#268 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載⑩】持久系競技以外における持久力トレーニング

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 持久力・持久系アスリート


 

US Navy 070329 N 8923M 029 Lt Shaun Estep of Strike Fighter Squadron VFA 37 the Raging Bulls prepares for the physical readiness test PRT on a rowing machine

 

月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第10回の「持久系競技以外における持久力トレーニング」です。

=====ここから記事=====

競泳や陸上、自転車、スキー、スケート等における長距離種目はいわゆる「持久系競技」と分類できます。これらの競技では持久力トレーニングは競技練習とほぼイコールなので、ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチが持久力トレーニングの指導をすることはまずありません。競技コーチの担当領域ですから。したがって、今回はそれ以外の競技(=非持久系競技)における持久力トレーニングについて書いてみたいと思います。

 

非持久系競技における持久力向上の特徴

非持久系競技における持久力向上について考えた時に、特徴として思い浮かぶのが以下の3点です:

①間欠的持久力の向上が最終目標

②持久力トレーニングに使える時間が少ない

③生理学的な意味での持久力(エネルギー供給能力)イコール競技における持久力ではない

まず①について、バスケやサッカーのような球技も、柔道やレスリングのような格闘技も、そしてテニスやバドミントンのようなラケット競技も、試合中に頻繁にプレーが中断されます。また、プレー中であっても、全力で運動をする局面(例:スプリント)と低強度の運動をする局面(例:ウォーキング)が交互に出現します。したがって、多くの非持久系競技において必要とされる持久力は「間欠的持久力」であり、この能力を向上させることが非持久系競技における持久力トレーニングの最終目標となります(もちろん例外もありますが)。

②について、持久系競技のアスリートの場合、数時間に及ぶ練習を1日に複数回実施することは珍しくありません。そのトレーニング量はすさまじく、自転車選手が「リカバリーで軽く漕いできます」と言って、2-3時間戻ってこないなんてザラです。最近は持久系競技のアスリートに対して「polarized training」というコンセプトが提唱されていて、高強度インターバルトレーニング(HIIT: high-intensity interval training)と低強度・多量のトレーニングを組み合わせることが推奨されています(文献1, 2)。文献によっては、トレーニング量全体の75-80%程度の時間を後者のトレーニングに費やすことによって有酸素的能力の土台が築かれ、そのうえでHIITを実施するとその効果も高まるとされています。例えば週に20時間トレーニングするアスリートの場合、15-16時間を低強度・多量のトレーニングに費やす計算になります。しかし、そのようなアプローチを非持久系競技のアスリートにそのまま当てはめるのは不可能です。持久力強化に多くの時間を割くことのできる持久系競技とは異なり、非持久系競技においては競技練習(技術、戦術)に最も多くの時間が費やされ、持久力トレーニングに割くことのできる時間が限られているからです。そのような条件下で持久力を効率よく高めるための戦略は、持久系競技において持久力を最大限に高めるための戦略とは異なるはずです。したがって、非持久系競技における持久力向上を考える場合、持久力を最大限に向上させるために最も効果的なトレーニングを実施するという理想は捨てて、短時間で効率的に持久力を(そこそこ)向上させることのできるトレーニング方法を選択する、というように考え方を切り替える必要があります。

最後に③について、持久力を向上しようと考えた場合、アスリートのエネルギー供給能力(つまりATPを再合成する能力)を強化しようとするのが一般的なアプローチです。もちろんそれは重要ですが、「競技における持久力」というものを考えた場合、それだけでは不十分です。例えば、ラグビーのような身体接触のある競技において、試合後半の最後まで走り続けられるようにするため、ひたすら走り込みを実施するというのはよくある話です。しかし、たとえエネルギー供給能力という点では相手チームよりもはるかに勝っていて、ただ走るだけなら相手を圧倒できる能力を持っていたとしても、身体のサイズや筋力で劣っていたら、試合中に相手との身体接触を重ねるたびに疲労やダメージが蓄積し、結果として試合の最後になると足が止まって全然走れない、ということが起こりえます。

また、身体接触のない競技においても、例えば最大酸素摂取量の測定値は良いのに、筋力やパワーが足りないために方向転換動作が遅かったり動きの効率が悪かったりして、結果として試合では終盤に疲れてしまうというアスリートもいます。そのような場合、もっと走り込んでさらにエネルギー供給能力を高めようというアプローチは間違いではありませんが、それだけに頼るのは非効率的です。したがって、非持久系競技における持久力向上には総合的なアプローチが必要になります。 

 

具体的な持久力トレーニング方法

以上のような特徴を踏まえたうえで、非持久系競技の持久力向上を目指したトレーニング計画の立て方について考えてみます。

まず、間欠的持久力の向上が最終目標ということから、「トレーニング方法もHIITのような間欠的なものにすべき」とか「一定ペースで実施する低・中強度の継続的運動(例:心拍数130-150程度の運動を30-90分継続)を実施しても間欠的持久力の向上には結びつかない」とか主張する研究者やS&Cコーチがいます。

特に最近はタバタプロトコル等のHIITが人気で、それだけやっていれば一定ペースで実施する低・中強度の継続的運動(「cardio」と呼ぶことにします)をやる必要はない、といった風潮がありますが、私は必ずしも同意しません。一見、HIITは間欠的運動に特異的なトレーニング方法に見えるので、間欠的持久力の向上に直接的な効果があると思われがちですが、本連載第4回「競技特異的なトレーニングについて」でもお話したように、見た目や運動形式が実際の競技に似ているからと言ってトレーニング効果が高かったり競技力向上に直接結び付いたりするとは限りません。例えば、試合を分析して平均10秒間の高強度運動と30秒間の低強度運動を交互に繰り返していることが判明したからといって、トレーニングにおいても10秒間のダッシュと30秒間のジョギングを繰り返すHIITを実施するのが効果的かといえば、必ずしもそうとは言えないのです。狙ったトレーング効果を引き出すために必要なのは、トレーニングにおいて試合をsimulateすることではなく、必要な生理学適応をstimulateすることなのです。したがって、もしcardioを実施することで有酸素能力(VO2max)が向上し、それが間欠的持久力向上に間接的に結び付くのであれば、それはOKなのです。

有酸素能力が高ければ試合や練習で必要なエネルギーの多くを有酸素的に供給できるので、グリコーゲン等のエネルギー基質の減少を抑えることができるし、無酸素的解糖に伴う筋中pHの低下を防ぐことにもなります(最近はpH低下が疲労の直接的な原因となるか疑問視されているようですが)。また、高強度の運動を繰り返すには休息中にクレアチンリン酸を速やかに再合成する能力が大切になりますが、このクレアチンリン酸の再合成はミトコンドリアにおいて有酸素代謝によりおこなわれるので、有酸素能力を向上させればこの能力を高めることにつながるはずです。つまり、非特異的なcardioを実施することが間接的に間欠的運動のパフォーマンス向上につながりうるのです。

じゃあ非持久系競技のアスリートもpolarized trainingアプローチを取り入れ、cardioのようなトレーニングを多量に実施して有酸素の土台を作ったうえでHIITを取り入れるのが良いのでしょうか?もしスケジュール的にそれが可能であれば、そうすべきだと私は思います。

しかしすでに述べたように、非持久系競技のアスリートの場合、持久力強化に割く事のできる時間は限られています(特にシーズン中は)。したがって、オフシーズン中に比較的時間に余裕があるならcardioも取り入れて有酸素の土台を作る事につとめ、シーズンが始まったりして時間が限られている場合はHIITを中心に持久力トレーニングプログラムを組み立てるのが効率的でしょう。間欠的持久力の向上が最終目標だからといってトレーニング方法もHIITのような間欠的なものでないといけない、という考えには同意しないと述べましたが、持久力強化に割くことのできる時間が限られている状況で、効率的に間欠的持久力を向上させるためHIITをメインに持久力トレーニングを実施するということであれば、それは論理的で適切な選択だと思います。

ただし、あまりにも有酸素能力が低いアスリートの場合、そのような状況であってもHIITよりcardioを優先的に実施させることが効果的なこともあるでしょう。

結局のところ「これが唯一ベストのやり方だ」というものは存在しません。トレーニング効果、効率、アスリート個人の特徴、持久力強化に使える時間、etcの条件を考慮に入れた上で、ケースバイケースで判断するしかありません。

また、高い有酸素能力や間欠的持久力を有しているのに、試合では特に後半になると疲れて動けなくなるというアスリートがいます。技術が不足していて効率的に点を取れず、1点を獲得するのに相手よりも多くのエネルギーを使う必要があるというアスリートもいますし(例:フェンシング、バドミントン)、筋力やサイズで劣っているため1回1回の身体接触によるダメージが大きく、それが蓄積すると疲労困憊してしまうというアスリートもいるでしょう(例:ラグビー)。そうした場合、単純にエネルギー供給能力向上のための持久力トレーニングをするだけではなく、例えば技術練習やレジスタンストレーニングに費やす時間を優先的に増やしたりすることが試合での持久力向上に結び付く可能性があります。試合での持久力がないからといって、その解決策を単純に持久力トレーニングに求めずに、原因を多角的に分析したうえで、総合的なアプローチをするのが効率的だと感じます。

 

参考文献

  1. Laursen PB. Training for intense exercise performance: high-intensity or high-volume training? Scand J Med Sci Sports. 2010;20 Suppl 2:1-10.
  2. Seiler S. What is best practice for training intensity and duration distribution in endurance athletes? Int J Sports Physiol Perform. 2010;5(3):276-91.
 

 

 

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【編集後記】

大阪都構想が否決されましたね。自分は埼玉県民なんで直接は関係ないんですけど、橋下さんの改革者としての姿勢は好きだったので残念です。

人間って現状維持を好む生き物なんでしょうかね?でも、現状維持って短期的に見るとリスク回避しているように感じるかもしれないけど、長期的に見ると現状を変えないことが大きなリスクになるケースって多いと思うんです。例えば、高齢者がトレーニングをするのは短期的に見ればリスクがありそうに思われるかもしれないけど、長期的に見るとトレーニングもしないで体力が低下するほうが大きなリスクだと思うんです。

「現状維持とか何も変えないってことが最も大きなリスクなんだ」と個人的には自分に言い聞かせながら生きていきたいですね。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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