#26 【論文レビュー】運動前のスタティックストレッチングはパフォーマンスを低下させる?

 

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運動前のウォームアップの一部として、これまでスタティック(静的)ストレッチングが一般的に実施されてきました。その目的は主に2つあります。

  • パフォーマンス向上
  • 傷害予防

しかし、ここ10年ほどの間に「エクササイズ前のスタティックストレッチングがその後のパフォーマンスを低下させる」という実験結果が数多く報告されています。

こうした1つ1つの実験結果をまとめて、統計学的に分析・検証した論文[1]をScandinavian Journal of Medicine and Science in Sportsで見つけて読んでみました(計104の実験結果を分析)。

この手法はmeta-analysisと呼ばれ、meta-analysisによって導きだされた結論は、個々の実験の結論よりもエビデンスとしてのレベルが高いと見なされています(詳しくはwikipediaの説明をお読み下さい)。

 

 

論文内容の簡単なまとめ(客観的事実)

  • 運動前のスタティックストレッチングは最大筋力を5.4%、筋パワーを1.9%、爆発的筋パフォーマンス(RFD、ジャンプ、スプリント、投擲)を2.0%低下させる(ただし、最大筋力と爆発的筋パフォーマンスへの影響は統計的に有意と言えるが、筋パワーに対する影響は有意と言えない)
  • これらの現象は、被験者の年齢・性別・トレーニングレベルに関係なく、同様に観察される
  • 運動前のスタティックストレッチングによる実際のパフォーマンス低下率はtask-specificである(パフォーマンスの種類によって異なる)→例えば、パフォーマンス低下率はアイソメトリックな最大筋力のほうが動的な最大筋力よりも大きい
  • 運動前のスタティックストレッチングによる筋パフォーマンスの低下率は、ストレッチ時間が短くなるにつれて小さくなる(特に45秒以内だと影響は非常に小さい)

*詳しくは論文のPDFを入手して全部読んでみて下さい

 

 

個人的な感想(主観的意見) 

この論文を読んだ私の個人的な感想を述べると、「やっぱりウォームアップ中にスタティックストレッチングをやると、その後のパフォーマンスが低下するのね〜」という事です(なぜかオネエ言葉ですが)。

この論文の結論は、ここ10年間に報告された個々の実験結果を読んできた私の実感と一致します。こうした情報をもとに「ウォームアップ中のスタティックストレッチングは避けましょう」という記事をシンガポール在住時代(2009年)に書いた事もあります。

そもそもウォームアップ中にスタティックストレッチングを実施する2つの主目的のうちの1つ「パフォーマンス向上」が科学的に否定された(否定どころか逆効果という事が判明した)わけなので、この記事の内容は妥当なものだったと思います。

しかし、現在では意見が少し変わり「場合によってはウォームアップ中にスタティックストレッチングをやるのもありかな〜」という柔軟な考え方をするようになりました。

そもそも、スタティックストレッチングによるパフォーマンス低下率は思ったよりも小さい(数%程度)と思いませんか?また、ストレッチ時間を短くキープする事によってパフォーマンス低下率を抑える事ができます。さらには、スタティックストレッチングに競技特異的なウォームアップを組み合わせる事でパフォーマンス低下率を抑える事ができるという報告[2]もあります。

こうした点を考慮すると、運動前にスタティックストレッチングを実施する事のマイナス面を限りなくゼロに近づける事が可能であると言えます。

また、特定の関節周りの可動域が制限されているアスリートに対しては、スタティックストレッチングをウォームアップ中に実施する事に大きなメリットがある場合があります(もし、スタティックストレッチングが可動域向上につながるのであれば)。

このメリットを享受しつつ、ストレッチ時間を短くして、競技特異的なウォームアップを組み合わせる事でマイナス面も抑える事ができるのであれば、盲目的に「ウォームアップ中にスタティックストレッチングをしちゃ絶対ダメ」という考えにしばられる必要はないのかもしれません。

ただし、可動域制限等のない関節周りのスタティックストレッチングをウォームアップ中に実施する必要性は全く見つけられませんが・・・。 

 

 

まとめ

という事で、私の意見をまとめると

  • 基本的にはウォームアップ中にスタティックストレッチングは実施しない(その後のパフォーマンスが低下するから)
  • ウォームアップ時にスタティックストレッチングをする事で制限のある関節の可動域を広げる事ができる等のメリットがあるのであれば、その関節周りに限定してスタティックストレッチングを実施してもOK(メリットとデメリットを見極めて判断する)
  • ただし、ストレッチ時間を短くキープして、競技特異的なウォームアップを組み合わせる事によって、運動前のスタティックストレッチングによるマイナス効果をできるだけ小さく抑える努力をする

といった感じです。みなさんのご意見はいかがでしょうか?

 

 

参考文献 

  • [1] Simic L, Sarabon N, Markovic G. Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review. Scand J Med Sci Sports (Epub ahead o f print)
  • [2] Taylor KL, Sheppard JM, Lee H, Plummer N. Negative effect of static stretching restored when combined with a sport specific warm-up component. J Sci Med Sport. 2009;12(6):657-61

2 件のコメント

  • >Mamizukaさんコメントありがとうございます。タイトネスがパフォーマンスを制限したり障害のリスクを高めているような場合は、多少のパフォーマンスの低下があったとしてもスタティックストレッチを練習や試合の前に実施しても良いと私も思います。例えば150km/hの直球を投げられるピッチャーがしょっちゅう身体を痛めてシーズンの1/3しか活躍できないよりも、球速が145km/hに落ちたとしてもシーズンを通して健康で活躍できるほうが良いですからね。逆に、100mスプリンターがオリンピックの試合前にスタティックストレッチをするのはオススメしません。0.01秒のタイム低下が大きな成績の差につながる可能性があるので。ようするにケースバイケースで判断するのが重要という事でしょうか。

  • […] もうひとつ忘れてたttp://kawamorinaoki.jp/?p=117770103 […]