#72 矛盾:レジスタンストレーニング初心者がトレーニングを始める時

公開日: : 最終更新日:2016/12/08 S&Cコーチとしての思考, プログラムデザイン



3484451164 6b750e4fe6 b 2



私が学生時代に抱いた疑問

私が大学生の時、スポーツ生理学やレジスタンストレーニング論の授業を受講していて「なんか矛盾してるんじゃない?」と疑問に思った2つのトピックがあります。

  1. 筋力アップに対する神経系vs.筋肉系の適応の相対的な貢献度について
  2. 基本的な期分けの順番について

 

まず上記の1は、レジスタンストレーニングを始めた最初の数カ月に得られる筋力アップ率のわりに筋肥大はそれほど見られず、初期のトレーニング効果は主に神経系の適応によるものだというお話。その後は次第に筋肥大による筋力アップへの相対的な貢献度が高くなりますよということです。

下記の図[1]に似たものをどこかで見た覚えのある方も多いのではないでしょうか。

NewImage

 

その一方、上記2の期分けに関しては、一般的に「筋肥大期」→「最大筋力期」→「筋パワー期」という順番でトレーニング変数(強度、レップ数、セット数、休息時間etc)を操作するのが良いと教わりました。そこで、この期分けの概念をトレーニング初心者に当てはめようとすると、1セットあたりのレップ数が8〜12という「筋肥大期」系のプログラムから始めましょうということになります。

教科書的にはこれで正しいのかもしれません。しかし、上記1で取り上げたように、レジスタンストレーニングを始めた最初の数カ月は筋肥大はあまり起きず主に神経系の適応が起こっているという事実を当てはめて考えてみると「なんか矛盾してるんじゃない?」という気持ちがムクムクと膨らんできます。筋肥大があまり期待できない時期に、筋肥大を狙いとしたトレーニングプログラムをやらせても効率が悪いんじゃない?という疑問です。

この時期は神経系の適応が主に起きるのだから、それを狙ったプログラムになるようにトレーニング変数を操作する必要があり、それはいわゆる「筋肥大期」のプログラムとは異なるものになるはずです。個人的にはこの考え方は論理的で理にかなったものだと強く信じていますが、この矛盾について取り上げている教科書は読んだことがありません。なんでだろう~♪

 

 

じゃあ具体的にどうすりゃいいのか?

そういった考えのもと、私がレジスタンストレーニング初心者に対して最初にトレーニング指導をする時には1セットあたりのレップ数は5回前後にして、神経系の適応を狙った「最大筋力期」のプログラムに近い形を採用するようにしています(ただし、重量・強度は実際の最大筋力期に使うものより軽め)。「筋肥大期」のように1セットあたりのレップ数を多めにすることは基本的にありません(単関節アシスタンスエクササイズ等は別です)。

この考え方に対する反論として「確かにトレーニング開始直後は筋肥大はあまり望めないかもしれないけど、1セットあたりのレップ数を増やすことでエクササイズ動作をより多く反復して練習することにつながり、結果として動きを覚える(intermuscular coordination)という神経系の適応を促すことになるから、深く考えずにそのまま筋肥大期系のプログラムから始めてもいいんじゃない?」という考え方もあるかもしれません。

しかし私はそうした考え方に100%は賛成できません。「新しい動きを習得するために、たくさんのレップ数が必要」という点は賛成です。でも、そのために1セットあたりのレップ数を増やすのは賛成できません。

むしろ、1セットあたりのレップ数を増やさず、セット数を増やすことでトータルのレップ数を増やしたほうがいいと思います。そうすれば疲労が少ない状況でより集中して新しい動きに取り組めるし、指導する立場からするとレスト中にフィードバックをする機会も増えます。

この辺りの考え方は、以前のブログで詳しく説明しているので、そちらをお読みください。

#54 トレーニング初心者には高レップ数を実施させない

#63 やっぱりトレーニング初心者に高レップ数はNO! 

 

 

まとめ

ブログ記事のネタを探している時に、学生時代に持っていた疑問をふと思い出したので書いてみました。教科書に書いていることや有名な人が主張していることをなんでも鵜呑みにするのではなく、疑問に思うことがあったら自分の頭で論理的に考えてみるというのは大事です。とりあえずなんでも疑ってかかってみるというのは研究者としては重要な姿勢で、S&Cコーチとしても同じだと思います。 

 

 

参考文献 

[1] Sale DG. Neural adaptation to resistance training. Med Sci Sports Exerc. 1988;20(5 Suppl):S135-45.

 

※もし記事がお役に立てたら、facebookで「いいね」を押したりtwitterでつぶやいたりして頂けるとうれしいです(^_^)

関連記事

#172 「私が開発したこのトレーニング理論は◯◯学会で発表されました」と言っているS&Cコーチは信用するな!

    通常、このブログはS&Cの専門家向けに記事を書いていますが、今日は一般の方をターゲ

記事を読む

#157 特異的エクササイズについての雑感

    このブログをお読みの方はご存知かと思いますが、私はいわゆる「特異的エクササイズ」などと呼ば

記事を読む

#336 ウエイトトレーニングを否定する運動指導者の理屈を否定してみる(バカには運動指導者は務まらない)

    バーベル等の外的な負荷を使った、いわゆるウエイトトレーニングを否定する運動指導者がい

記事を読む

#152 懸垂のプログラミング

    懸垂は上半身のプル動作パターン(特に垂直方向)を鍛えるエクササイズの中でも、特に重要

記事を読む

#58 【論文レビュー】持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを両方実施するとレジスタンストレーニングの効果が薄れる

    持久力トレーニングとレジスタンストレーニングを同時に実施すると、レジスタンストレーニ

記事を読む

#321 やっぱりウエイトトレーニングを競技の動きに近づける必要はない

    今日もMovement Fundamentalsセミナー終了しました。帰りのバスの中

記事を読む

#112 【論文レビュー】トレーニングの期分け(ペリオダイゼーション)の効果は科学的に証明されているのか?

    以前のブログで、トレーニングの期分けについて、盲目的にそれが絶対的な方法であると信じ

記事を読む

#362 【論文レビュー】レッグプレスよりもスクワットのほうがジャンプパフォーマンス向上効果が高い

    久しぶりに論文レビューをします。      論文の内容 Wirth et a

記事を読む

#13 片脚または片腕エクササイズ(片側性エクササイズ)で、左右どちらからセットを実施するか?

    片脚または片腕エクササイズ(片側性エクササイズ)は、片側性筋力を向上させたり、左右の

記事を読む

#245 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載②】レジスタンスエクササイズ中の可動域

    月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの

記事を読む

  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

    • 83今日の訪問者数:
    • 1166昨日の訪問者数:
PAGE TOP ↑