ウエイトトレーニング指導においては、アスリートの動きを観察し、エラーが起こっていたら、それを修正してもらうために声がけをしたりする必要があります。
その声がけのことを英語では「キューイング(cueing)」とか「コーチングキュー(coaching cue)」と呼びます。
エラー動作を見抜き、それを修正するために適切なキューイングを選択し、適切なタイミングで伝えることができるかどうかは、S&Cコーチとしての能力の1つでもあります。
アスリートAに与えたキューイングが、アスリートBにも当てはまるとは限らない
このキューイングですが、チーム指導時のように、複数のアスリートを同時に指導している場合は、注意が必要だな〜と感じることがあります。
というのも、アスリートAに対して与えたキューイングが、アスリートBにも当てはまるとは限らないからです。
たとえば、アスリートAの腰が反りすぎていたら「お腹とお尻に力を入れて!」みたいなキューイングを与えるのが適切かもしれません。
しかし、アスリートBの腰は逆に丸まっているようなら、「腰を反らして!」というキューイングを与える必要があるかもしれません。
どちらのアスリートも同じエクササイズを実施していたとしても、起こっているエラーによって、それを修正するためのキューイングが真逆になることもありうるのです。
» 参考:トレーニング指導において真逆の「声がけ」をすることもある
事前にアスリートに説明しておくことの重要性
まあ、まともなS&Cコーチであれば、そんなことは理解しているはずだし、「河森は何を当たり前のことを言ってるんだ!」なんて思われるはずです。
しかし、ここで私が注意が必要だと言っているのは、そういうことではありません。
アスリートAに対して与えたキューイングをアスリートBが聞いていて、それが自分にも当てはまると思い込んでしまうリスクがあるということです。
真面目で向上心があるアスリートほど、指導中に私が発する言葉を一言も聞き逃すまい、と聞き耳を立てていて、他のアスリートに与えたキューイングまで取り入れようとしてしまいます。
その姿勢は素晴らしいし、そういうアスリートのほうが伸びる可能性は高いので、個人的にはそういうアスリートは好きです。
でも、その真面目さが仇となり、適切なフォームでウエイトトレーニングを実施することを邪魔してしまう恐れがあるのです。
皮肉なものですね。
したがって、複数のアスリートを同時に指導する場合には、S&Cコーチがそのようなリスクがあることをまずは認識しておく必要があります。
そのうえで、「アスリートAに対して与えたキューイングが、アスリートBにも当てはまるとは限らない」ということを事前にアスリートに対して説明しておくことが大切です。
たったそれだけのことで、真面目なアスリートが、真面目であるがゆえに、適切なフォームをなかなか身につけられなくなってしまう、という不幸なリスクを避けることができるはずです。
まとめ
2017年にフリーランスとして独立してから、少しずつチーム指導の機会が増えてきました。
それまでは個人指導もしくは少人数指導がメインだったので、チーム指導ならではの必要スキルを徐々に身につけている段階です。
チーム指導をメインにされている方には当たり前のことかもしれませんし、とても些細なことかもしれませんが、自分としては「ああ、そういう配慮が必要なんだな」と気づいたことについて書いてみました。
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【編集後記】
週末の日本トレーニング科学会のシンポジウムに向けて、準備を進めています。
3人のシンポジストが15分間ずつお話をして、その後ディスカッションという流れです。
普段、3時間とか4時間の自主開催セミナーをやっていて、それだけの時間しゃべる内容を用意するのは大変だと感じていましたが、逆に15分間という短い時間で話を収めるのも難しいもんだと苦しんでいます。