先日、以下のようなツイートをしました:
アスリートの「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」が違う場合があるということ。違っていても、その感覚でプレーして良い成績を残せるのであれば問題ないです。
問題なのは、そのアスリートが引退した後に、他の現役アスリートに指導する立場になり、自分の「感覚」で教えてしまう場合。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
この点について、もう少し深掘りして解説してみます。
アスリートの「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」は違う場合がある
冒頭で紹介したツイートで言及している「感覚(=input)」というのは、アスリートの主観的な力の入れ具合だったりとか身体の動かし方のことを指します。
一方、「実際の動き(=output)」はその名のとおり、アスリートが自らの感覚で身体を動かそうとした結果として、実際に起こる動きのことを指します。
この2つは、一致している場合もありますが、異なる場合もあります。
たとえば、冒頭のツイートでは、元プロ野球選手の城島氏のインタビュー中の「前で打つっていうのは感覚の問題で、実際は違うって思ったんですよ」という発言を紹介しています。
これは野球のバッティングの動きにおいて、「前でさばけ!」と指導されたけど、その人の実際の動きを見たら前でさばいていなかった(逆に、身体の近くまでボールを呼び込んで打っていた)、というエピソードを語っているなかで出てきたものです。
この指導者が現役のときは「前で打つ!」という「感覚(=input)」でバッティングをしていて活躍をされたのかもしれませんが、「実際の動き(=output)」を客観的にみてみたら「前で打っていなかった」ということのようです。
アスリートの「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」は違っていてもいい
まずは、アスリートの「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」は違う場合がある、という事実を指摘しました。
じゃあ、両者が一致していない場合はどうすればいいのでしょうか?
基本的には、両者が一致していなくても、アスリートがその感覚でプレーをしていて良い成績を残せるのであれば、とくに問題ありません。
むしろ、無理やり両者を一致させようとしてしまうと、逆効果になってパフォーマンスが低下してしまう恐れがあります。
たとえば、上記の野球の例でいうと、「前で打つ!」という感覚でバッティングをしていて良い成績を出している選手の実際の動きを、バイオメカニクスの専門家が分析してみたら前で打っていなかったとします。
実は「前」ではなく、「身体の近く」にボールを呼び込んで打っていた、と。
その場合に「実際に分析してみると前で打っていないですし、前で打っていないときのほうが成績が良いので、身体の近くに呼び込んで打つことを意識したほうがいいですよ」なんて専門家がアドバイスをしたら、どうなるでしょうか?
「前で打つ!」と意識してバッティングをした結果、身体の近くのちょうどよいポイントで打てていた選手が、その意識を「前で打たずに身体の近くに呼び込む」と変えてしまうと、逆にスイングが遅れてしまったり差し込まれてしまったりする恐れが大きいでしょう。
場合によっては、成績が低下しまうかもしれませんし、そうなったらそれは悪いアドバイスだった、ということになります。
だから、重要なのは「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」が一致しているかどうかではなく、「実際の動き(=output)」が良いパフォーマンスを発揮するために理にかなった動きになっているかどうかなのです。
別の例を挙げると、久しぶりにボウリングにいったら、まっすぐボールを投げようとしてもどうしても左に曲がってしまうなんて経験をされたことがある方が多いと思います。
プロの場合はあえて回転をかけてカーブさせたりするのでしょうが、シロウトにとってはまっすぐ投げて真ん中のピンに当てるのが最適な動きだとします(1投目の場合)。
そうすると、まっすぐ投げて真ん中のピンに当てるという「感覚(=input)」で投げていると、左に曲がってしまうという「実際の動き(=output)」に繋がり、良い得点をとることができません。
そこで、「感覚(=input)」を修正して、真ん中よりも少し右に向かって投げるようにすることで、「実際の動き(=output)」としてちょうどよく真ん中のピンに当たるようになり、ストライクを取れるようになる可能性が高まるでしょう。
そのような修正は、必ずしも「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」を一致させたわけではありませんが、結果として後者が改善されたのであれば、それはそれでいいのです。
変に「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」を一致させようと意識しすぎて、いつまでたっても後者が改善しないよりはずっとマシです。
引退したアスリートが指導者になって自分の「感覚(=input)」で教えるのは危険
現役のアスリートは、パフォーマンスを高めるために最適な「実際の動き(=output)」を引き出すために、どのような「感覚(=input)」で身体を動かせばいいのかを練習等を通じて模索し続けることになるでしょう。
結果として、最適な「感覚(=input)」を見つけることができて、良い成績を残して活躍をすることができれば最高です。
ただし、注意が必要なのは、そのようなアスリートが引退してから指導者に転身して、他のアスリートに指導をするようになったときです。
その指導者は、現役時代に試行錯誤をして、自分にとって最適な「感覚(=input)」を見つけて活躍をしたことにプライドを持っているかもしれませんし、それを他のアスリートにも伝えたい、という真摯な気持ちをお持ちなのかもしれません。
しかし、その指導者が現役時代に活躍したときの「感覚(=input)」を他のアスリートに伝えて、そのアスリートがその「感覚(=input)」で身体を動かしたとしても、それが最適な「実際の動き(=output)」に繋がる可能性は低いでしょう。
なぜなら、人によって身長も違うし、腕の長さも違うし、脚の長さも違うし、胴体の長さも違うし、体重も違うし、筋力も違うし、柔軟性も違うし、筋肉が腱を通じて骨のどこに付着しているのか(モーメントアーム)も違うし、脳みそも違うし、ほとんど全部違うからです。
それだけ異なる2人の人間にとって、最適な「実際の動き(=output)」を引き出すための最適な「感覚(=input)」が同じであるわけがありません。
それをしっかりと理解されている指導者であれば、自分の「感覚(=input)」を押し付けるような指導はしないはずです。
まずはバイオメカニクス等を学び、パフォーマンスを最大限に高めるために最適な「実際の動き(=output)」について理解を深めようとされるでしょう。
そのうえで、その最適な「実際の動き(=output)」を引き出すために、目の前のアスリートにとってはどのような「感覚(=input)」で身体を動かすのがベストなのかを、アスリートとコミュニケーションをとりながら二人三脚で探してくれるでしょう。
逆に、「俺が現役時代はこういう「感覚(=input)」でプレーして活躍したんだから、お前もその「感覚(=input)」でプレーしろ!」なんて指導者は最悪です。
私はプロ野球の吉井理人コーチのこちらの著書を読んだときに、吉井コーチは自らの「感覚(=input)」を押し付けずに選手と一緒に探そうというコーチングをされていると知り、とても感銘を受けました。
もしかしたら今日書いている内容は、無意識のうちに吉井コーチの著書を読んだ影響を受けているかもしれません。
今回のブログ記事で私が主張していることをさらに深く理解していただけると思うので、ぜひ読んでみてください。
まとめ
今回のブログでは、「感覚(=input)」と「実際の動き(=output)」は違う場合がある、違っていてもいい、自分の「感覚(=input)」を押し付けるのは危険、といったことを解説しました。
このような考え方を理解しておくことは、指導者にとってもアスリートにとっても重要です。
指導者であれば、自分の「感覚(=input)」を押し付けないように注意することに繋がり、より良いコーチングができるようになるでしょう。
アスリートであれば、指導者から「感覚(=input)」についてのアドバイスをもらったときに、それを鵜呑みにせずに、あくまでもヒントにするくらいの気持ちで受け止めることができるようになるはずです。
また、今回のお話はS&Cコーチにも参考になるはずです。
エクササイズのフォームを指導するときに「キューイング」と呼ばれる声がけを活用することがありますが、この「キューイング」はアスリートの「感覚(=input)」に働きかけるものです。
そして、この「感覚(=input)」はアスリートによって大きく異なります。
だからこそ、こちらの意図した動きを引き出すための「キューイング」は1つだけではなく、たくさん用意しておくことが大切です。
アスリートによって、反応する「キューイング」は異なるはずなので。
2024/1/21追記:こちらの内容に付け加えるような形で、異なる視点について解説したブログを書いたので、合わせてお読みください↓
» 参考:アスリートの「感覚」と「実際の動き」をすり合わせておくと調子が崩れたときに役に立つ
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【編集後記】
2024年初のコストコに行ってきました。
初めてコストコで買い物をしてから半年がすぎ、すでにコストコ慣れをしてきて、コストコにいくことが一大イベントではなくなりつつあります。
ある程度決まった商品を買いに行くだけ、みたいな感じです。
それでも、ある程度の量をまとめ買いすると、かなり安く買える商品が多いので、今後も定期的に買い物に行き続けることになるでしょう。
願わくば、もう少し我が家から近いところに出店してほしい・・・。