ボクサーのパンチ力には広背筋が大事?
「パンチ力のあるボクサーは背中の筋肉、特に広背筋が発達している」とか、「パンチ力を向上させたかったら広背筋を鍛えろ」と言った話を耳にした事があります。
昔の私は(大学生だった頃)、そうした話を聞くたびに「何かおかしいな・・・?」と首を傾げていたものです。
なぜなら、パンチ(特にストレート)は上半身の押す動きであるのに対して、広背筋の作用は上半身の引く動作だからです。
つまり、パンチ動作においては広背筋は拮抗筋なのです。
したがって、「押す動作を鍛えるために引く筋肉を鍛えろ」という考え方は矛盾しているように感じたものです。
「いやいや、パンチ力UPに必要なのはパンチ動作の主働筋である大胸筋とか上腕三頭筋とかの押す系筋肉のトレーニングでしょ!」と思っていました。
「ボクシングのトレーナーは分かってないな〜」なんて偉そうに考えていたものです。
しかし今では私の考えも変化し、「懸垂とかロウ動作を用いて広背筋(だけでなく上半身の引く動作に関わる筋群全般)を鍛えることで、パンチ力がUPする可能性がある」と信じています。
その理由を説明したいと思います。
広背筋を鍛えるとパンチ力がUPするメカニズム
まず、パンチ動作の主働筋が大胸筋や上腕三頭筋であるという考え方は変わっていません(今回の議論では下半身については無視します)。
別に広背筋が主働筋だという考えに変わったわけではなく、広背筋はパンチという動作においては拮抗筋であると今でも考えています。
じゃあ、何が変わったのかというと、パンチ力を向上させるための戦略が主働筋を鍛えることだけではなくて、拮抗筋を鍛えることもアリだと思うようになったということです。
パンチ動作における拮抗筋である広背筋(や上腕二頭筋etc)は、パンチ動作の後半でブレーキとして働きます。
このブレーキが弱いと、主働筋によって引き起こされた動作を止めるために靭帯等に負担がかかってしまい、痛めたりケガをしたりするリスクがあります。
脳は本能的にそのようなリスクを知っているはずで、そもそもブレーキが弱い場合はその前の段階の加速を目一杯行わないでしょう。
したがって、ブレーキ能力が弱い段階で主働筋をいくら鍛えても、パンチ力がアップするはずはありません。
拮抗筋を鍛える効果をチキンレースでたとえてみる
このあたりの議論を分かりやすく例えて言うなら「チキンレース」です。
車やらバイクを壁に向かってアクセル全開で走らせて、先にブレーキをかけたほうが負けですよ〜という根性だめし的なアレです。
不良漫画等を読んでいた人にはお馴染みのやつです。
ここで、2台のバイクを使ってチキンレースをやるとします。
エンジン等の性能は全く同じで、加速能力と最高速度(時速100km)には全く違いがないとします。
しかし、ブレーキの能力には大きな違いがあり、時速100kmでブレーキをかけたら片方は停止するまで20mかかるところ、もう一方は40mかかるとします。
この場合、チキンレースに勝つのはかなりの確立で前者でしょう。
ブレーキの性能が高いので、より壁の近くまでアクセルを踏み続けることができるからです。
このチキンレースをパンチに当てはめて考えてみてください。
大胸筋や上腕三頭筋などの主働筋がアクセルです。
そして広背筋等の拮抗筋がブレーキです。
広背筋を鍛えて筋力を向上させる事によってブレーキとしての性能が高まり、主働筋を使ってより長い間加速を続ける事が可能となり、結果としてパンチ力アップに繋がる事が期待されます。
極端な話、主働筋を一切鍛えなくても、拮抗筋を鍛えた上でパンチ動作の練習をしっかりすれば、パンチ力を向上させる事ができるのです。
まとめ
最近は競技動作そのものに負荷をかけたりするファンクショナルエクササイズが流行りですが、競技動作とは真逆の動きを鍛える事によって狙った競技動作のパフォーマンス向上を図るというこの逆説的な戦略こそ、ある意味ファンクショナルなんじゃないでしょうか?
以上。
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【編集後記】
ボクシングを趣味でやっている美容師さんとの雑談から今回のブログのネタをもらいました。サンキューで〜す!