#798 4ヶ月前と比べて体力測定結果が10%低下したら、その4ヶ月間のトレーニングが良くなかったってこと?

 

Katerina jerabkova nV7WA07ikI4 unsplash

 

昨日、以下のようなツイートをしました:

 

ちょっとクイズ形式みたいなツイートでしたが、こちらについての私なりの回答を今日のブログでは解説していきます。

 

 

4ヶ月前と比べて体力測定結果が10%低下したら、その4ヶ月間のトレーニングが良くなかったってこと?

単純に考えると、4ヶ月前と比べて体力測定結果が10%低下したら、その4ヶ月間のトレーニングが良くなかったと判断したくなるところですよね。

体力向上のためにトレーニングをやっているのに、逆に低下してしまうなんて・・・と落ち込んでしまうかもしれません。

そして、トレーニングの内容を見直したくなるかもしれません。

 

でも、たとえば、前回の体力測定を実施したのが、オフシーズン中に6ヶ月間継続してみっちりとトレーニングを実施した後だったとします。

そして、その後すぐにシーズンに入り、毎週末試合が行われて、4ヶ月間が過ぎたときに体力測定をし直したら、結果が10%低下していた、という状況だったとしたらどうでしょう?

受ける印象は少し変わるかもしれません。

 

もしかしたら、シーズン中にトレーニングを継続せずにやめてしまっていたら、体力測定結果は10%どころか20%も低下していたかもしれません。

その場合、相対的な意味合いで考えると、体力測定結果を10%UPするだけのトレーニング効果を得ることができたことになります。

つまり、絶対的には10%低下したけど相対的には10%向上した、ということです。

もしそうなのであれば、その4ヶ月間実施したトレーニングの内容を見直す必要はないかもしれません。

むしろ、そのトレーニングのやり方はシーズン中という状況を考えると最適なものだったかもしれず、下手にトレーニング内容を変えてしまうと逆に効果が下がってしまい、体力測定結果の低下が10%でおさまらず、15%とかになってしまうリスクすらあります。

 

つまり

  • 体力測定結果が低下したとしても、それまで実施していたトレーニングが良くなかったとはかぎらない
  • 体力測定結果が低下したからといってトレーニング内容を変えてしまうと、かえって逆効果になる恐れがある

ということです。

トレーニング効果の良し悪しを評価するために体力測定を実施する場合は、その結果の解釈がかなり難しいんだ、ということは肝に銘じておくべきでしょう。

 

 

事実は観察できても、反事実は観察できない

「シーズン中にトレーニングを継続せずにやめてしまっていたら、体力測定結果は10%どころか20%も低下していたかもしれない」と説明しました。

この「20%低下」というのは、そういう前提と比べることで初めて、トレーニングの真の効果を評価することができる、という概念を理解していただくために挙げた仮想の数字です。

実際のところ、シーズン中にトレーニングを継続せずにやめていたとしたら、体力測定結果が20%低下したかどうかはわかりません。

 

「体力測定結果が10%低下した」という現実に起こったことを「事実」と呼び、「仮にトレーニングをしなかったらどうなっていたか(例:体力測定結果が20%低下した)」という、実際には起こらなかった「たら・れば」のシナリオのことを「反事実」と呼びます。

トレーニングの効果があったことを証明するためには、「事実」における結果と「反事実」における結果を比べる必要があります。

しかし、タイムマシンにでも乗って時間をさかのぼって、トレーニングをやらずにシーズンを4ヶ月過ごした時点で体力測定をやらない限りは、「反事実」を観察することはできません。

残念ながら、本ブログ記事執筆時点においては、タイムマシンは開発されていないので、「事実」と「反事実」を比較することは不可能です。

このあたりの考え方については、以下の本で詳しく説明されているので、一読されることを強くオススメします(タイトルに「経済学」と入っていますが、S&Cコーチにも勉強になる普遍的な内容です)。

 

したがって、同じ一人のアスリートにおいて、トレーニングをやった場合(=事実)とやらなかった場合(=反事実)を同じ条件下で比較することは難しいのです。

だから、体力測定結果が10%低下した場合に、「やらなかった場合は20%低下していたはずだから、それと比べればトレーニング効果があった」なんて確信を持って言うことはできません。

「定期的に体力測定をして、トレーニングの効果を確認する」ということが意外に難しいことがおわかりいただけるでしょうか?

 

 

出力で効果を確認できないから入力の精度を磨く

私はトレーニングによって体力が向上するプロセスを説明するときに、下図のようなモデルを使うことが多いです。

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「入力」というのは、どのようなトレーニング刺激を身体に与えるか、を表しています。

「出力」は、その結果として引き起こされる体力レベルの変化、を表しています。トレーニングによる適応だけでなく、疲労等の影響も含めた総合的なものになります。

トレーニング効果を確認するために実施する体力測定というのは、このモデルでいうところの「出力」を観察していることになります。

で、すでに説明したように、この出力を観察するだけでは、トレーニング効果の良し悪しを判断するのはとても難しいです。

 

私も時々「実施したトレーニングが効果があったかどうか、どう評価しているのですか?」と質問をされることがあります。

教科書的な模範解答としては「定期的に体力測定を実施して、体力が狙い通り向上しているかを確認します。そして、思ったような向上が見られない場合は、トレーニング内容を見直します」みたいな感じになるのでしょう。

「PDCAサイクルを回すのが大切です」みたいな模範解答を目にすることもあります。

しかし、すでに説明したように、上図の「出力」を体力測定で観察したとしても、トレーニング効果を適切に評価するのは非常に困難です。反事実と比較することができないので。

 

したがって、私のアプローチとしては、出力を観察することよりも、入力の精度を磨くことに注力するようにしています。

つまり、トレーニングについての知識・スキル・経験をできるだけ高め、目の前の状況・アスリートにとって何がベストな入力なのかをトコトン突き詰めて考える、ということです。

そうすることで、その時点で考えうるベストな入力を提供することができれば、ベストな出力を得られる可能性を最大限に高めることに繋がるはずです。

この「入力」の精度を磨くことについての私の考え方は、過去にブログ記事で書いているので、そちらをお読みください:

» 参考:S&Cコーチとして「自信」は必要か?

 

こういう説明をすると「河森は自分の提供するトレーニングに自信があるからといって、それを提供しっぱなしで、体力測定をして本当に効果があったのかどうかを評価することはしないのか?そんなの無責任だ!」みたいに言う人がいます。

しかし、すでに説明したとおり、体力測定をしたからといって、トレーニングの効果を評価するのは難しいのです。

そこの部分の限界を理解することなく、体力測定を何度も繰り返すことで、練習やトレーニングに使うことのできる時間や労力を無駄にアスリートから奪うことのほうが無責任だと私は思います。

私が思いつかないような方法で、体力測定を実施して正確にトレーニング効果を評価できる、という方がいらっしゃったら、ぜひともご教授いただきたいくらいです。

 

 

まとめ

体力測定をしてその結果が向上した・低下した、というだけで単純にトレーニング効果を評価するのは危険です。

トレーニングをしなかった場合、あるいは他のトレーニングを実施した場合と比較して、効果の大きさがどうだったのかを判断する必要があります。

ただし、トレーニングをしなかった場合、あるいは他のトレーニングを実施した場合の結果というのは、「反事実」と呼ばれるものであり、観察することはできません(タイムマシンでも乗らない限り)。

だから、基本的には「定期的に体力測定をして、トレーニングの効果を確認する」というのは非常に難しいことなのです。

 

研究の世界においては、反事実を「もっともらしいデータ」で穴埋めをして比較する方法がとられます。

被験者を比較可能な2つのグループにわけて、1つのグループはトレーニングを実施して、もう1つのグループはトレーニングを実施しないで、体力測定結果の変化をグループ間で比較する、という手法です(「ランダム化比較試験」と呼ばれます)。

1人のアスリートで事実と反事実を比較するのが不可能なので、研究においては比較可能なグループを作ってその平均値をみることで事実と反事実を比較して検証するわけです。

 

論文を読み込むことで、そのような研究結果の蓄積により得られる科学的知見を知識として仕入れ、さらにはS&Cコーチとしての技術を磨き、自らの経験も踏まえて、目の前の状況・アスリートにとってベストの入力をトコトン突き詰めて考える。

これが現状としては、S&Cコーチができるベストなアプローチなのではないか、と個人的には考えています。参考にしていただければ。

 

ちなみに、体力測定をすることを全否定しているわけではありません。

あくまもで、トレーニング効果を確認するための体力測定が難しいと考えているだけです。

体力測定には他の目的もあるので(例;トレーニングにおける強度設定のためのデータ取得、アスリートのモチベーションUP、競技コーチやアスリートへのアピール)、目的に応じて実施することは大切です。

 

また、私も「トレーニング効果を確認するための体力測定」を完全にあきらめているわけではありません。

どうにかしてできないものかと情報収集しつつ、日々試行錯誤しています。

ただ、現状としては難しいところなので、入力の精度を磨くことが優先順位は高い状態になっています。

 

 

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【編集後記】

先日、娘がテレビで王様のブランチをみていたときに「あ、ミッキーマウス!」と叫んだので、ディズニーランドの特集でもやっているのかと思って画面を見たら、まったく関係のない特集をやっており、ミッキーマウスなんて一切でてきませんでした。

なんでミッキーマウスなんて叫んだのかな〜と不思議に思っていたら、理由が判明しました。

ワイプの中にニッチェの江上さんが映っていたのです。たしかにシルエットはミッキーマウスだけど・・・。

1 Comment

匿名

正直結果が出せなかったコーチの言い訳にしか聞こえないですね

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