野球やゴルフ、競泳等、フォームが重要とされるスポーツにおいては、「力みのないフォームあるいはリラックスしたフォームが良い」という話をよく聞きます。
例えば、「野球のピッチャーはリラックスして力まずに投げた方が球速が出てコントロールも良くなる」とか、「競泳の北島康介選手が、力んで水を速く掻くのではなくて逆にゆっくりとしたフォーム(少ないストローク数)で泳いだほうがタイムが良い」だとか。
こういった類の話はみなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
あえてリラックスしたりゆっくり行くというのは我々の直感に反していて理解がしがたい部分がありますが、実際にはそちらのほうがパフォーマンスが高いという不思議な現象があるようです。
これは恐らく正しいのでしょう。
リラックス≠力を発揮しない
しかし、だからといって筋力や爆発的パワーが重要ではないとか、ウエイトトレーニングは逆効果だ、とかいう短絡的な考えには賛成しかねます。
では、なぜこのような短絡的な主張をする人が出てくるのでしょうか?
おそらく、「リラックスor力まない」イコール「力を発揮しない」という間違った理解をしているのだと思います。
力を発揮する必要がないから筋力も必要ない、という思考回路なのでしょう。
しかし、力学的に考えて、力を発揮しなかったら物体を加速させる事ができません。
加速できなかったら、野球のピッチングで球速を上げる事はできないし、水の抵抗に打ち勝って速く泳ぐこともできません。
なのでこの考え方は間違いです。
そもそも「リラックスor力まない」という概念は、アスリートの主観的な(神経系の)inputの問題であって、そのinputの結果(バイオメカニクス的な)outputとして発揮されるカラダの動きを調べてみると、大きな力も発揮されているはずです(注意:正確に言うと力ではなく力積を物体に加える事が重要ですが、スポーツ中は短時間に大きな力積を加える必要があり、そのため結果として大きな力を発揮しているはずです)。
「リラックスor力まない」というのは、「大きな力を発揮しない」というoutputを引き出す事を目的としているのではなく、「複数の筋肉を適切な強度で適切なタイミング・順序で発火させる」というinputを狙っていると捉えたほうが良いでしょう。
速い球を投げるとか速く泳ぐという目的を達成するためには、全ての筋肉を最大限に活動させる(maximization)のが必ずしも良いわけではなく、最適に筋肉を発火させる(optimization)ことのほうがはるかに重要なのです。
筋トレとリラックスは共存可能?
さて、ここまでの議論で、最高のパフォーマンスを発揮するにはmaximizationではなくoptimizationが重要という事を理解して頂いたと仮定します。
ここで気になるのは、じゃあ筋力や爆発的パワーをウエイトトレーニング等で向上させた上で「リラックスor力まない」というoptimizationストラテジーを採用したらパフォーマンスは向上するのかという点です。
結論から言うと、向上します。
ただし、そのためには変化した筋力に合わせて新たなoptimizationを手に入れる必要があります。
それができないと筋力がアップしてもパフォーマンスは低下するという事が起こりえます。
この辺りの議論は、以前のブログでシミュレーション研究をレビューしながら紹介済みですのでそちらをご覧ください。
» 参考:トレーニングによる筋力UPは、やり方によっては競技力UPにも競技力DOWNにもつながりますよって事をコンピューターシミュレーション研究の結果をもとに考えてみる
まとめ
今日の話のポイントをまとめると以下の2点になります:
- ウエイトトレーニングで筋力や爆発的パワーを向上させる事は必要
- その上で力まずにリラックスして競技動作を実施する事が重要
ウエイトトレーニングを実施して筋力を向上させる事と競技中は力まずにリラックスするという事は一見矛盾した概念に思えますが、十分に両立しうると思います。
というか、この2つを両立させる事が最高のパフォーマンスを発揮するための条件だと言えるのではないでしょうか?
今日は少しフィロソフィーというか概念的なお話をしました。
実用的な内容ではないですが、日本ではウエイトトレーニングの必要性がアスリートの間でさえそれほど浸透していないという現状を考えると、時にはこういう事に思考を巡らせて、なぜトレーニングをする必要があるのかをアスリートやコーチに説明できるように準備しておくことも重要かな〜と思う今日この頃です。
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