プロスポーツチームがS&Cコーチを雇う時に、GMや人事担当者に知っておいてほしいこと
プロスポーツチームがS&Cコーチを探す時や公募をする時に、「その競技もしくはリーグでの指導経験」をどのくらい重視すべきでしょうか?
個人的には、「必須条件(required)」ではなく「あれば好ましい(preferred)」程度に考えておいたほうが、良いS&Cコーチを雇える確率が高まると思います。
なぜなら、「その競技もしくはリーグでの指導経験」を必須条件にしてしまうと、選ぶ「パイ」が小さくなってしまうからです。
小さな「パイ」から選ばないといけない場合、その「パイ」の中に含まれている優秀なS&Cコーチの数は少ないはずで、そんな貴重な人材は他チームと奪い合いになる可能性が高いので、自チームで雇うことは非常に難しくなってしまいます。
たとえるなら、ハリウッド映画やドラマを制作するために日本人俳優をキャスティングしようとしたときに、「流暢な英語でセリフを言える日本人俳優」を必須条件にしてしまうと、「パイ」が小さくなって演技力のある俳優を見つけるのが難しくなってしまうようなものです。
ハリウッド映画で、真田広之さんや浅野忠信さんのような日本人俳優をしょっちゅう見かけるのは、もちろんご本人の努力もあるでしょうが、「パイ」が小さいからです。
つまり、英語でセリフを言えて演技力もある日本人俳優が少ないのです。
しかし、もしセリフがすべて英語で、日本語を話す必要がない役なのであれば、日本人である必要はそもそもなく、人種的に日本人に見えれば誰でも良いわけなので、探す「パイ」をアジア系米国人や中国人・韓国人等まで広げれば、英語でセリフが言えて演技力のある俳優をキャスティングすることができる確率も高まるはずです。
※日本人からすると、日本人以外の俳優が日本人役をやっているのは違和感を覚えるかもしれませんが。
あるいは、「SHOGUN 将軍」のように、セリフを日本語にして英語字幕を入れることにしてしまえば「パイ」が大きくなるので、演技力のある日本人俳優をキャスティングできる確率は高まるでしょう。
話を元に戻すと、S&Cコーチがその競技について詳しかったり、その競技やリーグでの指導経験があったりするほうが好ましいのは間違いありません。
しかし、それ以上に重要なのは、S&Cコーチとしての「トレーニング指導能力」です。
どれだけ競技について詳しくても、「トレーニング指導能力」が欠けているようでは意味がありません。
むしろ、間違ったやり方でトレーニングをさせてしまい、逆効果になってしまうリスクすらあります。
上記の俳優の例でいうと、アメリカ育ちで流暢な英語を話せるけど演技をしたことのない日本人の素人をハリウッド映画に出演させたら、映画全体が台無しになってしまいかねない、みたいなものです。
俳優にとって重要なのは「演技力」であり、S&Cコーチにとって重要なのは「トレーニング指導能力」です。
その優先順位を間違えてはいけません。
4つのタイプのS&Cコーチ
すべてのS&Cコーチを「トレーニング指導能力」と「競技についての知識や経験」の2つの観点で評価すると、理論的には4つのタイプに分類することができます:
①のタイプが理想です。
雇えるなら全力で雇うべきですし、すでに雇っているのであれば手放さないほうがいいでしょう。
ただし、かなりレアなので見つけるのが難しいし、見つけられても他チームとの争奪戦になるので雇うのは大変です。
そこで次に狙うべきなのが②なのか④なのか、という議論になります(③は論外なので無視です)。
すでに説明したように、S&Cコーチにとって重要なのは「トレーニング指導能力」なので、ここは②のタイプを選ぶべきです。
その競技についての知識がなくても、それはチーム側が(コーチや選手が)教えることもできますから。
S&Cコーチとして優秀なのであれば、すぐにその競技の特性について知識を増やしていき、適切なトレーニングを計画して指導できるようになるでしょう。
つまり、②のタイプのS&Cコーチを雇って、①のタイプに育て上げることは可能なのです。
一方、④のタイプのS&Cコーチを雇っても、チーム側がトレーニング指導について教えることはできません。
できないから、チームの外から専門家を連れてくるわけです。
ということは、④のタイプのS&Cコーチを雇って、①のタイプに育て上げることはできない、ということです。
もちろん、そのS&Cコーチが個人で努力をして「トレーニング指導能力」を磨いて①のタイプに育っていく可能性がゼロというわけではありません。
しかし、競技についての知識を増やすよりも、トレーニング指導能力を向上させるほうがはるかに長い時間がかかります。
そしてなにより、④のタイプのS&Cコーチがちゃんと勉強をして「トレーニング指導能力」を磨くかどうかは、チームとしてコントロールすることができません。
運任せになってしまいます。
トレーニング指導能力をどう見極めればいいのか?
ということで、①のタイプを雇うのが理想だけど、それが難しいのであれば、「パイ」を広げて②のタイプを狙ってリクルーティングしましょう、というのが私の主張です。
もちろん、「トレーニング指導能力」と「競技についての知識や経験」以外にも、コミュニケーション能力とか社会人としてのマナーとかチームとの相性とかも重要でしょう。
しかし、それら後者の条件を満たしていても、「トレーニング指導能力」がなければ専門家として雇う意味はないので、結局のところは「トレーニング指導能力」が最優先の条件になるはずです。
ここで問題になってくるのが、「トレーニング指導能力をどう見極めればいいのか?」ということです。
これ、実はめちゃくちゃ難しいです。
同業者であっても、「トレーニング指導能力」という目に見えない抽象的なものを評価するのは至難の業です。
ましてや、トレーニング指導の専門家ではないチームのGMや人事担当者がそれを見極めるのは絶対に不可能です。
だからこそ、S&Cコーチのリクルーティングにおいては、コネによる「紹介」という手法が使われることが多いのでしょう。
つまり、リクルート候補者の「トレーニング指導能力」については、専門家である紹介者がスクリーニングしてくれるはずだ、という前提に頼っているのです。
専門家ではないGMや人事担当者がリクルート候補者の「トレーニング指導能力」を評価するよりはマシだろうとは思いますが、この「紹介」というやり方にも問題がないわけではありません。
まず、「パイ」が小さくなってしまいます。
紹介者がもっている「コネ」つまりネットワークの中から選ぶことになるわけですから。
今回の記事では「パイを広げましょう」という主張をしてきたくらいなので、「パイ」が小さいということはデメリットである、というのが私の考えです。
もう1つの問題点は、「紹介者」がリクルート候補者の「トレーニング指導能力」をしっかりと評価できるのかどうかを誰が判断するのか?ということです。
他人の「トレーニング指導能力」を見極めるためには、その人自身の「トレーニング指導能力」が優れている必要があります。
で、後者を判断することができるのは「トレーニング指導能力」が優れている別の専門家じゃないといけない、ということになり、じゃあ、その「別の専門家」の「トレーニング指導能力」は誰が判断するんだ?という話になってキリがありません。
だから、「紹介者」は専門家として信頼ができるはずだ、ということを専門家ではないGMや人事担当者が判断せざるをえないのですが、この判断が正しいかどうかは神のみぞ知る、です。
まあ、しょうがないです。ここについての解決策を私は持ち合わせていません。
まとめ
いろいろと書いて長文になってしまいました。
今回の主張としては、プロスポーツチームがS&Cコーチをリクルートする時は、「トレーニング指導能力」を最優先の必須条件としたうえで、「その競技もしくはリーグでの指導経験」については柔軟に考えたほうが「パイ」が広がって良い専門家を雇える可能性が高まりますよ、ということです。
プロスポーツチームのGMや人事担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
じゃあ、どうやって「トレーニング指導能力」を見極めるのか?という課題については未解決の状態ですが、少なくとも専門家じゃないと見極めるのは不可能だ、というのは断言できます。
専門家であっても同業者の腕の善し悪しを評価するのはなかなか難しいのですが、少なくとも「あきらかにダメだな」という人を見つけることは比較的容易です。
リクリート候補者の「トレーニング指導能力」を専門家に評価してもらえば、絶対に選んじゃダメな人を排除することはできるはずです。
以上を踏まえたうえで、私の提案としては、「その競技もしくはリーグでの指導経験」を必須条件にはせずに公募形式で幅広くS&Cコーチ候補者を募集したうえで、選考プロセスには他の専門家に関わってもらう、という方式です。
そうすることで「パイ」を広げつつ、候補者の「トレーニング指導能力」についてもある程度の評価をすることが可能になります。
選考プロセスに関わる「他の専門家」の評価は誰がするんだ?という問題については、コネによる「紹介」方式と同じで未解決のままですが、「パイ」が広がる、という点では「紹介」よりもメリットが大きいはずです。
ぜひ検討してみてください。
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【編集後記】
固定資産税やら自動車税やらの納税通知書が届き始めました。
納税シーズンの始まりですね。
税金も大変ですが、それより社会保険料がめちゃくちゃ高いんですよね。。。
その納付通知書が届くのが恐ろしいです。