先日のNSCAジャパンS&Cカンファレンスで「科学的知見に基づくS&C指導」というタイトルでお話をしました。
その中で、「論文を批判的に読み『自分なりの解釈』をする」ことの重要性について触れました。
そして、その能力を身につけるためのベストの方法は、大学院まで進んで、自ら研究をして論文を書くという経験をすることだと述べました。
今日はこのことについて少しお話をしたいと思います。
あくまでも私見です。
論文をしっかりと読めるようになるには
やはり、真の意味で論文を読めるようになるには、自分自身で研究をして論文を書いて発表するというプロセスを経験することが必要です。
そのためには、最低でも大学院の修士課程に進む必要があります。
とはいえ、大学院修士課程に在学中の学生は、自分自身で研究をして論文を書いて発表するというプロセスを経験する前に、大量の論文を読んでいます。
したがって、そのプロセスを経験しなくても論文を読むこと自体は可能です。
だから、S&Cコーチだって、そのプロセスを経験することなく論文を読むことは十分可能です。
しかし、私の経験上、自分自身で研究をして論文を書いて発表するというプロセスを経験する前と後では、論文の読み方や理解の深さに雲泥の差が出てきます。
これは自分の体験に基づいた私見に過ぎませんが、100%自信を持って言えます。
やはり、一度自分で経験することによって、論文を読む時にどういったポイントに注意を払いながら読むべきかがより深くわかるようになるし、論文を批判的に読む能力が飛躍的に向上します。
今思えば、自分が修士課程の学生だった時は、論文を読んで著者の主張を理解するのに精一杯で、その主張がデータにサポートされているのか等を批判的な目で確かめながら論文を読むことができていませんでした。
「論文は批判的な目で疑って読め!」とは修士時代から恩師に言われていたことですが、それを本当に理解できるようになったのは、修士研究を実施して論文を書き上げた後になってからです。
やはり自分で体験しないとわからないことってあるんですよね。
わかりやすい例えを挙げると、自分でスクワットを1度もしたことのないS&Cコーチが、スクワットの実施方法や指導方法に関する本やブログをたくさん読みこめば、ある程度の知識を手に入れることはできるかもしれません。
しかし、自身で継続的にスクワットをしているS&Cコーチが同じだけの本やブログを読んだ場合の理解度には遠く及ばないでしょう。
さらには、本やブログの情報の中には間違った内容も含まれているはずですが、自分でスクワットをしたことがないと、それらを見分けるのは至難の業です。
同じような現象が論文を読むという行動についても当てはまると私は考えています。
大学院修士課程まで進まないといけないか
個人的には、すべてのS&Cコーチが自身で論文を批判的に読む能力を身につける必要があるとは思っていないので、すべてのS&Cコーチが大学院修士課程まで進む必要があるとは思いません。
理想を言えば、スポーツ科学者が科学的知見を解釈してそれをわかりやすくS&Cコーチに伝えてくれさえすれば、S&Cコーチが論文を批判的に読む能力を身につける必要はないと考えています。
しかし、現状、そんなスポーツ科学者はS&C業界にはほとんどいません。
少なくとも日本にそんなスポーツ科学者は皆無です。
いたら逆に教えてほしいくらいです。
大学の教授等の立場から考えると、科学的知見を解釈してS&Cコーチにわかりやすく伝える活動をしても、業績としてはほとんど認められないので、そんなことをするモチベーションは低いはずです。
そう考えると、今後もそのような貢献をS&C業界のためにしてくれるスポーツ科学者が出てくる可能性はゼロに近いです。
それなら自分で大学院修士課程まで進んで、論文を批判的に読む能力を身につけたほうが手っ取り早いと思ってしまうのですが、いかがでしょうか?
まとめ
結局何が言いたいのかというと、本気で科学的知見をS&C指導に活用したいのであれば、少なくとも大学院修士課程まで進んで自分で研究をしたほうがいい、ということです。
「いや現状仕事もあるから時間がないし、お金もかかるからそんなの無理だよ〜」という愚痴が聞こえてきそうです。
それならそれで良いのではないでしょうか。
どの程度の時間とお金をかけるかは、自分がどれだけの覚悟があるかによって決めればいいとおもいます。
私見でした。
動画 論文の読み方
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【編集後記】
最近目の充血が激しく、眼科に行ったのですが、その待ち時間に石井直方先生の「トレーニングをする前に読む本」を読みました。
専門的な内容を、一般の人が読んでも読み物として面白いと思えるように書いてあるのがスゴイと思いました。
自分はこのブログをS&C専門家を読者として想定して書いていますが、一般の人やアスリートが読んでもわかるような文章力も今後身につけていきたいと思いました。