「持久力を向上したい!」というアスリートは多いでしょう。
では、持久力を上げるためには、どのようなトレーニングを実施するのがベストなのでしょうか?
さまざまな切り口があると思いますが、今日は「持久力トレーニング強度の配分の仕方」に着目して、最適なトレーニング方法について解説していきます。
Polarizedトレーニングとは?
持久力向上のための最適なトレーニング強度の配分として「Polarizedトレーニング」というアプローチが提唱されています (1)。
具体的には、持久力トレーニングの強度を大きく「低・中・高」の3つに分けた時に、主に「低」強度と「高」強度のトレーニング量・頻度を多くして、真ん中の「中」強度でのトレーニングは少なくするアプローチのことを指します。
持久力トレーニングの強度の分類の仕方はいろいろありますが、血中乳酸濃度をもとにざっくりと分けると以下のような形になります:
- 低強度:血中乳酸濃度 ≦ 2.0mM
- 中強度:2.0mM < 血中乳酸濃度 < 4.0mM
- 高強度:血中乳酸濃度 ≧ 4.0mM
イメージとしては、「低強度」は隣の人とおしゃべりをしながら運動できるくらいのペース、「高強度」は最近流行りのHIIT(高強度インターバルトレーニング)くらいのペース、「中強度」はその中間くらい、といった感じです。
そして、各強度におけるトレーニング量の分配として:
- 低強度:75-85%
- 中強度:5-10%
- 高強度:15-20%
という形が最適であるというのが「Polarizedトレーニング」のコンセプトです (1)。
「polarize」という英単語を辞書で調べると「〜を二極化させる」という意味合いが載っています。
つまり、低強度と高強度という両極端な強度におけるトレーニング量や頻度を多くして、真ん中にあたる中強度のトレーニング量や頻度は著しく抑えるという戦略が「Polarizedトレーニング」ということになります。
あえて日本語に訳すなら「両極端トレーニング」といったところでしょうか。
「Polarizedトレーニング」については、以下の記事でもわかりやすく解説されているので、興味のある方は読んでみてください。
参考 効果的・効率的に持久的運動能力を高める”Polarizedトレーニングモデル”とは!?ZONE MAG
Polarizedトレーニングが提唱されるようになった背景
「Polarizedトレーニング」というコンセプトを提唱し始めたのは、ノルウェー在住のスポーツ科学者Stephen Seiler氏です。
Seiler氏はもともとアメリカ出身の方で、「Go as hard as you can」「No Pain, No Gain」という考え方を持っていたそうです。
つまり、追い込むようなキツいトレーニングをやらないと強くならないと信じていたとのことです。
しかし、ノルウェーに移住した時に、実績のあるクロスカントリーの著名なコーチから「乳酸閾値にあたるような中強度のトレーニングは無意味だ。低強度でたくさんトレーニングをして、高強度でのトレーニングも少しやって、中強度のトレーニングはほとんどしないのがいい」と言われたそうです。
また、あるアスリートがとても低強度である意味「チンタラ」とトレーニングをしているのを見て、「なにやってるんだ、もっと追い込まないと」と言ったら「今日は低強度の日だから、あまり乳酸が出るような強度にしちゃダメなのよ。高強度のトレーニングは明日やるから。」と言われたそうです。
こうした経験をキッカケに、トップレベルの持久系アスリートの練習内容を分析したところ、中強度のトレーニング量が極端に少ないことを発見し、上記のような「Polarizedトレーニング」を提唱するに至ったとのことです。
この辺りのエピソードについては、Seiler氏ご本人が以下の動画で語られています。
※Polarizedトレーニングについても説明されているので、オススメです。
「Polarizedトレーニング」というアプローチは、Seiler氏が提唱する前から現場では行われてきたことです。
したがって、Seiler氏が一番最初に発明したわけではありませんが、「Polarizedトレーニング」と名付けて、世に広めた功績は大きいです。
Polarizedトレーニングは本当に持久力向上に効果があるのか?
そもそも「Polarizedトレーニング」というコンセプトは、トップレベルの持久系アスリートの練習内容を調べたら、そのような強度配分だったという事実に基づいています。
つまり、「持久力がとても高いアスリートがそのようなやり方で練習をしているのだから、そのようなやり方で練習をすれば持久力が高くなるはずだ」という仮説に拠っているにすぎません。
仮説としては有力な仮説かもしれませんが、これだけだと「因果関係」の有無を主張するにはエビデンスとして弱いです。
» 参考:【原因と結果(=因果関係)】「結婚して白髪が増えたけど、年齢的に白髪が増えるタイミングと結婚の時期が重なっただけかもしれない」という思考回路は、S&Cコーチにとって重要
もしかしたら、トップレベルの持久系アスリートは遺伝的に恵まれていて何をやってもトップレベルに到達していたかもしれないからです。
たとえば、中強度のトレーニングばかりやっていたとしても、持久力が高まっていたかもしれないのです。
幸いなことに、「Polarizedトレーニング」の有効性を直接調べたタイプの研究も近年行われており、おおむね、「Polarizedトレーニング」の有効性を示すような結果が出ています (2)。
したがって、まだまだ科学的知見の数としては少ないですが、現時点で手に入るデータを検証する限りでは、「Polarizedトレーニング」が持久力を向上するのに最適なやり方である可能性が高いと言えそうです。
Polarziedトレーニングを実践する時に気をつけること
「Polarizedトレーニング」というアプローチが持久力向上には最適だろうということがわかりました。
では、これを実践するうえでは、どのようなことに気をつければいいのでしょうか?
- ① 「低強度」はかなりラクなペース
- ② 「低強度」が「中強度」にならないようにするには自制心が求められる
- ③ 非持久系競技のアスリートの場合、そのまま実践するのは難しい
① 「低強度」はかなりラクなペース
上の方でも述べましたが、「Polarizedトレーニング」で言うところの「低強度」はかなりラクなペースです。
イメージとしては、隣の人とおしゃべりをしながら運動できるくらいのペースです。
ラクすぎて一見意味がないように思えるかもしれない「低強度」でのトレーニング量を蓄積するのが「肝」なのです。
具体例を挙げると、某冬季競技の選手たちは、雪の上で練習をできない夏の時期には、「低強度」での運動を「週に10時間」蓄積するよう指示されていたらしいです。
その様子を見たこともありますが、印象としてはかなり「チンタラ」やっているように見えました。
しかし、「Polarizedトレーニング」の観点から考えると、チンタラやっているように見えるくらいの「低強度」で運動するのが重要ということです。
② 「低強度」が「中強度」にならないようにするには自制心が求められる
①で述べたように、「低強度」はかなりラクなペースなので、マジメなアスリートは「こんなチンタラやってたら意味ないんじゃないか?」と考えて、勝手に強度を上げてしまう恐れがあります。
しかし、それだと「低強度」であるべきトレーニングが「中強度」のトレーニングになってしまいます。
そうすると、「Polarizedトレーニング」のモデルから外れてしまうので、最適な持久力向上効果を得ることができなくなってしまいます。
「追い込むようなキツいトレーニングをやらないとダメだ」という先入観を取り除き、「低強度」にとどまったままトレーニングを継続するには、アスリート側に自制心が求められます。
指導者の立場としては、そこの説明をしっかりとしたうえで、「勝手に強度を上げちゃダメよ♡」というのをいかに伝えることができるかが鍵となります。
③ 非持久系競技のアスリートの場合、そのまま実践するのは難しい
競技練習がある意味イコール持久力トレーニングでもある持久系競技のアスリートの場合、おおいに「Polarizedトレーニング」を取り入れて、持久力を向上してもらいたいです。
しかし、非持久系競技の場合、「Polarizedトレーニング」をそのまま取り入れて実践するのは難しいです。
なぜなら、持久力トレーニングだけでなく、競技練習やウエイトトレーニング等、他のこともやらないといけないからです。
持久力の向上のためだけに割くことのできる時間が限られているのです。
その限られた時間(たとえば1時間のセッションを週に2回)の中で、強度配分をPolarizedするのは現実的ではないですし、おそらく最適なやり方とはならないでしょう。
したがって、トレーニングに割り当てることのできる時間の制約がない場合は「Polarizedトレーニング」が最適であるという知識は持ちつつも、それが当てはまらない非持久系競技のアスリートの場合には、異なるアプローチを選択する必要が出てきます。
具体的には、「高強度」のトレーニングを優先して実施し、そのうえでまだ持久力向上に割くことのできる時間が余るのであれば、「低強度」のトレーニングを実施するというやり方になります。
まとめ
持久力を向上するためのベストのやり方として、「低強度」と「高強度」の両極端の強度を中心にトレーニングを実施する「Polarizedトレーニング」というアプローチを紹介しました。
とりあえずキツい走り込みをしておこう的な考え方でトレーニングをすると、おそらく「中強度」の範囲内に収まることになり、キツいことを一生懸命やっているわりに、持久力向上効果は最適ではなくなってしまうという不幸な結果になってしまいます。
それを避けるためにも、科学的知見にもとづいて、ベストな持久力トレーニング強度の配分の仕方(=Polarizedトレーニング)を知っておくことは大切でしょう。
また、「Polarizedトレーニング」は理屈としては最適なやり方かもしれませんが、実践するうえでは様々な問題に直面するはずなので、その時は柔軟な判断を下すことが必要になります。
参考にしていただければ。
参考文献
- Seiler (2010) What is Best Practice for Training Intensity and Duration Distribution in Endurance Athletes? Int J Sports Physiol Perform 5(3): 276-91
- Rosenblat et al. Polarized vs. Threshold Training Intensity Distribution on Endurance Sport Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Strength Cond Res. [Epub ahead of print]
動画 非持久系競技のためのHIIT
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【編集後記】
バスケ日本代表がW杯出場を決めましたね!おめでとうございます!
個人的にはニック・ファジーカスに帰化してくれてありがとう!って感じです。
適当に放り投げているようなシュートがスパスパ入るのがすごすぎる・・・。