基本的に、私がアスリートにランジ動作(例:フォワードランジ、リバースランジ)をやらせる場合、一番鍛えたいのはケツ(大殿筋)です。
もっと言うと、深い股関節屈曲角度からケツを使って股関節を伸展させる筋力です。
そうした目的を達成するため、私は上体を直立にキープするようアスリートに教えます。
自分でやる時も上体を直立にキープしたほうがケツを使っている感覚があります。
しかし、ある論文を読んでから、「ランジ動作では上体を前傾させたほうが股関節伸展筋群への負荷が増えてケツへのトレーニング効果も上がるのかしら?」という疑問がムクムクと湧いてきました。
問題の論文をレビューしてみる
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この論文では、フォワードランジ中に上体を直立にキープする場合(NL)、前傾させる場合(LTF)、後傾させる場合(LTE)の3パターンについて、バイオメカニクス的な特徴が比較されました(それぞれの動きについては下の写真をご覧ください)。
その結果をまとめたのが以下の表です。※本ブログではLTEについてはスルーします。
この結果で注目に値するのは、①股関節伸展の力積がNLよりLTFのほうが大きい点と②大殿筋・大腿二頭筋のEMG値がNLよりLTFのほうが大きい点です。
このデータだけを見ると、ランジ動作においては上体を前傾させたほうがハム(ストリング)やケツといった股関節伸展筋群へのトレーニング刺激が高そうな感じがします。
そこで、自分でランジをやる時に上体の前傾を強めてみたりしてみましたが、腰への負担ばっかり増えて、ケツをより使っている感覚は得られませんでした。
むしろ、負荷がもも前(大腿四頭筋)に逃げるような感覚さえありました。
なので「やっぱり上体は直立にキープしたほうがケツを使うフォームになる!」という直感のようなものが私の中にあったのですが、その私の直感と科学的知見であるこの論文内容が矛盾しているように思えたので、「どうしたもんだろう・・・」と考えていたのです。
やっぱり上体は直立にキープする!
で、色々と考えた結果、「やはりランジ動作においては上体を直立にキープしたほうがケツに効く!」と今は確信しています。
「上で紹介した研究結果との矛盾はどう説明するのか?」という点についても、自分の中で納得のできる答えにたどり着きました。
紹介します。
①上体を直立にキープしたほうが重い負荷を扱える
上で紹介した研究では、「自体重」での動きを比較しています。
しかし、筋力強化のためにランジ動作を用いる場合、バーベル等の外的な負荷をかけるのが普通です。
で、バーベルを担いで上体を前傾させると腰に負担がかかるので、そこの強さ(ニュートラルな脊柱を保つ筋力)がlimiting factorとなり、上体を直立にキープした場合ほどの重量を扱えないはずです。
そう考えると、自体重のみでの動きを比べた場合、そもそも相対的な負荷がNLとLTFで異なる可能性が高く、そのような比較は意味があるのかビミョーです。
たとえるなら、自体重での腕立て伏せと自体重でのベンチプレス(バーを持たずエアーでやる)を比較して、腕立て伏せのほうが負荷が高いと言っているようなもんです。
そんな比較は無意味でしょ?
もし、NLとLTFでそれぞれの1RMを測定して、それぞれの◯◯% 1RMの負荷を用いて比較をするのであれば、公平な比較になると思いますが・・・。
だから、そもそもランジ動作を筋力向上のためにバーベル等の外的な負荷をかけて実施するのであれば、今回紹介した研究結果をそのまま当てはめることはムチャがあると言えます。
したがって、私の確信と研究結果に矛盾があるように見えても、それは矛盾ではないと自信をもって否定できます。
②ケツ vs. ハム
自体重で比べた場合、上体を前傾させると股関節伸展の負荷はたしかに増えますが(股関節伸展の力積がNL < LTFだから)、それはケツよりもハムの活動増大につながると予想できます(二関節筋であるハムが伸びてforce-length的に力を発揮しやすくなるから)。
実際に、大殿筋と大腿二頭筋のEMG値を見てみると、上体を前傾させると両者のEMG値が増えていますが、その増え方は相対的に大腿二頭筋のほうが大きいのがわかります。
私がフォワードランジやリバースランジをアスリートにやらせる場合、一番鍛えたいのはケツです。
できるだけケツにトレーニング刺激をフォーカスしたいのです。
なので、上体を前傾させると刺激がハムに逃げてしまうという事実は、ケツを鍛えるという目的から考えると、よろしくありません。
それよりも上体を直立にキープさせて、できるだけケツを使ってランジ動作を実施させるように指導したほうが良さそうです。
「上体を前傾させると相対的にケツよりもハムへの刺激が増えるとしても、それの何が問題なの?両方とも刺激が増えるんだったら、両方を鍛えられて一石二鳥じゃん!」と思われるかもしれませんが、物事はそう単純じゃありません。
すでに説明したように、この研究では自体重でのランジ動作を比較していますが、実際のトレーニングでバーベルを担いでランジ動作を実施する場合、上体を直立にキープしたほうが大きな重量を扱える可能性が高いのです。
となると、ある程度の重量のバーベル(たとえば85% 1RM)を担いだ場合は、上体を直立にキープさせたほうがケツへの刺激が大きくなる可能性があるのです。
それにハムを鍛えたいのであれば、ランジ動作で上体を前傾させるよりも、片脚RDLでもやらせたほうが刺激は大きくなるはずです。
二兎追うものは一兎をも得ず!です。
ちなみに、上体を前傾させることで二関節筋であるハムが伸びてその筋活動が増えると、膝屈曲のトルクも増えるはずなので、それに対応して大腿四頭筋による膝伸展トルク発揮の必要性も増えると予想できます。
これが、私が上体を前傾させてランジをやってみた時に、負荷がもも前(大腿四頭筋)に逃げるような感覚をおぼえた原因の1つなのかな〜と考えられます。
③上体を前傾すると後ろ脚で前方にプッシュしやすくなる(2016/10/25追記)
この議論は上で紹介した論文とは直接的には関係がないかもしれないし、リバースランジの時にしか当てはまらないかもしれませんが、上体を前傾すると後ろ脚を使って前方にプッシュしやすくなります。
これは私自身がリバースランジを実践して経験していることです。
ただ単にレップをこなすためであれば、そちらのほうが効率的だしラクチンです。
でも、私は前脚側のケツを鍛えるためにリバースランジを使うので、できるだけ後ろ脚の力は使いたくありません。
そのためには、上体を直立にキープして後ろ脚を使いづらい姿勢を保ったまま、できるだけ前脚のケツを使って立ち上がる努力をすることが、狙ったトレーニング効果を得るためには効率的なのです。
リバースランジの動きを教え始めてまもないアスリートで、まだケツを使うのが苦手orケツの筋力が弱い場合、上体を前傾して後ろ脚でプッシュしてしまうことがよくあります。
これは、前脚のケツを使って立ち上がるのがキツいので、ラクチンなほうに逃げてしまっているのです。
そうした指導経験から考えても、やはり上体を直立にキープしたほうが、私が狙ったトレーニング効果(ケツの強化)を引き出すためには効果的である、と今では確信しています。
まとめ
ということで、「ケツを鍛える」という目的のためにランジ系エクササイズを使う時は、やはり上体を直立にキープさせて実施させるという私のポリシーは変わりません。
特にリバースランジの時はマストだと思います。
そして、そうした私の考え方は、今回紹介した論文内容と矛盾するわけではないこともご理解いただけたと思います。
あらためて、科学的知見をS&C指導に活用するのは難しいな〜と感じたエピソードでした。
科学者として論文を批判的に読む目と、実際に現場で指導をするS&Cコーチとしての目、両方が必要です。
» 参考:ランジ動作では『直立型』を目指すけど、場合によっては「上体を少し前傾させろ!」と指導することもある
2016/3/11追記:GS Performanceの加賀さんが、今回のブログに対する補足をしてくれました。合わせてお読み下さい↓
Reverse Lungeに関する友人の考察へ、勝手に補足(^^;)
2016/3/15追記:ユニバーサルストレングスの野口さんが、今回のブログに対する補足をしてくれました。合わせてお読み下さい↓
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【編集後記】
HALEOのブルードラゴン。これまではバニラ味を飲んできましたが、試しにストロベリー味を買ってみました。これも美味しい!