最近はトレーニングに関して発信されている情報量が増えています。
しかも、多くの情報が無料で手に入る時代です。
おかげさまで、新しいトレーニング手法やエクササイズのやり方を仕入れるのが容易になっています。
これは私のような専門家にとってもそうですし、アスリートが自身で情報を得ることのハードルも下がっています。
そんな時代においては、「あ、このトレーニング良さそうだな、取り入れようかな、どうしようかな?」と迷う場面に頻繁に出くわすはずです。
仕入れたトレーニングをすべて試してみるのは現実的ではないので、取捨選択の判断を日々下しているはずなのです。
それが意識的であれ無意識であれ。
とくに新型コロナウイルスの影響で、これまでオンラインで発信していなかった人たちも発信を始めたことにより、トレーニングに関する情報が氾濫している現状では、情報を取捨選択する能力、いわゆる「目利き」能力の重要性が高まっています。
そこで、今日のブログでは、トレーニング指導の専門家である私が、トレーニングに関する情報を収集して取捨選択するうえで使っているテクニックを紹介します。
トレーニングを取り入れるかどうか迷ったら、4象限マトリクスで決めろ!
私がトレーニング情報の取捨選択で使っているテクニックは「4象限マトリックス」と言われるものです。
「4象限マトリックス」自体はビジネスの世界等で一般的に活用されているテクニックらしいですが、トレーニングの取捨選択に活用する場合には
- 長期 vs. 短期
- メリット vs. デメリット
を横軸と縦軸にプロットすることをオススメします。
つまり、新しいトレーニング手法やエクササイズのやり方を仕入れた時に、それを以下の4点で評価するわけです:
- ①長期のメリット
- ②短期のメリット
- ③長期のデメリット
- ④短期のデメリット
一般的に、トレーニングを評価する場合には「トレーニング効果」の有無や大小に着目することが多いと思います。
これは、上の4点の中で言うと、①の長期のメリットにあたります。
しかし、それだけだと評価としては不十分です。
他の3点についても検討した上で、総合的に判断して、取り入れるかどうか、そして取り入れるならどのタイミングでどのように取り入れるかを決断することが大切です。
ウエイトトレーニングを4象限マトリックスで評価してみる
たとえば、これまでウエイトトレーニングをやっていなかったアスリートが、ウエイトトレーニングを取り入れるべきかどうか迷っているとします。
そんな場合は、上の4象限マトリックスを取り入れて、ウエイトトレーニングを評価してみればいいわけです。
- ①長期のメリット:体力向上、ケガをしづらい身体づくり
- ②短期のメリット:一時的なパフォーマンスUP(PAP、resistance priming)
- ③長期のデメリット:パフォーマンスの低下※、関節等の痛みや柔軟性低下※
- ④短期のデメリット:疲労、筋肉痛
※印のものは、ウエイトトレーニングを実施すると必ず起きるデメリットというわけではなく、不適切なやり方でトレーニングをすると起こりうる可能性があるデメリット、ということで挙げています。
4象限マトリックスを活用してトレーニング等を評価するときには、とりあえず起きる可能性のある全てのメリット・デメリットをまずは挙げておくのが大切です。
とりあえず、考えうるメリット・デメリットをすべて挙げてみて、4象限マトリックスの観点から考えると、ウエイトトレーニングにはメリットもデメリットも両方存在することがわかります。
一般的には長期のメリットである体力向上やケガをしづらい身体づくりに着目されがちですが、しっかりとデメリットにも向き合うことが大切です。
まず、③の長期のデメリットを見てみると、ウエイトトレーニングがパフォーマンスの低下に繋がるリスクは存在します。
これについては過去のブログ記事でも触れているので、そちらをお読みください。
» 参考:ウエイトトレーニングをやるとアスリートのパフォーマンスが低下する可能性はある?
とはいえ、多くの場合、ウエイトトレーニングがパフォーマンス低下に繋がるのは、ウエイトトレーニングのやり方に問題があったり、ウエイトトレーニングによる体力向上を競技動作に結びつけるステップ(=トレーニング効果の転移)がうまく行かなかったりする場合です。
つまり、適切なやり方でウエイトトレーニングを実施し、トレーニング効果の転移もしっかりと促進することさえできれば、この③の長期のデメリットは最小限に抑えることができるはずです。
一方、④の短期のデメリットとして、疲労や筋肉痛があります。
これらに関しては、ある程度発生してしまうのはしょうがない部分もありますが、工夫次第でその大きさやタイミングをコントロールすることは十分可能です。
コントロールして、練習や試合への悪影響を最小限に抑えることさえできれば、それほど恐れる必要はないと個人的には考えます。
以上のように分析をすると、ウエイトトレーニングにはメリットもデメリットもあることは間違いありませんが、適切なやり方で実施したり工夫をしたりすれば、デメリットを最小限に抑えつつ、メリットを最大限に享受することができそうです。
そして、そのメリットは、競技力向上を目指すアスリートにとってはとても大きいもので、そのメリットを取りに行かないなんて選択肢はないはずです。
とはいえ、たとえば試合前日にガシガシと普段どおりにウエイトトレーニングをやってしまうと、短期のデメリットである疲労や筋肉痛が試合でのパフォーマンスに悪影響を及ぼしてしまう恐れがあります。
したがって、取り入れるかどうかだけでなく、どのタイミングでどのようにウエイトトレーニングを実施するべきか(または実施しないほうがいいのか)についても、4象限マトリックスを参照すると適切な判断を下すのに役立つはずです。
※試合前日であっても、適切なやり方で実施すれば、短期的なメリットを享受することもできます(Resistance Priming)。
まとめ
なんらかの新しいトレーニングを情報として仕入れた時に、それを取り入れるかどうかを判断するときには、ぜひ今回紹介した4象限マトリックスを使ってみてください。
長期のメリットである「トレーニング効果」だけを見るのではなく、より包括的な評価が可能になるはずです。
ちなみに、この4象限マトリックスを使うテクニックは、トレーニングを取り入れるかどうかを判断するときだけでなく、他のものにも活用できます。
サプリメント等の栄養であったり、冷水浴やマッサージのようなリカバリーだったり。
たとえば、冷水浴については、過去にブログ記事でも取り上げて、疲労回復(=リカバリー)という短期のメリットはありますが、筋肥大や筋力向上といったトレーニング効果を阻害してしまうという長期のデメリットが存在するので、取り入れるときには十分に注意しましょうと警鐘を鳴らしました。
これはまさに4象限マトリックス的な分析に基づいたものです。
» 参考:筋トレ後に冷水浴等のリカバリー手段を実施すると、逆にトレーニング効果が下がるかもしれないので気をつけましょう
トレーニングの場合は「長期のメリット」であるトレーニング効果に注目が集まりがちですが、冷水浴のようなリカバリーメソッドの場合は「短期のメリット」である疲労回復効果に注目が集まる傾向があります。
しかし、それだけで判断すると、長期のデメリット等を見落とす恐れがあるので、もっと包括的な評価をするためにも、4象限マトリックスを活用することには意義があるでしょう。
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【編集後記】
昨日はフィットネスー疲労理論入門セミナーをオンラインで実施しました。
オンラインでのセミナーにも少しずつ慣れてきましたが、対面型のセミナーよりも話の時間が長くなる傾向があるような気がします。
なんでだろう・・・。
※ちなみに、そちらのオンラインセミナーを収録した動画の販売を開始しています。
非公開: 動画 フィットネスー疲労理論