#266 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載⑨】シーズン中のトレーニング

 

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月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第9回の「シーズン中のトレーニング」です。特に狙ったわけではないですが、前回のブログで取り上げたトピック「シーズン中のトレーニング」について書いています。合わせてお読み頂けると、さらに理解が深まると思います。

=====ここから記事=====

シーズン中のトレーニングでは「強度を高く維持しつつ、量は大幅に減少させて、試合に向けて体力レベルをピークに持っていく」というのが昔ながらの教科書的アプローチです。しかし、これは1~3週間程度の比較的短いシーズンを想定して考え出されたもので(例:陸上、重量挙げ等の個人競技)、シーズンが数か月に及ぶチーム競技(例:バスケ、野球、サッカー)にそのまま当てはめることはできません。また、最近は個人競技のシーズンも長期化しています。したがって、数か月間続くような長いシーズンを想定して、シーズン中のトレーング戦略を見直す必要があります。

 

昔ながらのアプローチはダメ?

長いシーズンにおいて、昔ながらの教科書的アプローチを当てはめることの問題点は、トレーニング量の絶対的な不足とそれにともなう体力の低下です。フィットネス−疲労理論(文献1、2)によると、ある時点でのアスリートの体力レベル(=preparedness)は「フィットネス」というプラス要因と「疲労」というマイナス要因の合計によって決まる、と考えられています。シーズンが短い場合、トレーニング量を減らすことで一時的に疲労が取り除かれ、フィットネスは短期間では大幅に低下しないので、結果としてpreparednessが向上し、体力レベルが高い状態で試合に臨むことができます。 

一方でシーズンが長い場合、過剰な疲労の蓄積を抑えることはもちろん大切ですが、疲労を恐れてトレーニング量を減らし過ぎてしまうとフィットネスがドンドン低下してしまいます。シーズン終盤の重要な大会が近づいてきた時にテーパリング(=トレーニング量を徐々に減らすこと)を図って疲労を取り除いても、そもそもフィットネスが低い状態だから、その合計であるpreparednessは低下したまま、という状況に陥るリスクが高いのです。シーズンで一番重要な試合に体力レベルが一番低い状態で臨まないといけない、なんて想像するだけでも恐ろしいですが、実際にそういう経験をしたアスリートの話は何度も聞いたことがあります。その度にシーズン中もトレーニングを継続することの重要性を訴えるのですが・・・。

 

アスリートやコーチの理解

一般的に、アスリートやコーチはシーズン中のトレーニング量を大幅にカットしたがる傾向にあります。「より多くの時間を競技練習に使いたい」という気持ちと、「オフシーズンに一生懸命トレーニングをして1年間戦える身体を作ったから、シーズン中はトレーニングを続ける必要はない」という誤解が原因でしょう。特に冬季種目のアスリートやコーチに、そのような傾向が強いと感じます。夏場のトレーニング(=陸トレ)は競技練習の「補強」というより、季節的に雪や氷の上に乗れないから「代わり」にやっているという感覚が強いのでしょう。だから、冬になって雪や氷の上で競技練習ができるようになると「代わり」をやる必要はない、競技練習そのものができるのだから、という考えにつながるのだと思います(冬は遠征が増えるからトレーニング施設へのアクセスが難しくなるという物理的な理由もあるかもしれません)。 

しかし、長いシーズン中にトレーニングをやめたりトレーニング量を大幅に減らしたりするのがベストな選択でないことは、すでに説明した通りです。誤解を解いて、シーズン中にもトレーニングを継続してもらうためには、まずはアスリートやコーチの思考を理解する必要があります。

始めに、「より多くの時間を競技練習に使いたい」というのは理解できますし、それで良いと思います。アスリートにとって最も重要なのは競技練習で、トレーニングは補強にすぎません。シーズン中に競技練習がメインになるのは当たり前だし、競技練習をたくさんすることでトレーニング効果(例:筋力向上)が実際の競技動作(の向上)に転移する可能性も高くなります。しかし、だからといってシーズン中にトレーニングを完全にやめたりトレーニング量を大幅に減らしたりすると、体力の低下は避けられません(シーズンが長ければ長いほど低下量も大きい)。「シーズンに入ったら試合や競技練習の量が増えるから、オフシーズンに培った体力を維持するにはそれだけで十分な刺激になる」と考えているアスリートやコーチもいますが、そんなことはありません。そもそも、競技練習だけでは与えることのできない強度や種類の過負荷を身体に与えるために「補強」としてトレーニングをするのですから(競技練習の「代わり」ではなく)、シーズンに入ってその過負荷を取り除いたら体力が低下するのは当然です。したがって、「シーズン中は競技練習が最優先されるのは当然だけど、トレーニングも量を減らしすぎずに継続すべき」という点をアスリートやコーチに理解してもらうのが重要になります。

また、「オフシーズンに追い込むようなトレーニングをしておけば長いシーズンを戦い抜く身体を作ることができる」という考え方もアスリートやコーチの間で根強い人気がありますが、これは事実ではないし、危険な考えです。まず、シーズンが長いということはオフシーズンが短いということです。そんな短期間で急激に体力を向上させることはできません。仮にできたとしても、短期間で培った体力は、シーズンが始まってトレーニングをやめたりトレーニング量を大幅に減らしたりすれば短期間で失われてしまいます。それに短期間で急激に体力が向上したら、その向上した体力を競技中に使いこなす能力が追いつかず、パフォーマンスが一時的に低下するリスクすらあります。また、短期間で一気に体力を向上させようとしていきなり多量のトレーニングを実施すると疲労が蓄積して練習の質が低下するし、ケガのリスクも高まります。さらには「オフシーズンに追い込むようなトレーニングをしておけば長いシーズンを戦い抜く身体を作ることができる」という考えは、「シーズン中はトレーニングしないでいい」という誤解につながり、シーズン中のトレーニングが疎かになって、大幅な体力低下につながる可能性があります。

以上のような理由から、「オフシーズンに追い込むようなトレーニングをしておけば長いシーズンを戦い抜く身体を作ることができる」と考えているアスリートやコーチがいたら、その誤解を解いてあげるのがS&Cコーチの役割です。

 

長いシーズンに適したアプローチ

私が提唱する長いシーズン中のトレーニング戦略の軸となるのは「シーズン中もトレーニングを継続する」という原則です。これは絶対に外せません。ただし、オフシーズンとまったく同じトレーニングをする必要はありません。頻度や量はオフシーズンより多少減ってもOKです。ただし、シーズン中は試合・練習スケジュールの影響で、意図的にトレーニング頻度・量を減らそうとしなくても、自動的に減ってしまうのが現実です。したがって、S&Cコーチの立場としては「スケジュールが許す限りできるだけトレーニング時間を確保してやる」くらいの気持ちでちょうど良いと思います。 

また、長いシーズンにおいては、体力レベルの「維持」ではなく「向上」を目標にトレーニングするべきです。オフシーズンに向上させた体力レベルをシーズン中にできるだけ維持する、もしくは低下の度合いを最小限に抑える、というのが一般的な考え方かもしれませんが、それだと目標を達成するのが難しいというのが私の実感です(特にシーズンが長い場合)。あくまでも体力のさらなる向上を目標にトレーニングし、結果として体力が維持できれば万々歳、というのが現実的です。また、「維持しよう」と言うのと「向上させよう」と言うのとでは、トレーニングに対するアスリートのモチベーションにも大きな差が出てきます。それに、トレーニング歴が浅いアスリートの場合、シーズン中であっても体力を向上させることは十分可能であり、その機会をみすみす逃すのはもったいないです。

長いシーズン中のトレーニング計画を立てる上で、S&Cコーチが直面する大きなチャレンジが2つあります。「少ない時間・頻度の中でトレーニングを実施して最大限の成果を上げること」と、「疲労蓄積を抑えながらトレーニングをすること」です。これら2つを達成するためにできる工夫は色々とあります。例えばレジスタンストレーニングにおいては、複数の筋群を同時にトレーニングできる多関節エクササイズを中心に、本当に必要なエクササイズのみに絞ってプログラムを作成するべきです。そうすることでトレーニングの効率化を図り、疲労蓄積も最小限に抑えることができます。また、シーズン中に新しいエクササイズを導入するのは避けたほうが良いでしょう。正しいフォームを覚えるのに時間がかかるし、フォーム習得期間中は十分なトレーニング刺激を与えるような重量を用いる事ができないからです。シーズン中の貴重な時間をエクササイズ習得だけに費やすのはもったいないし非効率的です。また、新しいエクササイズを導入すると、身体がその刺激に慣れていないため遅発性の筋肉痛を引き起こす可能性があります。筋肉痛は練習や試合でのパフォーマンスに悪影響を与える可能性があるので、シーズン中はできるだけ避けたいところです。

さらに他の工夫としては、競技練習そのものが身体に与える負荷の種類を見極めたうえで、S&Cセッション中はそれとは異なる種類のトレーニング刺激を与えてあげる、というのも有効です。例えば、球技系種目におけるシーズン中の練習がゲーム形式(=高強度の運動と低強度の運動が交互に出現する間欠的運動)中心だったら、S&Cセッションではあえて中程度の強度で比較的長く動き続けるような連続的持久力トレーニングを実施するとか。トレーニング刺激の種類が競技練習とS&Cセッションで重複しないように調整することで、トレーニングの効率化と過剰な(不必要な)疲労蓄積の抑制という2つの目的を達成しやすくなります。

最後に、長いシーズンにおけるピーキングの考え方についてお話します。まず、シーズン中の全ての試合に向けてピーキングを実施するのは不可能だし、マイナス面が大きいので避けるべきです。ピーキングをあまり頻繁に実施すると、体力強化に使える時間やトレーニング量が失われ、体力レベルを維持することが難しくなります。世界選手権やオリンピック、プレーオフ等の重要な試合以外のマイナーな試合(重要度が比較的高くない試合)の前は、トレーニング量をあまり減らさずに強化を続けたほうが良いでしょう。多少の疲労が残っている状態で試合に臨む形になりますが、それでいいし、それを恐れてはいけないと思います。目の前の試合も大切ですが、長期的な視点を忘れないようにするべきだと強く感じます。

このあたりの考え方を理解するには、すでに紹介した「フィットネス-疲労理論」の概念を押さえておくことをオススメします。

 

参考文献

  1. http://kawamorinaoki.jp/(#207 超回復理論vs. フィットネス-疲労理論
  2. Zatsiorsky VM. Science and Practice of Strength Training. Champaign, IL: Human Kinetics; 1995.

 

 

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【編集後記】

最近こちらのサイトのGreg Nuckolsという人が書いた記事にハマっています。結構面白いです!