#256 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載⑥】測定項目について

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 測定・スクリーン・テクノロジー


  

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月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第6回の「測定項目について」です。

=====ここから記事=====

ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチにとって、体力測定が重要なのは言うまでもありません。測定の目的には、アスリートの弱点を特定したり、トレーニング効果を確認したり、コンディションをチェックしたり、トレーニング強度を設定するためのデータを収集したり、等があります。いずれにせよ、体力測定は何らかの目的を達成するために実施する手段です。

しかし最近は、体力測定そのものが目的にすり替わってしまい、測定をしただけで満足して「ハイ、終わり」となっている状況を目にする機会が多いです。体力測定をやっていれば何となくS&Cコーチとしての仕事をしている気分になるのかもしれませんが、それ自体が目的となっているのであれば本末転倒ですし、アスリートの貴重な時間を無駄にしているようなものです。

なぜその測定を実施するのかをトコトン突き詰めて考え、本当に必要な測定項目だけを厳選して実施するという姿勢がS&Cコーチには求められていると感じます。

 

測定項目の選び方

私が体力測定の項目を選択する上で基準にしているのは以下の4点です:

  1. 日常のS&Cセッション中に実施可能な測定を優先する
  2. データをその後のトレーニングで活用する測定に限定する
  3. 測定データを適切に解釈できないものは省く
  4. 測定誤差が大きいものは、特別な理由がない限り避ける

まず①に関して、一般的に、競技練習の時間と比べるとS&Cセッションに割くことのできる時間はそれほど多くありません。また、年間の試合数が多い場合、継続してトレーニングに取り組める機会も限られています。したがって、測定のためだけに貴重なトレーニング時間を潰すのはできるだけ避けたいという気持ちがあり、「トレーニング=測定」となりうる一石二鳥の測定項目を優先して取り入れるようにしています。

次に②に関して、私はアスリートの体力レベルに応じて個別にトレーニング強度を設定する事を重視しており、そのためのデータを収集する測定については積極的に導入しています。逆に言うと、測定をしてもその後のトレーニングでそのデータを活用する可能性が低い項目はできるだけ採用しません。そこの判断基準は、英語で言うとmust do的な測定だけを実施し、nice to do程度であれば実施しない、といったものです。

③の測定の解釈も重要です。測定データの多くはただの数字であり、その数字が何を示しているのかを正確に理解できて初めて、測定データは意味のあるものになります。最近は測定テクノロジーが発達して便利になり、機械のボタンを押せば様々なデータを得ることができるようになりました。GPSテクノロジーなどが良い例で、練習中や試合中のスプリント数等のデータをほぼ自動的に提供してくれます。しかし、そのスプリント数がそもそもどのように計算されているのか知っていますか?その計算方法は妥当なものですか?そうした点を理解していないと、測定データを適切に解釈することは不可能で、そもそも測定をする意味がなくなってしまいます。

また、④について、測定には誤差がつきもので、その誤差を考慮に入れた上で測定結果の変化の大きさを解釈する必要があります。例えば、立ち幅跳び測定に伴う一般的な誤差が仮に3cmだとすると、前回の測定からの変化量が+3cm以上なら「向上した」と判断し、-3cm以上なら「低下した」、±3cm未満であれば「変化なし」または「不明」と判断する、といった具合です。したがって、測定項目を選択する際にはその測定に伴う一般的な誤差を把握しておくほうが良いでしょう。そして、特定の競技にとっては重要な体力要素であっても、その測定に伴う誤差が著しく大きく、トレーニング効果やアスリート間の能力差を判別するのが困難である場合は、あえて測定しないという決断をすることもあります(逆に、測定誤差が大きいと認識したうえで、それでもその体力要素がその競技においては絶対的に重要であると判断し、トレーニングにおけるアスリートのモチベーションを上げるためにあえて測定項目として取り入れる、というのもアリかもしれません)。

 

測定項目の例

実際の測定項目は競技によって異なりますが、私が採用することの多い一般的な測定の例をいくつか紹介します。

①体組成(体重、皮下脂肪厚)

アスリートには毎S&Cセッション開始時に、体重を測ってトレーニングシートに記入してもらっています。S&Cセッションは午前の時もあれば午後の時もあり、また直前の食事もコントロールされていません。理想を言えば同一条件下(例:起床時)の体重をモニターするのが良いのですが、S&Cセッション時のコンディションをざっくりと把握するという意味では十分だと考えています。体重が極端に増減している時は、アスリートとコミュニケーションを図り、トレーニング内容を調整したりします。一方で、皮下脂肪厚は数ヶ月に1回程度、ISAK(国際キンアンソロポメトリー推進学会)の手法を用いて測定しています。こちらはできるだけ同一条件下で測定するよう気を付けています(朝イチ、運動をする前)。 

体組成測定の目的としては、アスリートに自分のコンディションに対する気づきを促す意味合いが大きいです。我々S&Cコーチがアスリートに直接影響を与えられるのは1週間のうち数回・数時間だけであり、コンディションや体組成に大きな影響を与えうる生活習慣の大部分は、アスリート自身に意識してコントロールしてもらう必要があります。そういう意図があるので、特に皮脂厚測定のタイミングには気を使っています。例えば、世界選手権等の重要な大会の直前に測定をして皮脂厚が増えていると判明しても手遅れなので、重要な大会に向けての準備期間が始まったタイミングで(大会の数週間から数か月前)測定をするようにしています。もし過去の測定値と比較して皮脂厚が増えていたら、大会までの準備期間中の食生活等に気を使うはずなので。

 

②筋パワー(ジャンプ&リーチテスト)

最近は、市販のリニアポジショントランスデューサーや加速度計を利用して、手軽にジャンプ等におけるパワーを測定・推定することができます。私も大学院で研究をしていた頃はそのような機器を活用していましたが、測定原理やデータの解釈方法という点で、現場で使いこなすにはなかなか難しいものがあると感じていました。そのため、現在ではもっとシンプルな形のジャンプ&リーチテストを筋パワーの測定として採用しています。ジャンプ&リーチテストにおけるジャンプ高は厳密に言うとパワーそのものの指標ではありませんが、アスリートの瞬発力を把握するためには有用な測定であると判断しています。

筋パワーや瞬発力は、遺伝的な要素が大きい能力であると私は感じています。実際のところ、トレーニングに伴うこの測定値の変化量は小さいため、細かいトレーニング効果をチェックするには向いておらず、それほど頻繁には測定しません(年に2回程度)。もちろん、変化量は小さくても、地道にトレーニングを続けていけば年単位で伸びる項目でもあります。例えば、S&Cトレーニングを始めたばかりの若いアスリートの場合、1年で7-8cm向上することも珍しくありません。また、生まれつき瞬発力が高くても筋力の弱いアスリートはケガをするリスクが高いと私は考えており、そのようなアスリートを洗い出すにも最適な測定です。

 

③筋力(日常のトレーニングの重量)

筋力については特別に測定をすることは少なく、日常のS&Cセッションで使用する重量が増えているかをモニターして変化をチェックすることが多いです。例えば、3セット×5レップ挙上する重量が伸びていれば筋力が向上していると判断します。厳密に筋力(特に最大筋力)を評価したいのであれば1RMを測定するのがベストですが、1RMの数値をもとに挙上重量を指定する場合以外は(例:85% 1RMで3レップ)、1RMデータはそれほど必要ないと考えています。どうしても1RMの値が欲しければ、計算式を用いて推定することも可能です。もちろん、推定された1RM値は正確ではありませんが、それなら「1RMの○○%で△△レップ実施する」という形でプログラムを作成するうえで参考にする推定式(例:1RMの85%が5RM)も正確ではないので(エクササイズやアスリートによって変わる)、どちらにしてもざっくりとした値しか出せません。もちろん、S&Cコーチとして、重視しているメインエクササイズの1RMの変化をモニターしたい気持ちはありますが、それはnice to doであってmust doではないと考え、1RM測定はしないという判断をすることがほとんどです。

 

④30-15 Intermittent Fitness Test(30-15 IFT)

持久力向上のためのトレーニングとして、高強度インターバル走を取り入れるケースが多く、その際のトレーニング強度(走速度や走距離)を設定するために、30-15 IFTを採用しています。30-15 IFTはアスリートの間欠性持久力を評価できるのと同時に、インターバル走におけるトレーニング強度を個々の体力レベル合わせて設定するための直接的なデータも提供してくれます(文献(1))。測定しっぱなしで「ハイ、終わり」とならずに、その後のトレーニングにつながる測定として重用しています。

 

 

【参考文献】

  1. Buchheit M. The 30-15 intermittent fitness test: accuracy for individualizing interval training of young intermittent sport players. J Strength Cond Res. 2008;22(2):365-74. 

 

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【編集後記】

ブラジル出張に出発する前に「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という本を購入して、移動中に読みました。この本は前から気になっていたのですが、単行本がメチャメチャ分厚かったので購入をためらっていたところ、最近になって文庫本が出たので良いタイミングとなりました。かなり面白かったので、オススメです!

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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