中・長期のトレーニング計画を立てるうえで、おさえておいたほうが良いと思われる科学的知見を見つけたので、論文レビューとして紹介します。
論文の内容
研究プロトコル
2年以上レジスタンストレーニング経験のある男性被験者を2つのグループに分けて、週4回のトレーニングを8週間に渡って実施し、その前後でforce-time curve測定(isometric mid-thigh pull)を実施した:
- 高強度低量グループ(INT):4セット x 3-5レップ with 90% 1RM、レスト3分
- 多量低強度グループ(VOL):4セット x 10-12レップwith 70% 1RM、レスト1分
結果
特に重要な点だけ箇条書きします:
- トレーニング前後の変化量をグループ間で比較すると、力の最大値、力発揮開始から30-200 ms後における力、力発揮開始から50-90 ms後におけるRFD(rate of force development)の向上率はVOLよりもINTのほうが有意に大きかった。
- INTのトレーニング前後の変化を見ると、力の最大値、力発揮開始から50-200 ms後における力、力発揮開始から50 ms後におけるRFDにおいて有意な向上が見られた。
- VOLのトレーニング前後の変化を見ると、RFD関連変数に有意な変化は見られなかった。
考察
この研究は、ある意味「筋肥大期」に特徴的なプログラムと「最大筋力期」に特徴的なプログラムの比較と捉えることができます。
前者がVOLで後者がINTです。
そういう観点でこの研究を解釈すると、「筋肥大期」のプログラムを実施している期間中はRFD、つまり素早く力を立ち上げる能力が一時的に低下する(あるいは向上が停滞する)ことを示唆していると捉えることができます。
これは恐らく、まともなS&Cコーチであれば経験的に知っていることだと思いますが、それが研究によって確認されたということです。
だからといって「筋肥大期」的なプログラムは避けるべき、という単純な話ではないので、注意が必要です。
量の多いプログラムを実施する場合は、RFDの向上以外にもそれなりの目的や理由があるので、必要であれば「RFDが一時的に低下する」というリスクを承知の上で、覚悟を持ってやらせるべきです。
ただし、そのぶん、そのような量の多いプログラムをいつ実施させるかには気をつけたほうがいいでしょう。
試合が実施されている時期にRFDが低下するのは(競技にもよるでしょうが)あまり好ましくないはずなので、理想は試合が実施されないオフシーズン、それもできるだけ初期に量の多いプログラムを実施させたいところです。
試合のスケジュールから遠くはなれている時期に量の多いプログラムを実施することで、筋肥大や筋持久力の向上といったベースを作っておくことができます。
一時的にRFDが低下するかもしれませんが、この時期は試合がないので、大きな問題にはならないでしょうし、その後、シーズンインが近づくにつれて、より強度の高く量の少ないプログラムに移行していけば、徐々にRFDも向上していくはずです。
また、シーズンが始まってからも、例えば1ヶ月くらい試合がない期間があるようであれば、最初の2週間くらいは量の多い「筋肥大期」的なプログラムをやらせるのもアリでしょう。
まとめ
トレーニングだけでなく世の中の物事はなんでもそうかもしれませんが、プラスもあればマイナスもあるものです。
陰と陽と言ってもいいかもしれません。
「筋肥大期」的なプログラムにも陰と陽があるんです。
だから、両者を理解した上で、うまく使いこなせばいいのです。
それだけです。
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
ドナルド・トランプがアメリカ大統領になっちゃいましたね。
勝利宣言の演説をやっていたのをテレビで見たのですが、まだ実感がわきません。
「これ、テレビ番組の壮大なドッキリ企画なんじゃないの?」と今でも少し思っています・・・。