#260 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載⑦】ストレングストレーニング時のフォームと速度

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 S&Cコーチとしての思考, コーチング


 

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月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第7回の「ストレングストレーニング時のフォームと速度」です。

=====ここから記事=====

私はストレングストレーニングを適切なフォームで実施することを重視しています。かなり口酸っぱくフォーム指導をするので、一部のアスリートからは「フォームポリス」なるニックネームをつけられています(厳しく取り締まっている印象?)。適切なフォームを重視する理由は主に2つあります。できるだけ安全にトレーニング刺激を身体に与えるためと、効果的かつ効率的にトレーニング刺激を身体に与えるためです。

 

フォームと安全性

より重い重量を持ち上げようとして、フォームが崩れるのは本末転倒です。ウエイトリフティングやパワーリフティング等の競技においては「より重い重量を持ち上げる」ことが目的なので、多少フォームが崩れようが、身体に負担のかかるフォームであろうが、その目的を達成できるのであれば、ある意味それで良いと思います(極論ですが)。

一方、筋力・パワー向上や筋肥大という目的のためストレングストレーニングを利用するアスリートにとって、ストレングストレーニングはあくまでも手段です。それを忘れて、とにかく重い重量を持ち上げようとして適切なフォームが維持できないと、傷害や痛みにつながるリスクが高まります。ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチとして、トレーニング中のケガはできるだけ避けたいので、リスクを最小限に抑えて安全にトレーニングを実施するためには、適切なフォームの重要性を強調するのは当然です。

例えば、ウエイトリフティング競技のクリーン等でキャッチをしてから立ち上がる際に、膝が内側に入る映像を目にすることがあります。これは「ニーイン」と呼ばれる動きで、膝関節に負担がかかるので一般的には避けるよう教えられるものですが、多少のニーイン動作を利用する事でウエイトリフティング競技におけるパフォーマンスがアップするのであれば、リスクを冒す価値があるのでしょう。一方で、ウエイトリフター以外のアスリートに対しては、クリーンやスクワット等のエクササイズ中にニーインするようにわざわざ教えるべきではありません。 

 

フォームとトレーニング効果・効率

適切なフォームを強調する理由には、効果的かつ効率的にトレーニング刺激を身体に与えるという意味もあります。フォームが崩れたり、不必要な勢いを使ったりすると、鍛えようとしている動きや筋群に適切な刺激を与えることが難しくなります。例えば、上肢の引く動作における筋力やそれに関与する上半身の筋群を強化する目的で懸垂を実施するなら、脚を前後に振る勢いを使って身体を引き上げるのは効果的ではありません。一時的には、より多くのレップ数をこなしたり、より重い重量を持ち上げたりすることはできるかもしれませんが、それは下半身の筋群による勢いを使っているからであって、それでは上半身の筋群に意図したトレーニング刺激を与えることができず、長期的に見て上肢の引く筋力の向上にはなかなか繋がらないでしょう。

また、より重い重量を持ち上げようとして可動域が狭くなる、というのも頻繁に見られるエラーです。本連載の第2回ですでに説明した通り、可動域が小さくなるのはトレーニング効果という点でマイナスなので、できるだけ避けるべきです。しかし場合によっては、特定の可動域における筋力を強化するため(特にそこが弱点の場合)、意図的に制限された可動域でトレーニングを行うこともあるでしょう。普段は全可動域を使ってトレーニングをしているのであれば、たまにそのような戦略を取ることを私は否定しません。ただし、弱点強化のため意図的に可動域を制限してトレーニングするのと、適切なフォームが維持できずに可動域が狭くなってしまうのとは全く別な話です。後者の場合は、レップ数や拳上重量を減らしてでも、しっかりと全可動域を使ってトレーニングするようアスリートに指導することが大切です。 

また、適切なフォームを軽視して、不必要な勢いを使ったり、補償動作により狙った筋群以外の部位を使ったり、可動域が小さくなったりしてしまうと、トレーニング効果をモニターするのが難しくなります。

例えば、あるアスリートが適切なフォームで100KGのスクワットを3セット×5レップできたとします。そして、次の週に同じアスリートが105KGで3セット×5レップできるようになったとします。もし、適切なフォームを維持していたなら、前の週よりも重い重量を持ちあげることができたと判断することができますし、次回はさらに重量を上げてトレーニングすることになるでしょう。しかし、105KGでトレーニングした時には適切なフォームが維持されておらず、例えば可動域が狭くなっていたとしたらどうでしょうか?これでは前回との比較が正確にできないため、次回はトレーニング重量を増やすべきか、同じにするべきか、減らすべきかの判断が難しくなります。そのような状況では、適切なトレーニング強度を設定できないため、長期的に見てトレーニングの効率は下がってしまうでしょう。

 

重い重量は持ちあげない?

一般的に、アスリートはより重い重量を持ち上げたいという気持ちが強く、S&Cコーチとして良い意味でそれを煽ってあげることも大切です。筋力を向上させるには、漸進性過負荷の原則に基づいて、負荷を徐々に上げていくことが不可欠なので、完璧なフォームを追い求めるあまり、いつまでたっても軽い重量でしかトレーニングしないというのも逆効果です。しかし、あくまでも優先順位としては拳上重量よりも適切なフォームのほうが上であることをアスリートに説明し、「適切なフォームを維持する」という枠組みの中で重量に挑戦するよう促してあげるのがS&Cコーチの役割です。

拳上重量が順調に伸びていても、フォームが崩れてきている場合には、大幅に重さを減らすようアスリートに指示することもあります。そのような指示をされると嫌がるアスリートも多く、「なぜですか?もっと重いの持ち上げられますよ?」と反論される場合もありますが、一時的に選手の自尊心を傷つけることになったとしても、トレーニングの安全性と長期的なトレーニング効果を考えて、そこは断固とした態度を示す必要があるでしょう。アスリートのフォームをよく観察し、重量をドンドン上げていくべきなのか、フォームを見直すべきなのか、適切な判断をするのはS&Cコーチの腕の見せ所と言えるかもしれません。

 

ストレングストレーニングの速度

ストレングストレーニングにおける速度については、エキセントリック局面とコンセントリック局面とで分けて考えており、前者においては「動きをコントロールする」ことを強調して指導しています。ストレッチショートニングサイクル(SSC)を使ってより多くの重量を持ち上げようと、エキセントリック局面を最大限の勢いを使って実施しているアスリートは少なくありません。ベンチプレスで、あたかも自由落下させているかのようにバーを下ろして胸の上で派手にバウンドさせたり、スクワットで完全にリラックスした状態でしゃがんで最下点で膝が前方に大きく移動したりニーインしたり。そのようにコントロールされていない状態でエキセントリック動作を実施すると、適切なフォームを保つのが難しくなり、結果として安全性やトレーニング効果・効率が損なわれてしまいます。

また、エキセントリック動作をコントロールする能力は、実際の競技においても重要です。走っている状態から減速・方向転換をしたり、ジャンプした後に着地したり。そのような動作において、姿勢のコントロールをしながらエキセントリックに力を発揮する能力が低いアスリートはケガが多い、というのが私の印象です。そして、そのような能力は、ストレングストレーニングにおけるエキセントリック局面をしっかりコントロールすることで身につくものです。

ここで重要なのは、必ずしも「コントロールする」イコール「ゆっくり」ではない、ということです。動きのコントロールさえできていれば、ある程度の速度が出てもOKです。そちらのほうがSSCを利用してより重い重量を挙げられますし、SSCを使うこと自体は悪いことではありません。しかし、トレーニング初級者(中級者の一部も)の場合は、素早いエキセントリック動作の中で動きをコントロールするのが難しいので、基本的にはエキセントリック動作をゆっくり実施させることになります。

また、エクササイズにおける正しいフォームや姿勢を覚えている段階では、エキセントリック動作を極端にゆっくり実施させることもあります。例えば、デッドリフトのエキセントリック局面を6秒かけて実施させるとか。また、中・上級者であっても、バリエーションを加えたり、筋肥大効果を狙ったりする目的で、意図的にエキセントリック動作を遅くすることもあります。

一方、コンセントリック動作に関しては、基本的に「爆発的に素早く」実施するよう指導しています。外的な負荷が大きい場合は、どれだけ「爆発的に素早く」持ち上げようとしても、見た目の(実際の)動作速度は遅くなってしまいますが、あくまでも「爆発的に素早く」持ち上げる意識を持ってトレーニングをすることが重要だと考えています(1)。この意識が大切なのは、軽い重量であろうが、重い重量であろうが同じです。例えば、ウォームアップセットで軽い重量を持ち上げている時も「爆発的に素早く」持ち上げるよう意識して(=見た目の動作速度は速い)、メインセットの重い重量に対しても同様に「爆発的に素早く」持ち上げるように意識する(=見た目の動作速度は遅い)ということです。そうすることによって、さまざまな負荷に対して「爆発的に素早く」持ち上げることになり、それが筋力や特に筋パワー向上のために効果的なトレーニング刺激になると考えています(2)。もちろん、コンセントリック動作においても動作をコントロールすることは重要なので、「爆発的に素早く」持ち上げようとしてフォームが崩れてしまっては元も子もありません。したがって、動きをコントロールして適切なフォームを維持しつつ「爆発的に素早く」持ち上げる、のがコンセントリック動作における目標となります。

 

【参考文献】

  1. Behm DG, Sale DG. Intended rather than actual movement velocity determines velocity-specific training response. J Appl Physiol. 1993;74(1):359-68.
  2. Kawamori N, Newton RU. Velocity specificity of resistance training: Actual movement velocity versus intention to move explosively. Strength Cond J. 2006;28(2):86-91. 
 

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【編集後記】

職場で現金を管理する役割を与えられています。今まではジップロックを用いて管理していたのですが、今年度からダイソーでいくつかのアイテムを買ってきて、新しいシステムを構築しました。その時に参考にしたのはこちらのサイトです。なんだかスッキリしました。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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