#12 モビリティについて Part 3:影響する要因「筋の長さ」「運動制御・コーディネーション(motor control)」



Split


前回は「モビリティに影響する要因」を3つご紹介しました。その3つとは

  1. スティッフネス(stiffness) 
  2. 筋の長さ 
  3. 運動制御・コーディネーション(motor control) 

でした。このうち今回は2番目と3番目の要因についてお話したいと思います。


 

モビリティに影響する要因 ②筋の長さ

筋の長さが短い状態で長時間キープされると(例えば、骨折をしてギプス固定により肘が曲がった状態で数週間過ごすと)、それに対する適応として実際に筋が短くなる事があります(ギプスを外した後に肘を完全に伸ばす事ができない)。

この場合、生理学的には、直列につながっているサルコメアの数が少なくなるという現象が起きています。この現象は、身体に与えられた外的な刺激(筋が短い状態)に対する生理学的な適応(直列サルコメア数減少)と考えることができます。

このような適応により筋の長さが短くなると、関節可動域が小さくなり、モビリティにも影響を及ぼします。 

ここで重要なのは、「筋の長さ」と「スティッフネス」の違いを認識することです。

前回も書きましたが、スティッフネスが大きい場合、関節を動かすのに大きな力が必要ですが、十分な大きさの力さえ加えることができれば関節は動きます。一方、筋の長さが短い場合、どれだけ大きな力を加えても関節はそれ以上動きません。

この違いを認識した上で、モビリティ向上トレーニング方法を選択することが非常に重要です。



モビリティに影響する要因③運動制御・コーディネーション

モビリティに問題がある場合、「スティッフネス」または「筋の長さ」に原因がある場合もありますが、もう一つの可能性として「運動制御・コーディネーション(motor control)」に問題があることが考えられます。

たとえば、仰向けに寝た状態で股関節屈曲の可動域をチェックした時は特に問題がないのに、立位姿勢で自体重でのスクワット動作の評価を実施した時には深くしゃがめず股関節の可動域が小さくなるという事があります(前者のようなテストを「isolated test」または「specific test」と呼んだり、後者のようなテストを「global test」とか「movement screen」と呼んだりします)。

この場合、股関節のisolated test結果には問題がないため、スティッフネスや筋の長さが問題である可能性は少ないと判断でき、motor controlに問題があると推測できます。

Motor controlという言い方は非常におおざっぱで具体的ではない言い方ですが、上記のスクワットの例では、体幹のスタビリティ能力の不足、適切な筋群を適切な順番とタイミングで適切な強さだけ発火させる能力(recruitment pattern)の問題、そして重心を基底面(base of support)内にキープするバランス能力(固有受容器等が関係している)の欠如等が複合的に影響していると考えられ、それらをまとめてmotor controlの問題と呼んでいます。

ここで重要なのが、motor controlを要因とするモビリティの問題は、動作に特異的だという事です。

上記の股関節の例でも、仰向け状態で実施したisolated testにおいては問題が発見されなかったのに、スクワット動作では問題が発見されています。このため、モビリティの測定・評価という点では、複数のglobalな(全身を使った)動作(特に人間にとって基本的な動作)を用いる事の重要性が指摘されており、最近ではfunctional movement screenFMS)のようなテストが人気を集めているように思います(FMSはモビリティだけでなく、スタビリティや単純な関節可動域等も含めた総合的な動きの能力をみているため、モビリティテストと呼ぶのは適切ではないかもしれませんが)。

その一方で、特定の関節周りの筋の長さやスティッフネスに問題があるにも関わらず、motor control能力が飛び抜けて発達しているために、global testでは何の問題もなさそうに見える場合も考えられます(例えばハイレベルのアスリート等)。この場合、globalな動きには問題がないからいいじゃないかという考え方もできないではありませんが、そのglobalな動きを行うために必要以上の負担が身体の一部にかかっている可能性があり、その状態を何年も放置したらいずれ痛みや怪我につながる事も考えられます。

これは、サイドブレーキがかかっている車を無理矢理アクセル全開にして走らせている状態に例えると分かりやすいかもしれません。そんな状態で運転を続けたら、すぐに車にガタが来そうですよね。このサイドブレーキを外してあげる(筋の長さやスティッフネスという要因を向上してあげる)ことにより、故障の可能性を減らすだけでなく、スピードを上げたりより長い距離を走らせたりすることが可能になると考えられます。

つまり、モビリティのチェックをするにはisolated testglobal testの両方を行う事が重要で、それによって発見された問題(スティッフネス、筋の長さ、motor control)を解決することで、効率的にモビリティ能力を向上させる事ができるのです。



まとめ

これまで3回にわたってモビリティについて書きました。ちょっと選んだテーマが壮大すぎたので、書きたい事の全部は書ききれていませんが、とりあえずここでモビリティに関する話題は一休みしようと思います。面倒くさがり屋の私が、今年は最低でも週 1回はブログを更新しようと目標を立てたのですが、あまり大きなテーマについて書こうとすると筆が止まる(タイプが止まる?)という事がわかりました。今後、しばらくは小さなテーマの短いブログを定期的に更新する事を新たな目標とし、ブログを定期的に書くことに慣れてきたら、また大きなテーマにも挑戦しようと思います。

関連記事

#133 ヒップフレクサーをストレッチする時はおなかとお尻に力を入れる

  ヒップフレクサーつまり股関節屈筋群をストレッチする時は、おなかとストレッチしている側のお尻に力

記事を読む

#10 モビリティについて Part 1:定義と必要性

2008 Indianapolis Performance Enhancement Se

記事を読む

#44 体幹スタビリティの重要性をパチンコ(武器)の比喩で説明してみる

    一般的に、競技スポーツにおける体幹スタビリティの重要性はいろいろな形で説明されています。例

記事を読む

#11 モビリティについて Part 2:影響する要因「スティッフネス」

前回は「モビリティの定義」と「なぜモビリティが重要か」について書きました。今回からは「モ

記事を読む

no image

#1 モビリティ動画の紹介

アスリートにとって重要な体力要素の一つがモビリティ。このモビリティを向上させるためのドリルを紹介して

記事を読む

no image

#34 ハードルモビリティドリルは好きだけど欠点もある事に気づいた

今日は短めの記事です。 股関節のモビリティはパフォーマンス向上や傷害予防という点で非常に重要で

記事を読む

#33 股関節前部のつまり感:Femoral Anterior Glide Syndrome

    フェンシングやバドミントンのように脚を前後に開いた状態でプレーするアスリートをトレー

記事を読む

#92 『Get Long, Get Strong』:持久系アスリートに対してレジスタンストレーニングを処方したり指導したりする時のフィロソフィー⑦

    あと2つ続きます。   第7条「Get Long, Get Strong」 は

記事を読む

#123 トレーニングは競技のためだけにすれば良いか?

    最近担当をするようになったアスリートの胸椎モビリティ(可動性)が不足していたので、モ

記事を読む

  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

    • 840今日の訪問者数:
    • 938昨日の訪問者数:
PAGE TOP ↑