#663 重要な試合の当日か前日に筋トレをやるとパフォーマンスがUPする!?

 

Alora griffiths WiKEnlt6Z3U unsplash

 

試合の何日前に最後の筋トレを実施するか?

重要な試合の前は、できるだけ疲労をためずに、コンディションを整えたいところです。

そのための手法として「テーパリング」というものがあり、それについては私も本を1冊書きました。

 

テーパリングに関連して「重要な試合前の最後の筋トレ(=ウエイトトレーニング)を試合の何日前に実施するか」というのは大きなトピックです。

以前の私であれば、重要な試合の1週間弱前くらいに最後のウエイトトレーニングを計画していました。

たとえば、週末に試合があるのであれば、月曜日か遅くても火曜日に最後のウエイトトレーニングを実施して、残りの期間は疲労回復・コンディション調整に充てるというイメージです。

もちろん、プロ野球やJリーグやBリーグのように、試合が頻繁にある状況には当てはまらないので別の戦略が必要ですが。

 

テーパリングの根拠となっている「フィットネス−疲労理論」にもとづいて考えると、試合の直前にウエイトトレーニングをやったとしても急に筋力が向上することはありません。

その一方で、試合の直前にウエイトトレーニングをやりすぎてしまうと筋肉痛や疲労が残ってしまい逆効果になってしまうリスクがあります。

したがって、試合前のテーパリング期間中は(一般的には2週間程度)、それまでの準備期間中にしっかりとトレーニングをして積み上げてきた筋力が低下しすぎないように、軽めの刺激を身体に入れて、できるだけ筋力を維持することを目指すイメージでウエイトトレーニングを計画することになります。

となると、重要な試合の1週間弱前くらいに最後のウエイトトレーニングを量を少なめに入れてあげるのが無難なところだろうというのが、これまでの私の考えでした。

 

 

試合直前まで筋トレを続けた方が身体が動く!?

その一方で、アスリートからのフィードバックで、ウエイトトレーニングをやっているときのほうが「身体が動く」「調子が良い」「痛みが消える」という声を聞く機会が増えてきました。

これは「健康的に」ウエイトトレーニングを実施することを追求してきた結果だと思うので、「そうだろう、そうだろう!俺の教えるウエイトトレーニングは身体にいいんだ!」なんてほくそ笑んでいました。

» 参考:ウエイトトレーニングをやったほうが「身体が動く」「痛みが消える」という経験をするアスリートがいます

 

しかし、これは見方を変えると、重要な試合のかなり直前までウエイトトレーニングをやったほうが、試合で身体が動く・調子がいい可能性を示唆しているとも考えられます。

実際に、こちらが指示したわけでもないのに、試合の2~3日前になって動きがイマイチだと感じたアスリートが、自身の判断でウエイトトレーニングを実施した結果、「いい感じに身体に刺激が入って動きが良くなりました」と報告してくれるケースもでてきました。

そうした経験をもとに、「これは、重要な試合前の最後のウエイトトレーニングは1週間弱前、という考えを改めて、もしかしたら試合の2~3日前に最後のウエイトトレーニングをやったほうがいいのかもしれないな・・・」と考え始めていました。

 

 

Resistance Primingのレビュー論文

そんな中、試合の2~3日前まで・・・という私の考え方を一気に飛び越えて、試合の当日もしくは前日にウエイトトレーニングを実施すると、試合でのパフォーマンスがUPするんじゃないかと示唆する科学的データをまとめたレビュー論文が発表されました。

Harrison et al. (Epub ahead of print) Resistance Priming to Enhance Neuromuscular Performance in Sport: Evidence, Potential Mechanisms and Directions for Future Research. Sports Med. 

 

これは、ウエイトトレーニングを実施した後は筋力・パワー・スプリント等のパフォーマンスが一時的にUPし、その効果が48時間まで持続するという現象(=”delayed potentiation” effect)に着目して、関連論文をまとめて報告したものです。

要点をまとめます:

 

  • 一時的なパフォーマンスUP効果を期待して実施する筋トレを「resistance priming」と呼ぶ
  • resistance primingは筋力・パワー・スプリント等のパフォーマンスを一時的に向上させる
  • resistance primingの効果は48時間ほど持続するが、効果がもっとも大きいのは6時間後から33時間後まで
  • 高強度(≧85%1RM)を使ったエクササイズ(例:スクワット)もしくは低~中強度(30~40%1RM)を使って爆発的に実施するバリスティック型エクササイズ(例:ジャンプスクワット)が効果的
  • 量は少なめにしたほうが効果的
  • 高強度(≧85%1RM)の場合は、ウォームアップセットで徐々に重量を増やしていき、85%1RM以上での総レップ数は6レップ以下に抑えるのが効果的
  • 低~中強度(30~40%1RM)の場合は、総レップ数15~20レップを何セットかに分けて実施するのが効果的
  • 下半身でも上半身でもdelayed potentiationは起こるが、効果は筋群や動作に特異的(例:押す動作を向上させたいなら、resistance primingも押す動作で)
  • delayed potentiationが起きるかどうか、その効果の大きさは個人差がある
  • 疲労が溜まっている状態でresistance primingをやっても効果は期待できないかも(科学的データはないが著者の予想)
  • まだまだ科学的データが足りないから、さらなる研究が必要

 

resistance primingの効果が6~33時間後がもっとも高そうなので、午後もしくは夜に試合がある日の朝か午前中にやるか、試合の前日にやるような形になるかと思います。

量は本当に少なめで、軽く刺激を入れるようなイメージです。やりすぎると疲労によるマイナスの効果が上回ってしまうので。

強度に関しては、2つの選択肢があって、重いのを担ぐか、軽めで爆発的に実施するかです。

また、個人差もあるようなので、本当に重要な試合の前に初めてresistance primingを試すのは危険です。あなたには合わない可能性があるので。

事前に重要度・優先度の低い試合で、resistance primingが自分に合うかどうかを試しておいたほうがいいでしょう。

 

ちなみに、今回紹介したレビュー論文で報告されている”delayed potentiation” effectは、筋力・パワー・スプリントといった、比較的短時間に大きな出力をする「瞬発力」タイプの活動におけるパフォーマンス向上に限られます。

「持久力」タイプの活動においても、delayed potentiation effectが起きるかどうかは、まだ研究がされておらず、その効果は未知のものです。

こちらも今後の研究に期待ですね。

 

 

まとめ

重要な試合の何日前に最後のウエイトトレーニングを実施すればいいのか、というトピックについて書いてみました。

従来考えられていたよりも、かなり直前までウエイトトレーニングを実施しても良さそうだというのがここ最近の流れです。

メカニズムは詳しくわかっていませんが、delayed potentiationというパフォーマンスUP効果が期待できますし、健康的なフォームで実施することで「身体が動く」「痛みが消える」といった効果も期待できます。

ただし、もしウエイトトレーニングをやると膝とか腰が痛くなるのであれば、試合の直前にやるのはオススメしませんし、そもそもやり方を見直したほうがいいでしょう。

» 参考:【アスリート向け】ウエイトトレーニングをやると膝が痛くなるとか、いきなりメインセットやると肩が痛いから何セットもウォームアップセットをやって痛みを和らげないといけないっていうのは何かがおかしいです

 

とはいえ、現時点では、試合の当日や前日にウエイトトレーニングをやらせる勇気は私にはありません。

絶対にそれがいいと自信を持って言えるほどの科学的データが蓄積されているとはいえないので。

だから、現時点では、試合の2~3日前までウエイトトレーニングをやってもいいかな〜くらいが私の考え方です。ご参考まで。

 

 

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【編集後記】

昨日は佐々部先生のセミナー「球技スポーツにおけるトータルコンディショニング」を受講。いわゆる「ストーリー」がしっかりとしていて、単なる情報の羅列ではなく、理解しやすい論理展開で内容を伝えてもらえました。今後、他のテーマでのセミナーにも期待です。

» 参考:「話す仕事」「書く仕事」では、「ストーリー」を意識すると伝わりやすくなる