#809 条件を揃えて比べる癖をつけよう

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先日、以下のようなツイートをしました:

一連のツイートをすべて読んでいただければと思います。

過去にも同様のお話はブログやセミナーでもしていますが、改めて詳しく解説してみます。

 

 

比べる癖をつけよう

今回もっともお伝えしたいのは、ブログタイトルでもある「条件を揃えて比べる癖をつけよう」ということです。

私は大学院に進学して研究をする過程で、そのような癖を身に付けました。

おそらく、多くの研究者はそのような癖が身に付いているはずです。

研究計画を立てたり、研究結果のデータを解釈したりするときに必要な考え方(=癖)だからです。

 

研究者ではなくても、S&Cコーチが論文を批評的に読むためには、必須の癖です。

また、そのような癖は、論文を読むときだけでなく、S&Cコーチが直面するさまざまな場面においても役に立つというのが私の実感です。

 

たとえば、特定のトレーニング手法(仮に「〇〇トレーニング」と呼びます)を導入して3ヶ月間トレーニングを実施してみて、その前後で体力測定をしたら体力が10%低下していたとします。

そのような場合に「〇〇トレーニングは効果がない」とか「〇〇トレーニングは逆効果だ」と判断しても問題ないでしょうか?

私はそのような判断は性急だと思います。

 

もし、〇〇トレーニングを導入したのがプロスポーツチームで、導入した時期がシーズン開幕直後だったとしたら、どうでしょう?

シーズン中は試合に向けてコンディション調整をする必要があるため、トレーニング量は減ってしまうのが一般的です。

トレーニング量が減ってしまえば、結果として、体力向上効果はどうしても落ちてしまいます。

また、シーズンが進むにつれて、徐々に疲労が蓄積して、その影響で体力が次第に落ちていくことも考えられます。

つまり、〇〇トレーニングを導入しなかったとしても、体力は低下してしまう状況だったのかもしれないのです。

むしろ、〇〇トレーニングを導入したおかげで、本来は体力が30%低下してしまうところを、10%の低下に抑えることができた可能性だってあるのです。

もしそうなのであれば、「〇〇トレーニングは効果がある」という判断のほうが適切だということになります。

 

この例のように、「〇〇トレーニングを導入した場合」と「〇〇トレーニングを導入しなかった場合」を比べることで初めて、〇〇トレーニングの効果を判定することができるのです。

これが比べることの重要性です。

 

とはいえ、勝利を目指しているプロチームのメンバーを半分にわけて、一方には〇〇トレーニングをやらせて、もう一方にはやらせずに比較する、なんていうのは現実的には実施するのは難しいですよね。

だからこそ、その2つを比較しているような論文を読むことで科学的知見を取り入れて、それにもとづき自分のチームでも〇〇トレーニングを取り入れるかどうかを判断するのに使ったりするわけです。

もちろん、研究における条件とプロチームにおける状況とでは異なる可能性が高いので、研究結果がそのまま当てはまるとは限りません(「外的妥当性」と呼ばれる概念のお話になります)。

それでも、それも踏まえたうえで判断するのがプロのS&Cコーチの仕事であり、それこそがS&Cコーチの腕の見せどころ、ということになります。

まあ、なかなか目には見えにくいところではありますが・・・。

 

 

条件を揃えることが大切

読者の中には、「チームを半分にわけて比べるのは難しいかもしれないけど、昨シーズンと今シーズンで比べることはできるんじゃないの?」と思われた方もいるかもしれません。

つまり、昨シーズンには〇〇トレーニングを使っておらず、シーズン中の体力測定のデータが残っているのであれば、今シーズンは〇〇トレーニングを導入して、昨シーズンと同様の体力測定を実施すれば、〇〇トレーニングを使う場合と使わない場合の比較が可能になるのでは?ということです。

 

これ、考え方としては面白いです。

しかし、現実的には、その比較のやり方で〇〇トレーニングの効果の有無や大きさを判断するのは危険です。

なぜなら、プロチームであれば移籍や引退、新規加入等でチームメンバーが昨シーズンと今シーズンで変わっている可能性が高いですし、シーズン中の勝敗だとか対戦相手の強さ等も昨シーズンと今シーズンとで異なるはずだからです。

つまり、そのような比較では「条件」が揃っていないのです。

 

そのような状況で比較をして、仮に昨シーズンは体力が30%低下したけど、今シーズンは体力が10%しか低下しなかった、という結果になったとしても、それが今シーズンに導入した〇〇トレーニングのおかげとは言い切れません。

もしかしたら、今シーズンは大幅な補強をして、チームの強さがアップしたので、昨シーズンよりも勝率がアップして、しかも大差をつけての楽勝の試合も増えた結果、シーズン中の疲労蓄積が抑えられて、体力がそれほど低下しなかった、ということかもしれません。

つまり、〇〇トレーニングをやるやらない、以外にも昨シーズンと今シーズンとで異なる条件が存在するため、仮に昨シーズンと今シーズンとでシーズン中の体力低下率に違いが見られたとしても、その違いの原因をどれか1つに限定することができないのです。

これこそが、「条件を揃えて」比べることが重要である理由です。

1つの条件だけが異なる状況を2つ作り(例:〇〇トレーニングをやる vs. やらない)、それ以外の条件をすべて揃えて比べることで初めて、その2つの状況で違いが出た場合に、その原因は〇〇トレーニングにあると言えるようになるのです。

 

そう考えると、実際のスポーツ現場においては、「条件を揃えて比べる」ことを実践するのは非常に難しいということがわかるはずです。

「だったら、条件を揃えて比べる癖をつけても意味ないんじゃないの?」と思われるかもしれません。

しかし、そんなことは決してありません。

実際に比べることは難しくても、「これ、条件を揃えて比べたら、異なった結果になるかもしれないな」と考えることができるようになるだけでも、大きな違いなんです。

そういう考え方が頭の中にまったくなければ、〇〇トレーニングを導入してシーズン中に体力が10%低下したら「それ意味ないじゃん、逆効果じゃん」という性急な判断をしてしまうわけですから。

もしかしたら、〇〇トレーニングは非常に効果が大きいものかもしれないのに。

 

したがって、競技スポーツの現場において、実際に条件を揃えて比べることは難しいですが、「条件を揃えて比べないとわからないよな」という考え方を身に付けるだけでも大きな違いとなるのです。

また、現場では条件を揃えて比べるのが難しいからこそ、それを「研究」という形で調べることが重要なのであり、そうした研究結果が報告されている論文をS&Cコーチが読むことには意味があるのです。

そして、論文を批評的に読み、正しく解釈するためにも、条件を揃えて比べる癖をつけておく必要があるのです。

その癖がないと、せっかく論文を読んでも誤った解釈をしてしまう恐れがあるのは、冒頭で紹介した一連のツイートで指摘したとおりです。

 

 

条件を揃えて比べる癖はすべての人が身に付けたほうがいい

条件を揃えて比べるというのは、仕事とは関係ない、日々の生活のなかでも役に立つ癖だと感じています。

たとえば、新型コロナワクチンを接種した後に死亡した例がニュースで報道されたりしていました。

一見、「新型コロナワクチンを接種したことが原因で死亡したのかな、接種するのちょっと怖いな」と思ってしまいそうな報道かもしれません。

しかし、新型コロナワクチンを接種しようがしまいが、一定数の人は日々さまざまな原因により亡くなっています。

もし新型コロナワクチンを接種したら死亡数がゼロになったとしたら、それはもう不死の薬ってことになってしまいますからね。そんなことはありえません。

したがって、新型コロナワクチンを接種した人が死亡する確率と接種していない人が死亡する確率を比較しないと、ワクチン接種による死亡リスクなんて検討しようがありません。

 

さらに言うと、その比較は条件を揃えたものである必要があります。

日本では高齢者が優先的にワクチン接種を始めたので、ワクチン接種済みの人とワクチン未接種の人を単純に比較したら、前者のほうが平均年齢が高くなってしまう可能性があります。

そのような比較をして、前者のほうが死亡率が高かったとしても、それがワクチンのせいなのか、ただ単純に年齢の高い人のほうが死亡率が高いからなのか、判断がつきません。

年齢を含めた条件をワクチン接種群と未摂取群とで揃えて比較した上で、死亡率に差がないのであれば、新型コロナワクチンを危険視する理由はないということになります。

これが「条件を揃えて比べる」ということです。

 

私はそのような癖が身に付いているので、新型コロナワクチンを接種した後に死亡した例が報道されているのを見てもそれほど不安になることはありませんでした。

むしろ、「国民の不安を煽るような報道をするなよ!!」なんて怒りをおぼえたものです。

 

 

まとめ

私自身、大学院で研究者になる訓練を受けたことで、条件を揃えて比べる癖が身に付いています。

それが、論文を読むときには役立っていますし、S&Cコーチとしてさまざまな判断を下す場面でも役立っていると実感しています。

また、日常生活でも役に立つことが多いので、「条件を揃えて比べる癖」はすべての国民が身につけるべき基礎教養にしたほうがいいんじゃないか、くらいに思っています。

あまり研究に触れたことのない方にとっては馴染みのない考え方かもしれませんが、このブログ記事を読んだことをキッカケとして、さまざまな場面で意識してみていただければ。

動画 論文の読み方

 

 

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【編集後記】

今日の記事のテーマにちょっと関連するお話として、HPVワクチンに関する一連の報道と、その影響により積極的勧奨が差し控えられている問題があります。

条件を揃えて比べる癖が身に付いていて、冷静に判断することができれば、ここまでの問題にならなかったのではないかな〜、と個人的には考えています。

詳しくは以下の書籍を読んでみてください。

とくに娘さんをお持ちの親御さんは読まれることをオススメします。