シーズン中のレジスタンストレーニングの考え方
最近は、野球やサッカー等のプロスポーツだけでなく、柔道やバドミントン等の個人競技のオリンピックスポーツも年間の試合数が増えてきて、試合期が長くなっています。
昔のように、1年のうち重要な数試合だけに向けてピークを合わせるという戦略では不十分で、これらの競技においてもシーズン中にレジスタンストレーニングをしっかり続ける必要があります。
シーズン中のレジスタンストレーニングは以下の2つの目的を達成する必要があります:
- 体力の維持または向上
- 疲労等の影響を最小限に抑えて試合に向けてコンディションを整える
1を達成しようとしてガシガシトレーニングすると、疲労が蓄積して2の目的を達成できません。
かといって、2を達成しようとしてレジスタンストレーニングを全然しないと、体力が落ちて1の目的を達成できません。
実際に「オフシーズン中に死ぬほどがんばってトレーニングして体力が向上したけど、シーズン中に全然トレーニングできなかった(しなかった?)らみるみる体力が落ちてしまって、シーズン後半は成績がボロボロだった」という話はよく耳にします。
じゃあ、どうすりゃいいんだ〜って感じですが、結論から言って上記の1と2の両方を100%達成するのは不可能です。
そう割り切ったうえで、自分の状況に合わせてできる限りの事をやるしかないです。
このへんは、S&Cでもアートの領域になってくるので、腕の見せ所でもありますが、とても難しい部分でもあります。
シーズン中のレジスタンストレーニング計画立案時のポイント
私がシーズン中のレジスタンストレーニングを計画する時に考えることをダラダラと書いてみます。
順番はテキトーなので特に意味はありません。
- ①シーズン中もレジスタンストレーニングを継続する
- ②体力を向上させるのに必要なトレーニング量と比べると、その体力を維持するのに必要なトレーニング量は驚くほど少ない
- ③体力維持しつつ疲労を最小限にする基本戦略は「強度キープ、量減らす、頻度ちょい減らす」
- ④でも基本戦略どおりだと長いシーズンで体力維持できないから、トレーニング量もできるだけ確保を目指す(あと頻度もそんなに減らさない)
- ⑤シーズン開幕直前にピーキングはしない
- ⑥多関節エクササイズを中心にプログラムを作る
- ⑦新しいエクササイズは導入しない・エクササイズバリエーションは増やしすぎない
- ⑧特異的エクササイズより一般的エクササイズを優先
- ⑨量多めのトレーニングは試合日から離れた時に実施し、試合日が近づいたら高重量or爆発的パワーかつ量少なめのトレーニングを実施する
- ⑩トレーニング初級者はシーズン中でも体力向上できるし、それほどトレーニング量を減らさなくても平気
①シーズン中もレジスタンストレーニングを継続する
とりあえずこれは絶対です。
この認識をアスリートやコーチにも共有してもらえるように、必要であればトコトン説明して(あるいは脅したり脇の下をコチョコチョしたりして)納得してもらわないといけません。
そうしたコミュニケーション能力や説得力もS&Cコーチに必要なスキルです。
②体力を向上させるのに必要なトレーニング量と比べると、その体力を維持するのに必要なトレーニング量は驚くほど少ない
体力を向上させるには、それなりのトレーニング量が必要になります。
特にトレーニング経験が長いアスリートほど、体力を向上させるには多量のトレーニング刺激を蓄積させる必要があります。
その一方で、一度手に入れた体力を維持するにはそれほど多量で高頻度のトレーニングは必要ではないというのが私の実感です。
なぜかを科学的に説明するのは難しいですが、経験上これは間違いありません。
なので、「シーズン中に体力を向上させる」という目標は潔く捨ててしまい、「オフシーズンにがんばってトレーニングして手に入れた体力レベルを維持する事」を目標とするように戦略をスイッチするのもひとつの手段です。
そうすることで目標を達成できる可能性がグンと上がりますし、具体的に何をしたらいいのかが見えてくると思います。
試合に向けて疲労を抑えてコンディションを整えつつ体力も同時に向上させようとすると、いったい何をしたらいいのかわからなくなって思考停止状態に陥る可能性もあるので、割り切りが重要です。
二兎追うものは一兎をも得ず!!
③体力維持しつつ疲労を最小限にする基本戦略は「強度キープ、量減らす、頻度ちょい減らす」
一般的にシーズン中のレジスタンストレーニングの戦略として推奨されているのは「高強度をキープしつつ、トレーニング量を大幅に減らし、トレーニング頻度は少し減らす」というものです。
教科書的な知識ではありますが、基本戦略としては間違いないと思います。
あくまでも基本的な考えとして持っておくといいとう程度の事ですが・・・。
④でも基本戦略どおりだと長いシーズンで体力維持できないから、トレーニング量もできるだけ確保を目指す(あと頻度もそんなに減らさない)
上記③の基本戦略をリスペクトしつつも、やはりある程度トレーニング量も確保しないと、特にシーズンが長い場合は体力を維持できません。
特に、筋量を維持するにはトレーニング量がキーファクターになります。
シーズン中に高強度でトレーニングを実施しつつ、トレーニング量もある程度確保する方法はいろいろあります。
例えば、スクワットを高重量で3セット×3レップ実施した直後に重量を下げて10-15レップを1-2セット実施する(バックオフセットと呼ばれます)とか。
メインエクササイズ(スクワットとかデッドリフトとかプレスとか懸垂とか)を高重量低レップ数で実施しつつアシスタンスエクササイズ(グッドモーニングとかステップアップとかダンベルロウとか)は高レップ数(例:1セットあたり8-15レップ)で実施するとか。
もし週に2回レジスタンストレーニングを実施する機会を確保できるのであれば、そのうち1回は筋肥大系の高レップトレーニングを実施するというのもアリでしょう。
あるいは、試合が短い間隔で続く時期は高重量・低量の基本を貫きつつも、試合が一時的に中断される時期(数週間とか)がシーズン中にあるなら、その時期は思い切ってトレーニング量を多めのプログラムに切り替える等もできます。
また、トレーニング頻度については、意図的に減らそうとしなくても、試合や練習との兼ね合いで勝手に減らされてしまうので、むしろトレーニングを実施できる機会があれば逃さずに積極的に実施するくらいの気持ちで良いでしょう。
この辺りの事情は教科書に載ってなくて現場で働く経験の中で自ら見出す必要がありますね。
⑤シーズン開幕直前にピーキングはしない
昔ながらのペリオダイゼーションだとオフシーズンからプレシーズンに移行すると徐々にトレーニング強度を上げつつトレーニング量は減らしていき、シーズン開幕時にある程度コンディションがピークになるように計画するのが一般的です。
しかし、シーズンが長い競技の場合、開幕時にピークを持ってくる必要性は少なく、どちらかと言うとシーズンを通してそこそこ高レベルのコンディションをキープするほうが大事です。
また、開幕時にピークを持ってくるという事はその直前の時期のトレーニング量を減らす事を意味します。
シーズン中はどちらにしろトレーニング量を確保するのが難しくなるという事を考えると、オフシーズン( またはプレシーズン)後期におけるトレーニング量を意図的に減らしてしまうというのは非常にもったいないです。
この時期にしっかりとトレーニング量を確保できなかったツケがシーズン後半に回ってくるような気がしてなりません。
じゃあどうするのかというと、シーズン開幕直前までピーキング等を意識せずにガシガシトレーニングする事です。
どうしても必要ならシーズン開幕前の1週間くらいだけトレーニング量を減らす程度で十分でしょう。
⑥多関節エクササイズを中心にプログラムを作る
シーズン中はレジスタンストレーニングに割ける時間が少ないので、トレーニングの効率という点を考えると1つで複数の筋群をトレーニング可能な多関節エクササイズを中心にプログラムを作るのが良いでしょう。
単関節エクササイズはプログラムに含まないか、含んでも最小限にしたほうが良いです。
⑦新しいエクササイズは導入しない・エクササイズバリエーションは増やしすぎない
これまで実施したことのない新しいエクササイズをシーズン中に導入するのはオススメしません。
その理由の1つは、新しいエクササイズの適切なテクニックを覚えるのにしばらくの期間が必要で、この間は十分なトレーニング刺激を与えるような重量を用いる事ができないからです。
シーズン中の貴重なトレーニング時間を(たとえ短期間であっても)エクササイズを覚えるのだけに費やすのはもったいないです。
また、新しいエクササイズを導入する時は、カラダがその刺激に慣れていないため遅発性の筋肉痛を引き起こす可能性があります。
筋肉痛は競技の練習や試合でのパフォーマンスに悪影響を与える可能性があるので、シーズン中はできるだけ避けたいところです。
もちろん、最初に導入する時に負荷を軽めにする等の工夫で筋肉痛を最小限に抑える事も可能ですが、「負荷が軽め=トレーニング刺激が小さい」という事になり、これもシーズン中の貴重なトレーニング時間の使い方としては最適ではありません。
同様の理由(筋肉痛etc)で、シーズン中にエクササイズバリエーションを増やしすぎるのもオススメしません。
バリエーションを付けるなら、マイナーバリエーション程度にとどめたほうが良いでしょう。
ステップアップをDBをサイドで保持してやるバージョンからバーベルをフロントスクワットグリップで保持してやるバージョンに変えるとか。
⑧特異的エクササイズより一般的エクササイズを優先
シーズン中は練習や試合で競技の動作を何度も繰り返しています。これはある意味、究極の特異的エクササイズです。
なので、ウエイトルームで改めて特異的エクササイズを実施する必要はないでしょう。
逆に特異的な動作を繰り返すと筋バランスが崩れる(微妙な表現ですが)可能性があるので、あえて一般的なエクササイズを全身バランスよく実施するほうが利点があると思います。
また、スピードやパワーが要求されるような競技であれば、これらの体力要素は競技中に十分トレーニング刺激を得ているので、あえてウエイトルームでは最大筋力や筋肥大を狙った一般的なプログラムを実施するという考え方も、長いシーズンではありかもしれません。
これはシーズンが短くて重要な試合にピークを合わせる場合とは少し異なる考え方かもしれません。
⑨量多めのトレーニングは試合日から離れた時に実施し、試合日が近づいたら高重量or爆発的パワーかつ量少なめのトレーニングを実施する
例えば、日曜に試合をしてその次の日曜にまた試合があるというパターンを想定します。
試合翌日または翌々日はまだ疲労やダメージが残っている可能性があるので、高強度(高重量、高パワー)でのトレーニングを実施するのが難しいでしょう。
ただ、中程度の強度で量を多めに実施する筋肥大系のトレーニングならなんとかこなせるはずです。
そして、木曜か金曜(試合の2、3日前)にもう一度トレーニングをする機会があれば、この時は高重量または爆発的パワーのトレーニングを量を少なめに実施するのが良いと思います。
週の前半に量を多めのトレーニングを実施しておけば週末の試合への疲労による影響も少なくてすむし、トレーニング量を確保できるので長いシーズンで体力(特に筋量)を維持するのに有効です。
また、高重量or爆発的パワーのトレーニングは高レップのトレーニングと比べて疲労度が少なく回復も速いという科学的なデータもあるので、このタイプのトレーニングを量を抑えて実施すれば試合の数日前であっても試合に悪影響はあまりないと考えられます。
むしろ、低負荷でスピードを意識する爆発的パワートレーニングを実施するとその後数日間は神経系が促進されてパフォーマンスアップに貢献する可能性すらあります。
あくまでも理論的な可能性ですが。
⑩トレーニング初級者はシーズン中でも体力向上できるし、それほどトレーニング量を減らさなくても平気
シーズン中はトレーニング量を確保するのが難しいので、体力を向上させるよりも維持させる事を目標にしたほうが良いと述べましたが、これはトレーニング初級者には当てはまりません。
トレーニング初級者は少ないトレーニング量でも体力を向上させる可能性が大です。
また、トレーニング初級者が扱える絶対的な重量は低いので、量を抑えずにガシガシトレーニングしても疲労度は小さく、試合に影響を与える可能性も低いでしょう。
まとめ
思いついた事をダラダラ書いただけなので、まとめません(笑)!!
2018/10/6追記:この記事を書いた時から少し考えが変わりました。シーズン中も体力の維持だけを狙うのではなくて、積極的に体力向上を狙いに行ってもいいのではないかと今では思っています。その考え方は、トレーニング初級者だけでなく、もっと多くのアスリートに当てはまると感じています。
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