#252 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載⑤】動きの評価

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月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第5回の「動きの評価について」です。

=====ここから記事=====

動きの評価について考えていること

アセスメントやスクリーンという形で動きを評価するのが流行りです。「If you are not assessing, you are guessing」なんて言うストレングス&コンディショニング(S&C)コーチがいるもんだから、「自分も動きの評価をやらなきゃ」と考え、セミナーに参加したり、DVDや書籍で勉強したり、そうして覚えた動きの評価方法をアスリートに試したり、色々やってきました。

そうした経験を通して、動きの評価に対する私の考え方は、ここ数年間で大きく変わってきました。そして、今現在も変わり続けています。したがって、「これが河森流の動きの評価だ」と言えるだけのシステムは構築できていないのですが、とりあえず現時点で私が動きの評価について考えていることをいくつかご紹介したいと思います。 

 

解決方法とセットで意味がある

さまざまなアセスメントやスクリーンをアスリートに対して実施すると、可動性・安定性の不足や左右差等、何かしら問題点を発見することができます。それをアスリートに指摘すれば、アスリート側としても「あ〜、それは確かに競技中にも感じる時はありますね〜」となることもあるでしょうし、S&Cコーチとしては自分を賢く見せることができるかもしれません。

しかし、ただ悪い点を指摘して自己満足しているだけなら、そもそも動きの評価をする必要なんてありません。アスリートを不安にさせるだけだし、アスリートと自分の時間の無駄です。動きの評価をして「ハイ、終わり」ではダメなんです。動きの評価をした上で、問題があればそれを解決しないといけません。世の中に存在するパッケージ型のアセスメントやスクリーン方法の中には、問題が見つかった時の解決方法が提供されていないものがあり、そういうものを見るとフラストレーションが溜まります。動きの評価は解決方法とセットになって初めて意味のあるものになるので、解決方法が整備されていないのであれば、その動きの評価はそもそもアスリートに対して実施するべきではないでしょう。 

 

効果的な方法を模索

私が動きの評価について勉強を始めた当初は、新しくトレーニング指導を始める全てのアスリートに対して、個別にアセスメントやスクリーンを実施しないといけないと考えていましたが、今では考えを改めました。これは、動きの評価そのものが必要ではないという意味ではなく、ウォームアップ中の動きやレジスタンスエクササイズ中の動きをコーチングしながら観察をして評価ができれば、改めて別に時間を設けてアセスメントやスクリーンを実施する必要がないという意味です。そちらのほうがはるかに効率的です。とくに、チームや大人数に対して指導をする場合は、一人一人に対して個別にスクリーンをする時間的な余裕がないので、効率的な方法を選択せざるを得ないという事情もあるでしょう。

ただし、ウォームアップやレジスタンスエクササイズの動きを見ているだけでは可動性や安定性等の問題点を直接見つけるのが難しい動作や部位もあります。そのような場合は、別途スクリーンを実施するほうが効率的かもしれません。また、ウォームアップやレジスタンスエクササイズの動きを観察していて気になる点があったら、それを確かめるために別途アセスメントやスクリーンを実施するというのもありでしょう。

したがって、現時点での私の方針としては、動きの評価はできる限りウォームアップやレジスタンスエクササイズにおける動きを観察することで実施をする。そして、別途スクリーンやアセスメントを実施したほうが手っ取り早いと考えられるものがあれば、それは個別に実施する、というものに落ち着いています。 

 

総合的なアプローチが重要

例えば、ルーマニアンデッドリフト(RDL)をアスリートにやらせてみて、可動域が極度に制限されている場合(最下点でバーが膝まで届かない等)、まずは股関節の可動性に問題があるのではと疑います。そこでアクティブストレートレッグレイズ(ASLR)というスクリーンを実施してみると、特に問題なく脚を上げることができる(=股関節可動性に制限はない)ということが結構あります。

これを逆に考えてみると、アセスメントやスクリーンで問題が発見されなくても、実際の動き(この場合はレジスタンスエクササイズの動き)が適切に実施できない場合があるということです。つまり、アセスメントやスクリーンで評価した可動性には問題がなくても、レジスタンスエクササイズのように体重や外的な負荷がかかった状態においてその可動性のポテンシャルを100%使えるとは限らないということです。したがって、アセスメントやスクリーンだけで全ての動きの評価をすることができると考えずに、総合的な方法で動きの評価に対してアプローチするのが適切であると言えるでしょう。 

ちなみにRDLの例について言うと、単に身体の動かし方がわからないという運動スキルの問題やposterior chainと呼ばれる身体の後ろ側の筋群の筋力不足等が他の原因として考えられます。この場合、S&CコーチとしてRDLの適切なフォームを指導しつつ、漸進性過負荷の原則に基づいて挙上重量を少しずつ増加させ筋力向上を図ることが適切な解決方法であると私は考えます。ただし、そのような解決策にたどり着く前に、ASLRを実施して股関節可動性に問題がない点を確かめておかないと、「RDLの可動域に制限があるからハムストリングのストレッチをさせよう」という誤った解決方法を提示する危険性があります。したがって、やはり動きの評価には総合的なアプローチをするのが重要であるということになります。

 

補助ツールの活用法

動きの評価で発見された問題の解決方法として、いわゆる「コレクティブエクササイズ」なるものを思い浮かべる方が多いでしょう。筋膜リリース、ストレッチング、モビリティドリル、アクチベーションドリル等、さまざまな種類のコレクティブエクササイズが提唱されています。私もそれらのコレクティブエクササイズをウォームアップ等で取り入れています。しかし最近感じるのは、コレクティブエクササイズを重視するあまり、実際に筋力を強化するトレーニングが疎かになっているS&Cコーチが多いということです。

例えば、自体重を用いたコレクティブエクササイズを何ヶ月間もやらせ続けたり、コレクティブエクササイズだけを1時間も2時間もアスリートにやらせてトレーニングセッション終了になったり。これはちょっとコレクティブエクササイズの活用方法を間違っているのではないかと思います。

私の経験上、ベーシックなレジスタンスエクササイズを適切なフォームと大きな可動域で実施して筋力を向上させるほうが、はるかにコレクティブです。コレクティブエクササイズは、それを実施するのを助けてくれる補助ツールという位置づけで、あくまでもメインは強化のためのレジスタンストレーニングなのです。コレクティブエクササイズを1セッション中に何十分もやったり、問題が解決された後もコレクティブエクササイズをやり続けたりするのは時間の無駄です。必要なだけやって、必要がなくなったら止めればいいのです。

例えば、ASLRによって股関節可動性に制限が見つかったからといって、ハムストリングのストレッチングや筋膜リリースのようなコレクティブエクササイズだけをいつまでも続けるのは非効率的です。たとえASLRが改善されても、RDLのように負荷がかかった状態でその可動域を使いこなせないケースもあるからです。また、ストレッチングや筋膜リリースだけ実施して可動域が向上しても、その新たに獲得された可動域において筋力向上が伴わなければ、逆に傷害リスクが高くなる可能性すらあります。したがってこのケースにおいては、RDLを適切なフォームを用いてできるだけ大きな可動域で実施するのが最もコレクティブなアプローチであると私は考えます。もちろん、ストレッチングや筋膜リリース等のコレクティブエクササイズをウォームアップ中やセット間に実施することで、RDLを適切なフォームでより大きな可動域を用いて実施する助けになるのであれば、ドンドン導入すればよいでしょう。

 

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【編集後記】

先日、今シーズン最後のスノーボードに行ってきました。今シーズンは腰痛を悪化させること無くシーズンを終えることができました。だからといって調子に乗らずに、来シーズンも無理をしないように注意しながらスノーボードを楽しみたいと思います。