凹ませてスクワットやデッドリフトをしたら逆に腰が痛くなったり挙上可能重量が下がったりすると思いますし、お腹を凹ませる事でより高くジャンプしたりより速く走れるようになるとも思えません。お腹を凹ませているパワーリフターやウエイトリフターを見た事もありません。

科学的にも、ブレイシングと比べてドローインは体幹の安定性を減少させる事が報告されています (1)。ドローインによって腹横筋や横隔膜等のモーメントアームが変化して力学的に不利な状態になる事や、ただ単純にブレイシングによってより多くの筋を収縮させた方が体幹周りのstiffnessが向上する事などが理由としては考えられます。

体幹の安定性向上のために腹横筋が重要なのは言うまでもありませんが、腹横筋だけが重要なのではなく体幹周りのすべての筋群を同時に収縮させることが重要なのです。これはまさにブレイシングのことを指しています。高重量をスクワットしたりデッドリフトしたりする時には、ブレイシングを行うことで体幹の安定性を向上させてパフォーマンスを最大化させることが可能です。

ただし、100%努力のブレイシングが必要なのは最大限の努力を発揮する時だけで、それ以外の場合は必要なだけブレイシングをすれば良いので、例えば歩くときも全力でお腹まわりに力を入れ続けないといけないわけではありません。

 

まとめ

で、結論としては、体幹を安定させる戦略としてはドローインよりブレイシングをオススメします。また、腰痛予防エクササイズとしてドローインを実施する事をサポートする科学的な根拠を私は知らないので、私はドローインは一切使いません。体幹スタビリティトレーニングの最初の一歩としてドローインエクササイズを実施される方もいますが(まずは腹横筋をうまく使えるようになるところから始めましょう的な感じで)、腹横筋が他の体幹筋群と比べて特別に重要なわけでもないのにそこだけアイソレートしてトレーニングする必要が私にはわかりません。

これはあくまでもS&Cコーチとしての個人的な意見です。私は腰痛の専門家ではありません。なので、あくまでもひとつの意見として捉えて下さい。でもブレイシングを提唱しているのは腰痛の専門家であるStuart McGill博士ですので、彼の意見は聞くに値するものだと思います。

また、医療専門職の方が腰痛リハビリのエクササイズとしてドローインを取り入れるのであれば、私は何も言いません。私がドローインに反対しているのは、あくまでもS&Cコーチという立場において、体幹強化のために取り入れることや、スクワットやデッドリフト中に取り入れること、そして、競技中にパフォーマンス向上のために取り入れることです。

 

参考文献

(1) Grenier SG, and McGill SM. Quantification of lumbar stability by using 2 different abdominal activation strategies. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(1):54-62.

(2) Hodges PW, and Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine (Phila Pa 1976). 1996;21(22):2640-50.

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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