ロシアンリーン、ノルディックハムストリングと呼ばれるエクササイズ
ハムストリングの肉離れを予防する目的で「ロシアンリーン」とか「ノルディックハムストリング」と呼ばれるエクササイズの人気が高まっています。
このエクササイズは「エキセントリック(筋肉が伸ばされながら力を発揮する)」局面にフォーカスしてハムストリングを鍛えることができるのが大きな特徴です。
エキセントリック局面を強調してトレーニングすることにより、ハムストリングが引き伸ばされて長くなった状態でも大きな力を発揮できるようになり、それがハムストリングの肉離れ予防に繋がると言われています。
実際にこのエクササイズは研究対象としても人気があり、その肉離れ予防効果についても多くの学術論文が発表されていて、科学的にも肉離れ予防に効果があることが知られています。
ノルディックハムは、ほぼ確実にハムの肉離れの予防効果があるようです。
また、もしやと思い研究の中の数値から勝手に週の実施頻度(×compliance)と予防効果をプロットして比べたところ、綺麗な関係性が。
3〜15rep×3セットくらいであれば、週5〜6まではやればやるだけ効果あり?
最低でも週2は! pic.twitter.com/z9ZLCV1nyq
— 佐々部孝紀 Kouki Sasabe (@tyr7bbb)
エキセントリックな運動と筋肉痛
「ハムストリング肉離れ予防の効果が期待できるのであれば、すべてのアスリートがこのエクササイズをドンドンやればいいじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、エキセントリックを強調してトレーニングをすることは、ある意味「諸刃の剣」でもあり、肉離れ予防効果というプラスの側面だけでなくマイナスの側面も存在します。
そのマイナスの側面とは「筋肉痛が起こりやすい」ということです。
筋肉痛は、慣れないことをやったり、いきなり運動量を増やしたりすれば、エキセントリック局面を強調しようがしまいが発生するものですが、特にエキセントリックな運動で起こりやすいと言われています。
したがって、「ロシアンリーンはハムストリング肉離れ予防に効果があるのか!じゃあ、今日から取り入れてみよう!」といきなり頑張ってやっちゃうと、おそらく筋肉痛になります。それもすごく。
明日や明後日に大事な試合があったりすると、筋肉痛の影響で良いパフォーマンスを発揮できないかもしれません。
だから、ロシアンリーンに限らず、エキセントリック局面を強調するようなエクササイズを導入するときには、筋肉痛が発生するリスクを想定しておく必要があります。
Repeated Bout Effect
みなさんも経験されたことがあると思いますが、初めてやった時にはメチャメチャ筋肉痛になるような運動でも、定期的に継続してやっていくと、身体が慣れてきてそれほど筋肉痛にならなくなるということがあります。
そのように、筋肉痛を起こすような運動(外部刺激)に対して身体が慣れるという効果のことを英語で「repeated bout effect」と呼びます。
したがって、初めてロシアンリーンを取り入れた時は、その後数日間に渡ってえげつない筋肉痛を経験することになるはずですが、継続して実施していれば「repeated bout effect」が発動されて、筋肉痛の程度がだんだん小さくなっていくはずです。
そういう知識にもとづいて「最初は筋肉痛がひどいかもしれないけど、そのうち慣れるはずだから最初だけ我慢しろ!」とアスリートに言いきかせてロシアンリーンを導入することもできなくはないですが、もっと良い方法があります。
というのも、この「repeated bout effect」というのは、最初にひどい筋肉痛を起こすようなエキセントリック運動をガッツリとやらないと発動されないわけではなく、それほど筋肉痛が起こらないような軽めのやり方で運動をしても発動することが知られています。
つまり、ハムストリング肉離れ予防のために、いきなりガッツリとフルでロシアンリーンをやらないといけないわけではなく、最初に導入するときにはやり方を部分的に変更して、軽めにやっておいても、その後に十分「repeated bout effect」の恩恵を受けることができるということです。
「軽めにやる」と言っても、具体的にどのような変更をしたら良いのかというと:
- 可動域を制限する
- トレーニング量を少なくする
- トレーニング強度を下げる
といった手段が考えられます。
①可動域を制限する
エキセントリックな運動をする時に、可動域を制限して筋肉があまり引き伸ばされないようにしておくと、筋肉痛の程度も小さく抑えることができると言われています。
たとえばロシアンリーンで言うと、フルの可動域で実施して胸が床に着くまで上体を倒すのではなく、上体が45°くらい倒れたところでベンチや壁に捕まって動きを止める等の工夫が考えられます。
そのように可動域を限定した動きであっても「repeated bout effect」の恩恵を受けることはできるのです。
したがって、最初のうちは筋肉痛を抑えるために可動域を制限しながらロシアンリーンを実施しておき、「repeated bout effect」が発動されて筋肉痛が起こりづらい身体に変わっていくにしたがって、ロシアンリーンにおける可動域を増やしていって、最終的には床まで降りるようにすることが推奨されます。
②トレーニング量を少なくする
少ないトレーニング量でも「repeated bout effect」は発動されるし、少ないトレーニング量のほうが筋肉痛が起こりづらいです。
したがって、ロシアンリーンを導入する時は、「2セット×5レップ」程度の少ない量から開始して、身体が慣れるにしたがってレップ数やセット数を増やしていくことが推奨されます。
③トレーニング強度を下げる
トレーニング強度を軽く抑えても「repeated bout effect」は発動されるし、低いトレーニング強度のほうが筋肉痛が起こりづらいです。
ロシアンリーンにおいて強度を下げるのはなかなか難しいのですが、ゴムバンド等を使った補助を活用すれば強度を下げることは可能です。
ただし、ゴムバンドが切れたりするとケガに繋がりかねないので、安全を十分に確保できることが大前提です。
まとめ
ハムストリング肉離れ予防のために、初めてロシアンリーンを導入する際に、筋肉痛を抑えつつ「repeated bout effect」の恩恵を得るためにできる工夫を紹介しました。
実際に現場で取り入れるとすると、②のトレーニング量を少なくするというやり方が現実的かな〜と個人的には思います。
もし、ベンチ等をうまく活用できるのであれば、①の可動域を制限するというのも組み合わせても良いでしょう。
まあ、いきなりフルでガッツリやっても、そのうち慣れてきて「repeated bout effect」も発動して、いずれは筋肉痛がそれほど起こらなくなるとは思いますが、最初のえげつない筋肉痛を少しでも避けることができる工夫が存在するという知識は持っておいても損はないでしょう。
動画 筋肉痛
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【編集後記】
昨日は「S&Cコーチの勉強法」セミナーを実施しました。
これまでの実施してきたセミナーとはタイプの異なるトピックでしたが、私なりの勉強法について経験をもとに参加者の皆様にシェアをさせていただきました。
参考にしていただき、今後の勉強に役立てていただければ。