昨日、以下のようなツイートをしました:
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✅筋トレは練習の代わりじゃない→あくまでも「補強」にすぎない https://t.co/vu4UNGrEQZ
新型コロナ自粛期間中に、練習はできなかったけど筋トレは工夫して継続していたアスリートが、練習を再開したら筋肉痛になったからといって、筋トレの意味がないわけではありません。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
今日のブログでは、この点について、もう少し深く解説していきます。
新型コロナ自粛期間中にウエイトトレーニングはやっていたけど練習を再開したら筋肉痛になった!?
新型コロナウイルスによる自粛期間が終わり始め、警戒をしつつも競技練習を再開するアスリートやチームも増えてきたであろう、この時期。
自粛期間中に練習は一切できていなくても、工夫をしてウエイトトレーニングだけはしっかりと継続して取り組めていたアスリートもいるでしょう。
そんなアスリートが練習を再開すると、おそらく筋肉痛を経験することになると予想されます。
「まあ、久しぶりに練習したから筋肉痛になったんだろうな〜」くらいの感じで、あまり気にしないアスリートもいるでしょう。
その一方で、「ウエイトトレーニングはしっかりやっていたにもかかわらず、久しぶりに練習をしたら筋肉痛になったということは、ウエイトトレーニングって意味ないんじゃないの?」と不安になってしまうアスリートもいるかもしれません。
ここで「ウエイトトレーニングって意味ないんじゃないの?」という不安をさらに分析してみると:
- 不安①:ウエイトトレーニングで鍛えている筋肉と競技で使われる筋肉が違うのでは?
- 不安②:競技で使われるのと同じ筋肉をウエイトトレーニングで鍛えていたとしても、ウエイトトレーニングの強度が競技における強度よりも低いのでは?
という2つの疑問がその背景にあるものと考えられます。
さらには、そのような疑問を抱く前提として、
- 筋肉痛が発生するのは身体が慣れていない種類や強度の刺激を受けたときである
- 身体がその刺激に慣れると筋肉痛は起こりづらくなる(=repeated bout effect)
という知識があるはずです。
そこまで筋肉痛に詳しいアスリートは少ないかもしれないし、いたとしても、そのような不安や疑問を直接S&Cコーチにぶつけてくるアスリートは少ないかもしれません。
しかし、仮に、アスリートから「ウエイトトレーニングはしっかりとやっていたのにもかかわらず、久しぶりに練習をしたら筋肉痛になったということは、ウエイトトレーニングって意味ないんじゃないの?」と質問されたら、どう答えますか?
この疑問に答えるには、そもそもなぜアスリートはウエイトトレーニングをやるのか(練習だけをやるのではなくて)の深い理解と、筋肉痛に関する知識が求められます。
そして、それらをもとにして、自分の頭を使って考える能力も必要です。
S&Cコーチの思考を鍛えるにはとてもよいトピックなので、ぜひ、少し時間をとって、考えてみてください。
新型コロナ自粛期間が終わって練習を再開するというシチュエーション以外にも、たとえばケガをして練習ができない期間中に、患部のリハビリと並行して患部外のウエイトトレーニングをしっかりと実施していたアスリートが、久しぶりに練習を再開するなんてシチュエーションにも当てはまるかもしれません。
まとめ
今回はいつものブログとは趣向を変えて、クイズを出すところまでで一旦ストップしておきます。
読者の皆さんも、時間をとって考えてみてください。
明日以降、この記事に追記・修正をして、私なりの回答をシェアしたいと思います。
==============2020/6/9追記==============
河森の回答
それでは、上記の不安に対する私なりの説明を書いていきます。
不安①:ウエイトトレーニングで鍛えている筋肉と競技で使われる筋肉が違うのでは?
このような不安を抱くアスリートの思考プロセスを詳しく分解していくと:
- ウエイトトレーニングでは競技で使われる筋肉を鍛えているはず(競技で使わない筋肉を鍛えても意味ないから)
- 自粛期間中は練習はできていなかったけどウエイトトレーニングはやっていたから、競技で使われる筋肉にrepeated bout effectが起こって、筋肉痛が起こりにくくなっているはず
- それなのに練習を再開したら筋肉痛が起こったということは、そもそもウエイトトレーニングで鍛えている筋肉と競技で使われる筋肉が違うのでは?
ということになるでしょう。
もしアスリートがこのような疑問を抱いたとしたら、それはそのアスリートが自分の頭を使って考えていることの証なので、それ自体はとても良いことだと思います。
私は個人的に、自分の頭を使って考えることができるアスリートが好きで、そういうアスリートのほうが伸びると信じています。
とはいえ、このままだと、ウエイトトレーニングで鍛えている筋肉と競技で使われる筋肉が違うから、そのウエイトトレーニングは意味がない、やめよう、ということになってしまいます。
せっかく自分の頭を使って考えることができる(伸びる可能性がある)アスリートなのに、ウエイトトレーニングをやめてしまうのはもったいないので、そうならないように、私なりに解説をしておきます。
まず、上で分解した思考プロセスには欠陥があります。
それは、「筋肉痛になった筋肉だけが、競技の動きの中で使われている」という誤解です。
そんなことはありません。
筋肉痛にならなかった筋肉だって、競技の動きの中で使われているはずです。
「え、久しぶりに練習を再開したら、その競技で使われる筋肉は筋肉痛になるはずでは?ならなかったということは、そもそもその筋肉は競技の動きで使われていないっていうことでは?」と思われるかもしれません。
気持ちはわからないでもないです。
しかし、久しぶりに練習を再開した後に、特定の筋肉において筋肉痛が起こらなかった場合、その理由として考えられるのは「その筋肉が使われなかった」ということだけではありません。
それ以外にも:
- 競技の動きの中で使われてはいるけど、筋肉痛を引き起こすようなエキセントリック収縮がその筋肉では起こっていない(アイソメトリックやコンセントリックなタイプの活動が主である)
- 練習再開直後は量や強度を低めに抑えるはずなので、その筋肉については筋肉痛を引き起こすほどの負荷がかかっていなかった
- その筋肉は競技の動きの中で使われているものの(エキセントリック収縮も含めて)、ウエイトトレーニングで鍛えていてrepeated bout effectが起こっていたので、筋肉痛が起こりづらい状態だった
といった理由が考えられます。
ここでは、3つ目の理由にフォーカスして解説していきます。
これについては、「筋肉痛が起こらなかったということは・・・」のように逆算して考えるのではなくて、それとは逆の発想で考えてみたほうがわかりやすいはずです(逆算の逆だから、時系列どおりに考えるということ)。
仮に、自粛期間中に実施していたウエイトトレーニングが適切なものであって、競技の動きの中で使われる重要な筋肉をしっかり鍛えていたとします。
そのような状態で、自粛期間が終了して、練習を再開した場合、それらの重要な筋肉は筋肉痛になるでしょうか?
絶対にならないとは言い切れないものの、なる確率は非常に低く、なったとしてもその程度は小さいものと予想されます。
なぜなら、ウエイトトレーニングでそれらの筋肉を鍛えていてrepeated bout effectが起こっているからです。
つまり、久しぶりに練習を再開したときに「筋肉痛になった筋肉だけが、競技の動きの中で使われている」わけではなく、実際には、筋肉痛が起こらなかった筋肉も競技の動きの中で使われているはずなのです。
そして、その筋肉痛が起こらなかった筋肉は、競技の動きにおいて重要なものであり、その筋肉が筋肉痛にならなかった理由がウエイトトレーニングでしっかりと鍛えているから、かもしれないのです。
もしそういうことであれば、「ウエイトトレーニングはしっかりやっていたにもかかわらず、久しぶりに練習をしたら筋肉痛になったということは、ウエイトトレーニングって意味ないんじゃないの?」とか「ウエイトトレーニングで鍛えている筋肉と競技で使われる筋肉が違うのでは?」といった不安を抱く必要はないということがおわかりいただけるはずです。
筋肉痛というのは主観として感じやすいものなので、「あ〜、痛みのあるここの筋肉を使ったんだな〜」と思い込みやすいですが、筋肉痛の有無や強弱だけで、使われている筋肉を判定するのは非常に危険です。
筋肉痛が起こらなかった筋肉も使われている、という可能性は必ず頭に入れておいてください。
このあたりの考え方は、生存者バイアスについての説明でよく言及される、数学者のアブラハム・ウォールドと帰還した戦闘機の逸話に似ていますね。
つまり、「筋肉痛になった筋肉だけが、競技の動きの中で使われている」という誤解が、「帰還した戦闘機が被弾した部分の装甲を厚くしよう」という一見合理的だけど実際は非効率的な考え方と共通点があるのです。
被弾したのに帰還したんだったら、そこは被弾しても大丈夫なはずで、むしろそれ以外の部分の装甲を厚くしたほうがいい、という話です。
この話を知らない人はGoogleで「生存者バイアス」と検索して調べてみてください。
また、「ウエイトトレーニングで鍛えていた筋肉はrepetaed bout effectが起こっていたから、練習を再開した時に筋肉痛にならなかった可能性がある、というのは理解できるが、それでも筋肉痛になる筋肉があったということは、ウエイトトレーニングでは競技の動きで使われる筋肉をすべてカバーできていなかったということじゃないか?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、そもそもウエイトトレーニングは練習の代わりではなく、あくまでも補強です。
競技で使われるすべての筋肉をウエイトトレーニングで鍛える必要なんてないんです。
競技の練習だけで鍛えられるような筋肉は練習だけやっておけばよく、練習だけでは鍛えられないような筋肉であったり、練習だけでは与えられないような種類や大きさの刺激を与えるために、練習とは別にウエイトトレーニングを補強として取り入れているわけですから。
» 参考:筋トレは練習の代わりじゃない→あくまでも「補強」にすぎない
不安②:競技で使われるのと同じ筋肉をウエイトトレーニングで鍛えていたとしても、ウエイトトレーニングの強度が競技における強度よりも低いのでは?
こちらのタイプの不安は①とは異なり、ウエイトトレーニングでも競技で使われるのと同じ筋肉を鍛えていることが前提になっています。
そのうえで「鍛え方が足りない!」とか「ウエイトトレーニングの強度が弱すぎて、競技における強度に対する準備ができていない!」といった懸念を抱いているパターンです。
この可能性はゼロだとは言いませんが、まともなウエイトトレーニングをやっているのであれば「強度が足りない」ということはないはずです。
それでも、筋肉痛が起こることはありえます。
つまり、競技で使われるのと同じ筋肉を、ウエイトトレーニングでしっかりと高い強度で鍛えていたにもかかわらず、久しぶりに競技の練習を再開したら、その筋肉が筋肉痛になる可能性は十分あるということです。
というのも、強度という点ではその筋肉が鍛えられていたとしても、負荷の種類が変われば、筋肉痛になりうるからです。
たとえば、ウエイトトレーニングのプログラムを、3セット×3レップから3セット×10レップに切り替える時などは、筋肉痛になったりします。たとえ同じエクササイズをやっていたとしても。
この場合、強度(挙げる重量)という観点で言うと3レップのほうが高いはずなので、より高い強度で鍛えていたにもかかわらず、強度が下がったら筋肉痛になったことになります。
つまり、筋肉痛が起こる理由として、強度が足りないということ以外にも原因があるはずなのです。
それはズバリ、負荷の種類が変わったからです。
まったく同じエクササイズを実施していたとしても、セット数×レップ数が変わるだけで、それが新鮮な(身体が慣れていない)刺激となり、筋肉痛を引き起こしやすくなるのです。
ウエイトトレーニングで同じエクササイズを実施していても、セット数×レップ数等のちょっとした変化によって筋肉痛が起こりやすくなるわけです。
ましてや、ウエイトトレーニングと競技の練習では、たとえ同じ筋肉を鍛えていたとしても、その筋肉が受ける刺激の種類は大きく異なるはずなので、筋肉痛になってもおかしくありません。
そして、実際に筋肉痛になったとしても、それはウエイトトレーニングの「強度」が足りないわけではなく「刺激の種類」が違うからなのです。安心してください。
で、こんな説明をすると「ウエイトトレーニングと競技の練習で、身体が受ける刺激の種類が違うのであれば、そのウエイトトレーニングは意味があるの?」という疑問を持たれる方もいるかもしれません。
結論から言うと、意味はあります。
ウエイトトレーニングと競技の練習で、刺激の種類が同じである必要はありません。
そもそもなぜアスリートがウエイトトレーニングをするのかというと、競技の練習をしているだけで到達できる体力レベルでは勝つのに十分ではないので、競技の練習だけでは与えることのできないような刺激を身体に与えて、競技の練習だけでは得ることのできないような体力向上効果を得るためです。
そうすることで、練習だけをやるよりも勝つという最終目標に近づくことが可能になるのです。
ということは、むしろ、ウエイトトレーニングと競技の練習とでは、刺激が異なっていることにこそ意味があるのです。
まとめ
今回のような状況は今後ないかもしれないので、今回の記事で取り上げた内容を活用できる場面は今後訪れないかもしれません。
しかし、S&Cコーチとしての思考法を訓練するには、とても良いトピックだったと思います。
そもそもアスリートがなぜウエイトトレーニングをするのかについての深い理解と、筋肉痛についての知識、そして、それらをもとにして目の前の状況を分析する思考力。
これらが求められるようなクイズになりました。
書き上げてみたら6000文字を超える長文になってしまい、有料noteにでもすれば良かったかなとも思いましたが(クイズ部分は無料にして、回答部分を有料にするみたいにして)、とりあえず無料でお読みいただけるブログ記事にしておきました。
参考にしていただければ幸いです。
動画 筋肉痛
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【編集後記】
昨日は真夏日で、マスクをして外を歩くだけで息苦しかったです。本格的な夏が到来したら、どうなるんだろう・・・。