S&Cコーチとして「プログラムデザイン」のスキルは非常に重要です。
私が自主開催しているセミナーの参加者に、今後セミナーで話をしてほしいトピックについてアンケートをとると、「プログラムデザイン」を希望される方がダントツで多いです。
「プログラムデザイン」というトピックについて考えるときには、「体力向上効果を高めるために最適な強度・量・頻度・エクササイズetcは何か?」というのが一番知りたいところでしょう。
そのようなテーマについては、本も出版されているし、セミナーも開催されているし、研究でも調べられて論文も発表されています。
トレーニング指導の専門家の皆様は、さまざまなところから情報を仕入れて自らの知識をアップデートしつつ、ご自身のプログラムデザインのスキルを磨かれているはずです。
今回のブログでは、本を読んだり、セミナーに参加したり、論文を読んだりしても、なかなか仕入れることができない、だけど実際にプログラムデザインをするときには必ず考慮にいれるべき重要な問題について解説します。
具体的には「ロジスティクス」という問題になります。
トレーニングにおける「ロジスティクス」
「ロジスティクス」という言葉は、一般的には「物流」とか「兵站」という意味があります。
トレーニングの文脈で「ロジスティクス」という言葉を使う場合は、作成したプログラムを実行するために必要な設備や器具が揃っているかどうか、を指します。
どれだけ完璧なプログラムを作成しても、設備や器具が足りなくて実行できなければ、それは絵に描いた餅です。
プログラムデザインについて学校の授業で勉強したり、本を読んだりしているだけでは気づかないけど、スポーツ現場に出て、作成したプログラムを実行しようとしたときにぶち当たる壁、それが「ロジスティクス」なのです。
トレーニングにおける「ロジスティクス」について体系的に学ぶ機会は少なく、多くの専門家はトライアル・アンド・エラーを重ねて、実地で知識や経験を積み重ねることになります。
私もそうでした。
そこで、私なりの経験をまとめて、簡単にお伝えしたいと思います。
とくに、「ロジスティクス」の問題により、作成したプログラムを実行できないケースをいくつか紹介します。
それを予め知っておけば、そのような問題が発生しないように注意をしながら、プログラムデザインをすることに繋がるはずです。
「ロジスティクス」の問題により、作成したプログラムを実行できないケース
大きく分けて、3つのケースが存在します。
- ①選択したエクササイズを実施するために必要な器具がない
- ②器具はあるけど、数が足りない
- ③器具はあるし数も足りているけど、他の利用者との兼ね合いがある
①選択したエクササイズを実施するために必要な器具がない
たとえば、ヘックスバーデッドリフトをやらせたい、プログラムに入れたい、と思っても、ヘックスバーが無ければ、そのエクササイズを実行することはできません。
インクラインダンベルベンチプレスをやらせたい、プログラムに入れたい、と思っても、ダンベルやアジャスタブルベンチが無ければ、そのエクササイズを実行することはできません。
とても単純なことです。
そのようなロジスティクス的な問題を避けるために必要なのは、指導対象者がトレーニングをする環境において使用可能な器具を把握しておくことです。
そして、それを踏まえたうえでプログラムデザインを行えばいいのです。
そんなに難しいことではありません。
ただし、ちょっとトリッキーな状況も存在します。
多くのアスリートは毎回同じ施設でトレーニングを実行するはずです。
しかし、海外遠征の多い日本代表レベルのアスリートや、アウェイゲームで国内遠征の多いプロスポーツ選手などが、遠征先でもトレーニングをするケースでは、トレーニングをする施設が固定されていません。
そのような場合、遠征先で使うすべてのトレーニング施設において使用可能な器具を把握しておくことは、現実的ではありません。
現実的な解決策としては、世界中どこに行っても利用できるトレーニング器具を想定して、プログラムデザインを作成しておくことです。
そして、「世界中どこに行っても利用できるトレーニング器具」というのは、基本的にはバーベルのことです。
したがって、遠征の多いアスリートに対しては、バーベルエクササイズを中心にプログラムデザインをして、特殊な器具を必要とするエクササイズは極力排除することが大切です。
「世界中、どこに行っても利用できる可能性が高いトレーニング器具って何かな?」って考えると、バーベル一択なんだよな。 https://t.co/n9D4E5raZt
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
②器具はあるけど、数が足りない
たとえば、ヘックスバーが1本あれば、ヘックスバーデッドリフトを実行してもらうことができます。
だから、プログラムにそのエクササイズを入れたいのであれば、入れることは可能です。
しかし、チームやグループ単位で、ある程度の人数を同時にトレーニングさせないといけない場合、器具はあるけど数が足りない、という問題にぶち当たることがあります。
10〜15人くらいのアスリートを同時にトレーニングさせないといけないけど、ヘックスバーは1本しかない(普通のバーベルまたはオリンピックシャフトは4本ある)、という状況を想像してみてください。
どれだけ工夫をしても、すべてのアスリートにヘックスバーデッドリフトをやらせることは難しいですよね?
本当はヘックスバーデッドリフトをやらせたくても、ロジスティクス的な問題のせいで、通常のデッドリフトを選択することになるでしょう。
あるいは、柔軟性や筋力の関係で、どうしても通常のデッドリフトを適切なフォームで実施できない少数のアスリートだけにヘックスバーデッドリフトをやらせて、それ以外のアスリートには通常のデッドリフトをやらせる、という程度の工夫はできるかもしれません。
したがって、とくに大人数を同時にトレーニングさせるケースにおいては、器具があるかどうかだけではなく、十分な数があるかどうか、までを考えておく必要があります。
③器具はあるし数も足りているけど、他の利用者との兼ね合いがある
大人数を同時にトレーニングさせるときでも対応できるほど十分な数の器具があれば、基本的にはその器具を使ったエクササイズをプログラムに入れても問題ないことが多いでしょう。
しかし、それは自前のトレーニング施設を有していたり、自前のトレーニング施設ではなくてもトレーニングをする時間帯はその施設を専有できるような場合に限られます。
それ以外の場合、つまり、トレーニング施設に他の利用者もいて、共有する必要があるような場合においては、理想通りのプログラムを実行できないこともありえます。
たとえば、ヘックスバーが4本ある施設で、10〜15人くらいのアスリートを同時にトレーニングさせる場合、一見ヘックスバーデッドリフトをプログラムに入れても問題なさそうに思われるかもしれません。
しかし、その施設ではヘックスバーが大人気で、最低でも2〜3本は常に使われている状況だったらどうでしょうか?
実質的に使えるヘックスバーは1〜2本ということになり、やはり10〜15人すべてのアスリートにヘックスバーデッドリフトをやらせるのは困難になります。
とはいえ、そんなことを言い出したら、ヘックスバー以外の器具であっても、他の利用者に使われていて、想定した数が利用できない状況は起こりえます。
だから、他の利用者と共有するような施設において、ある程度の人数でトレーニングを指導せざるを得ない場合は、専有利用をさせてもらえないかどうか、あるいは、使用したい器具を予約することはできないかどうか、施設側と交渉をしたほうがいいのかもしれません。
まとめ
プログラムデザインにおいて、ロジスティクスが影響を与えるのは主に「エクササイズ選択」です。
プログラムに含めたいエクササイズが実行可能かどうか、そのために必要な器具が使えるのかどうか、を確認したうえで、計画することが重要です。
プログラムデザインをするときに参考にしてみてください。
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【編集後記】
電子書籍の表紙を自作したのですが、私にはデザインのセンスが全然ないようだったので、「ココナラ」というサービスを利用して、プロにお願いしました。
やはり、プロは違います。