月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第3回の「体幹トレーニングについて」です。
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体幹とは
体幹トレーニングが最近流行りですが、そもそも「体幹ってどこの部位を指すのか?」と問われると、意見が分かれるところでしょう。私は、体幹トレーニングの最終的な目標を「腰椎のスタビリティ向上」と捉えています。ここでいうスタビリティとは、英語で言う「control in the presence of change」という概念です。コルセットを巻いたかのように腰椎をガッチリ固めてまったく動かさないのではなく、外的な力による(過剰な可動域への)意図しない腰椎の動きを防いだりコントロールしたりする能力を指します。
この能力を鍛えることで、腰椎の傷害リスクを低減させたり、隣接する胸椎や股関節のモビリティを向上させたり、下半身と上半身の間で力やパワーの伝達を効率よくしたり、等々につながると考えています。
そういった意味では、冒頭の問いに対する答えは「腰椎」ということになります。その一方、体幹エクササイズを指導する際は、頭(もしくは首)のポジションや臀筋群の使い方等にも注意を払っているので、ある意味「頭のてっぺんからお尻まで」が体幹であると言うこともできます。ちょっと分かりづらいかもしれませんが、自分の頭の中で体幹の定義が二つ共存している感じです。
体幹エクササイズの分類
世の中に存在する無数の体幹エクササイズの中から適切なものを選択してトレーニングプログラムに組み込む作業を効率化・システム化するため、私は体幹エクササイズを動作パターン(正確に言うと力またはトルクを発揮する方向)に基づいて4つのカテゴリーに分類しています。
- Anterior Core:矢状面で腰椎屈曲方向へ力を発揮するエクササイズ
- Posterior Core:矢状面で腰椎伸展方向へ力を発揮するエクササイズ
- Lateral Core:前額面で腰椎側屈方向へ力を発揮するエクササイズ
- Rotational Core:水平面で腰椎回旋方向へ力を発揮するエクササイズ
また、各動作パターンのエクササイズをトレーニング様式(または筋活動様式)によってさらに2つに細分類しています。
- ストレングスエクササイズ:筋力向上のため、ダイナミックな動作(エキセントリック、コンセントリック)を用いてトレーニングするエクササイズ
- スタビリティエクササイズ:スタビリティ向上のため、外的な力による腰椎の動きを防ぐ、あるいはコントロールするエクササイズ(アイソメトリック、エキセントリック)
したがって、体幹エクササイズを動作パターンとトレーニング様式によって計8種類のカテゴリーに分類していることになります(表1)。実際には、複数の動作パターンを同時に鍛えるようなエクササイズもあるので、すべての体幹エクササイズを8つのカテゴリーのどれかに必ず分類できるわけではありませんが、少なくともこの分類方法を活用すれば頭を整理するのに役立ちます。
ダイナミックで行う理由
ここで、体幹トレーニングの目的を「腰椎のスタビリティ向上」と設定したのに「なぜダイナミックに腰椎を動かすストレングスエクササイズを取り入れているのか?」「スタビリティエクササイズだけやっていれば良いのではないか?」と疑問を持たれた方もいるでしょう。
確かに、スタビリティ能力に関しては神経系のコントロール(運動制御)の貢献度が大きく、それをスタビリティエクササイズで直接鍛えることは重要です。しかし、そもそも筋力が不足していては腰椎を動かそうとする外的な力に抵抗することができないため、スタビリティ向上のためには筋力向上が不可欠です。そして、筋力向上のためにはスタビリティエクササイズのようなアイソメトリックなトレーニングよりもダイナミックなトレーニングのほうが効率的なのは明らかです。
また、ダイナミックなトレーニングのほうが筋肥大の効果が高く、体幹の筋群が肥大すると構造的に剛性が高まるということもあります。
以上の理由から、私はダイナミックなストレングスエクササイズを用いて体幹の筋力を向上させ、そのうえでスタビリティエクササイズを用いて体幹の本来の機能であるスタビリティ能力を直接鍛えるという二段構えの戦略を取っています(実際には両者を並行して実施していく形になります)。
読者の中には、腰椎を繰り返しダイナミックに動かすと傷害につながるのではとお考えの方もいるかもしれません。確かに毎日何百、何千回と体幹ストレングスエクササイズを繰り返せば腰椎に負担がかかる可能性はありますし、そうしたリスクは研究でも示されています(1)。しかし、私が体幹ストレングスエクササイズを処方する際には、トレーニング変数を1種目あたり2-3セット×6-15レップ程度に設定し、身体が適応してきたらレップ数を増やすのではなく外的な負荷を増やすようにしているので(ウエイトプレートやダンベル、ケーブル等を利用して)、一日に何百、何千回と腰椎を動かすことはありません。したがって、繰り返し回数(トレーニング量)という点では、それほど腰椎に負担はかかっていないはずです。
一方、強度という点では体幹にある程度の負荷をかけていることになりますが、漸進性過負荷の原則にもとづいて少しずつ負荷を上げていけば、大きな問題はないと考えています。ただし、体幹のストレングスエクササイズ実施時には動きをしっかりとコントロールすることを口酸っぱく指導しており、勢いをつけて可動域の限界近くまで腰椎を動かすようなことはありません。
連載第2回で、「レジスタンスエクササイズ中はできるだけ大きな可動域でトレーニングをすべし」という主旨の話をしましたが、体幹のストレングスエクササイズは例外で、可動域をある程度制限しながら動きをコントロールすることを優先してトレーニングしています。また、もともと腰痛を持っているアスリートに対しては、スタビリティエクササイズのみを処方しています。
プログラムにどう組み入れるか
トレーニングプログラムに体幹エクササイズを組み入れる際は、競技特性やアスリートの弱点等を考慮に入れる必要があります。したがって、理想的にはオーダーメイドのプログラムを作成するべきですが、一般的には以下のガイドラインに従うのが良いでしょう
- Anterior Coreをまずは優先して鍛える
- Posterior Coreはスクワットやデッドリフト等を実施していればある程度鍛えられるため、この能力が弱点でない限りはPosterior Coreエクササイズを処方する必要性は低い
以上を踏まえたうえで、体幹エクササイズをどのようにプログラムに組み入れるかの例をいくつか紹介したいと思います。
週3回の頻度でトレーニングを実施するパターン
- DAY1:Anterior Coreストレングス、Lateral Coreスタビリティ
- DAY2:Rotary Coreストレングス、Anterior Coreスタビリティ
- DAY3:Lateral Coreストレングス、Rotary Coreスタビリティ
週2回の頻度でトレーニングを実施するパターン
- DAY1:Anterior Coreストレングス、Lateral Coreストレングス
- DAY2:Rotary Coreストレングス、Anterior Coreスタビリティ
上記のプログラム例では、体幹トレーニングの量・頻度が少ないと思われるかもしれません。その場合は、トレーニングをしない日に(練習前後や寝る前に)スタビリティエクササイズを追加で実施しても良いでしょう。
体幹スタビリティエクササイズによる身体へのダメージや疲労は比較的小さいため、トレーニングをしない日にそれらを実施しても疲労回復を阻害してトレーニングをする日のコンディションに悪影響を与える可能性は少ないはずです。
なぜ人気なのか
体幹トレーニングの重要性が認識され、多くのアスリートに実践されているのは大変結構なことだと思います。しかし、どんなに体幹が強くても、四肢の筋力が弱ければ身体の重心や四肢の末端を加速させることはできません。やはり体幹エクササイズだけでなく、スクワットやデッドリフト、プレスのようなベーシックなストレングスエクササイズも実施して、四肢の筋力を向上させることが大切です。
これはある程度の知識のある人にとっては明白なことですが、体幹エクササイズが人気なわりに、ベーシックなストレングスエクササイズの人気がイマイチなのは残念なことです。恐らく、体幹トレーニングが人気なのは①比較的ラクだから②器具や施設がなくても気軽に実施しやすいから③シックスパックまたはウエストのくびれを作れるかもしれないから④有名アスリートがやっているから、といった理由があるのでしょう(逆に、ベーシックなストレングスエクササイズの人気がないのは、このような理由に当てはまらないからでしょう)。
これらは、一般人が自分のやる運動を決める理由としては良いのかもしれませんが、競技アスリートがパフォーマンス向上を目指して実施するエクササイズを選択する理由として適切かどうかは疑問です。
一方で、「スクワットやデッドリフト、プレスのようなベーシックなストレングスエクササイズを高重量で実施していれば体幹は十分に鍛えられるから、わざわざ体幹エクササイズを実施する必要はない」と主張する人もいます。確かに、それらのエクササイズを実施することで、腰椎の軸方向にかかる圧縮負荷に対するスタビリティやAnterior Core、Posterior Coreのスタビリティといった能力を向上させることはできるでしょう。
しかし、それ以外の動作パターンに対するトレーニング効果・効率は高くないというのが私の印象です(実際、スナッチで130kg近く持ち上げるナショナルレベルの米国人ウエイトリフターが、初歩的なRotational Coreの体幹エクササイズをやらされてヒーヒー言っているのを見たことがあります)。また、これらのエクササイズ中の体幹筋群の主な力発揮様式はアイソメトリックなので、筋力向上や筋肥大という点ではダイナミックな体幹ストレングスエクササイズよりも効率が落ちます。したがって、ベーシックなストレングスエクササイズで高重量さえ挙げていれば体幹が強くなるから特別な体幹エクササイズはいらない、という考えは極端すぎて個人的には賛成できません。
両方とも重要
結局のところ、体幹エクササイズも高重量を用いたベーシックなストレングスエクササイズも両方とも重要だということです。流行に踊らされず、本当に必要なものを選択していけば、そのような結論にたどり着くと思います。
参考文献
1.Callaghan JP, McGill SM. Intervertebral disc herniation: studies on a porcine model exposed to highly repetitive flexion/extension motion with compressive force. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2001;16(1):28-37.
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【編集後記】
体幹トレがもてはやされ過ぎている現状の中で、体幹トレについて書くのはためらったのですが、流行に踊らされずに本質を捉えた意見を言っておくことも必要だと思い、書いた記事です。体幹トレは重要ですが、世の中の多くの人が認識している体幹トレと私の考える体幹トレにはズレがあります。また、アスリートは体幹トレだけやっていればいいみたいな風潮は大っ嫌いです。