7/29(日)論文の読み方入門セミナー

#103 【測定シリーズ】GPSやビデオを用いた試合分析の問題点

 

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先日、ラグビー大学選手権決勝の帝京大vs.筑波大の試合をテレビで観戦していたら、ある事に気づきました。プレーが途切れて筑波大の選手がアップで映しだされる度に、背中の上のほうがボコっと出っ張っているのが見えるのです。さらにはその出っ張りを中心として、X字の形でストラップのようなものが見えるではありませんか。しかも、1人だけでなく、恐らくほとんどの筑波大の選手の背中に同様のものが確認できました。

ま、まさか、筑波大のラガーマン達はみんなブラ男なのだろうか?X字の形に見えているのはブラ線なのだろうか?確かに、ベンチプレスと大食いにより肥大化したラガーマン達の胸筋の揺れを抑えるためには、ブラを装着するのはある意味理にかなっている。「あいつブラ男だぜ!!」と周りから指をさされようとも、大学日本一になるためなら気にしないという男気あふれるラガーマン達。な、なんて熱いやつらなんだ・・・。ま、まさか、試合前のロッカールームでは「おまえ、最近胸大きくなってきたんじゃない?」「そういうお前こそ、何カップあるんだよ?」なんて言いながら、大柄の男たちがお互いの胸を触り合うという光景が繰り広げられているのだろうか?

と、そんな妄想をひと通りした後に、恐らくブラではないだろうという結論に達しました。じゃあ、あの出っ張りは一体何だろうかと色々と推理した結果、多分GPSトラッキング装置だという考えに落ち着きました(それが真実かどうかは確認しておりませんので、私の勝手な解釈です)。

GPSトラッキング装置は、主にチーム競技のアスリート達の試合中の動き(例:走行距離、スピード)を分析するために使用されるテクノロジーです。自分がオーストラリアに留学していた時(2006年頃?)、オージールールフットボールのプロリーグでは、選手たちがGPSトラッキング装置を公式の試合中に装着して、各チームのスポーツサイエンティストやS&Cコーチが試合中の選手の動きを分析していたものです。

 

 

テクノロジーを利用した試合分析

試合中の動作を分析するためのテクノロジーはGPS以外にもビデオを用いた自動分析装置等もあります。ヨーロッパのプロサッカーチーム等は、そのようなテクノロジーを利用して試合分析を実施しているという話は良く聞きます。また、研究の世界でも、このようなテクノロジーを用いて試合中のアスリートの動きを分析しているものが近年は多く見られるようになりました。

試合中にアスリートがどのくらいの距離を移動しているのか、スプリントを何回くらい実施しているのか、スプリントの平均距離はどのくらいか、試合の時間帯によって(前半vs後半、後半開始15分vs後半残り15分)これらの値がどう変化するのか、etc…といった情報は、試合における体力的なニーズを分析する上で非常に有用です。S&Cコーチは、これらの情報をもとにして体力トレーニングの目標を立てる事ができて、より効率的な体力強化が図れるのです。

そういった意味では、こうした最新のテクノロジーを利用して試合分析を実施するのは非常に良い事だと、私は個人的に思います。その一方で、ネットや論文で目にする試合分析の手法には問題点もあるな〜と感じる事もあります。

 

 

試合分析の問題点

多くの試合分析においては、試合中のアスリートのスピードに応じて、アスリートの動きをいくつかに分類するのが一般的です。例を挙げると

  • 立っている(スピード:0-0.6 km/h)
  • 歩行(スピード:0.7-7.1 km/h)
  • ジョギング(スピード:7.2-14.3 km/h)
  • ランニング(スピード:14.4-19.7 km/h)
  • 高速ランニング(スピード:19.8-25.1 km/h)
  • スプリント(スピード:>25.1 km/h)

という感じです。数字はあくまでも例で、ものによって異なります。

試合中のアスリートの移動スピードをず~っと記録しておいて、スピードが25.1 km/hを超えた場合にスプリントを実施している状態と判断して、スプリントの総距離とか、スプリント数とか、一回あたりのスプリントの平均時間とかをプログラム・ソフトウェアが自動的に計算してくれるという具合です。

昔は、試合をビデオで撮影して、試合後に映像を見ながら、分析する人が主観で試合中のアスリートの動きを分析して、手動でいろいろなデータを計算していました。それに比べると、自動的に即座のフィードバックができるというのは最新のテクノロジーを使う利点と言えるでしょう。

ただし、上記の手法には大きな問題点が2つあります。

  1. スプリント能力の個人差が考慮に入れられていない
  2. 立った状態or低速状態から開始される短い距離のスプリントはスプリントとしてカウントされない

 

1つ目の問題点は、例えば足の速いアスリートにとっては25.1 km/hというスピードは全力のスプリントではない可能性があったり、あるいは足の遅いアスリートにとっては全力でスプリントをしてもスピードが25.1 km/hになかなか到達しない可能性があったりするという事です。前者の場合は、試合中のスプリント数やスプリント距離が過大に評価される恐れがあり、逆に後者の場合は、過小に評価される恐れがあります。

2つ目の問題点は、速度がゼロに近い状態から全力で走りだした場合、加速度という面では最大に近いものがありますが、スプリント状態と判断されるスピード(上記の例だと25.1 km/h)に到達するまでには数10 mの距離が必要になり、そこに到達する前にスプリントが終わってしまう場合には、その努力はスプリントとカウントされない可能性があるという事です。つまり、全体的にスプリント数やスプリント距離が過小評価される傾向が出てくるのです。

ある程度のスピードでジョギングまたはランニングしている状態からスプリントを開始する場合は、短時間でトップスピード近くまで到達するのでそれほど問題はないかもしれませんが、立った状態or歩行状態から開始されたスプリントの大部分がスプリントとして認識されない可能性があります。つまり、スプリントの回数やスプリントによる総走行距離等が過小評価されてしまう危険があるということです。

 

 

まとめ

テクノロジーは素敵です。でも、機械がはじき出す数字が何を意味しているのかをしっかり理解していないと誤った解釈をしてしまう危険があります。なんかハイテクな機械を使って測定をして「すごい事をしているぜ、俺」という自己満足に陥るだけなら、そんな測定は無意味です。

試合分析を実施するのにビデオシステムやGPSを用いる時に、上記の例のようにスピードによって動作分類を自動的にしてくれる手法を用いている場合は、その結果得られる数字はあまり信用出来ないと言ってもいいでしょう。最近は、スピードだけでなくて加速度のデータも合わせた上で、動作分類を実施しようという動きもあるようです。例として参考文献を紹介しておくので、興味のある人は読んでみて下さい。

 

参考文献

Varley MC and Aughey RJ. Acceleration profiles in elite Australian soccer. Int J Sports Med 34: 34-39, 2013.

 

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