#157 特異的エクササイズについての雑感

公開日: : 最終更新日:2017/02/05 S&Cコーチとしての思考, 競技特異性


 

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このブログをお読みの方はご存知かと思いますが、私はいわゆる「特異的エクササイズ」などと呼ばれるものに対してあまり肯定的ではありません。

ここで言う「特異的エクササイズ」とは、スポーツの動きそのものを取り出して、そこに直接的に外的な負荷をかけてトレーニングする事によって、トレーニング効果が実際のスポーツのパフォーマンス向上に直結するという考えのもと実施されるエクササイズのことを指します。

そのようなエクササイズはスポーツにおけるどの動作を向上させようと意図しているのかが比較的わかりやすいため、コーチやアスリートの受けは良いです。

しかし、エクササイズの見た目が競技動作に似ているからといって、そのエクササイズが競技動作向上に効果的であるという保証はどこにもありません。S&Cトレーニングって、例えば「野球のピッチャーがダンベルを持ったりゴムバンドを握ったりしてシャドウピッチングしたらパフォーマンスがアップする」なんて単純なものではないはずです。

逆に競技のスキルという非常に繊細なものに悪影響を及ぼしてパフォーマンス低下につながるリスクさえあると思っています。

そんな意見を持っている私ですが、必ずしも「特異的エクササイズ」の全てを完全に否定しているわけではありません。いくつかの条件を持ったS&Cコーチが、しっかりと論理的な理由を背景にそのようなエクササイズを開発したり使用したりする分にはアリだと思っています。

 

 

特異的エクササイズを開発したり使用してもアリだと私が思うS&Cコーチの条件

①競技動作について熟知している

特異的なエクササイズを開発したり選択したりしようとしているS&Cコーチが、そもそも競技自体について精通していなければ論外でしょう。

ここで言う「熟知している」というのは、スキルコーチとして競技そのものを指導できるくらいのレベルの事を言っています。たまたまその競技をS&Cコーチとして指導することになって、自分では一度も選手としてやった事はないけど、本やネットで調べたりコーチやアスリートの話を聞いて色々勉強してます程度のレベルではダメです。

 

②その競技動作のバイオメカニクス的な特性を理解している

競技動作を知っているだけでなく、そのバイオメカニクス的な特性を理解しておいて、どの要素を改善したら動作そのもののパフォーマンスを向上させる事ができるのかという科学的視点を持っている事が重要だと思います。

少なくとも大学学部レベル(できれば修士・博士レベル)の一般的なスポーツバイオメカニクスの知識を持っていて、さらにその競技に特化したバイオメカニクスの研究にも詳しい事が求められます。

 

③使用したエクササイズがどのような適応を引き起こすかを予測するだけの生理学・トレーニング論・バイオメカニクスの知識がある

競技コーチとしての競技動作に対する知識、そしてスポーツ科学者としてのバイオメカニクス的知識、この両者を合わせて、競技動作のどの要素にアプローチしてどのような変化をもたらせばパフォーマンスを向上させる事ができるのかを把握したうえで、次に必要なのはそのような変化をもたらすためにはどのようなトレーニング刺激を与えればよいのかという知識です。

「この刺激を与えればこのような適応が起こるはずだ」と予測するには生理学の知識とトレーニング指導の経験が必要です。また、特定のエクササイズが実際に意図した刺激を身体に与える事ができるかどうかを判断するには、そのエクササイズのバイオメカニクス的特性を理解する必要があります。

 

④特異的エクササイズをどのようにS&C全体のプログラムに組み込むかというS&Cプログラミングの能力がある

適切な特異的エクササイズを選択するだけでは十分ではありません。それを実際に実施するためには、S&C全体のプログラムの中でどのように組み込むかという知識が必要です。

例えば、そのエクササイズを実施する事により、特定の筋群が過剰なトレーニング刺激を受ける事になるとしたら、その筋群がオーバーワークになるのを防ぐために同じ筋群をターゲットとした他のエクササイズをプログラムから削ったり、あるいは量を減らしたりという配慮が必要です。

あるいは、特定の筋群が過剰なトレーニング刺激を受ける事により筋群間のバランスが崩れてしまうおそれがあるようなら、バランスを最小限にするようにスポーツには特異的でないエクササイズを加える事も考えないといけません。

 

 

まとめ

以上のような条件を有したS&Cコーチが、「この動作はそもそもこういうもので、それはバイオメカニクス的にはこういった要因により規定され、その中のこの特定の要因をこのような形で変化させる事ができれば、こういう理由でパフォーマンス向上に繋がるはずである。そして、その要因をそのような形に変化させるためには、このようなバイオメカニクス的特性を持ったこちらのエクササイズを用いてトレーニング刺激を加えてこういった生理学的適応を引き起こす必要がある。そして、このエクササイズをS&Cプログラムに組み込む時には、セッション内で◯番目に◯セット×◯レップ(レスト◯分)で週に◯回実施し、さらにこのエクササイズを実施する事による影響を抑えるために、エクササイズAの量を4セットx10レップから2セットx8レップに抑えて、一方で筋群間のバランスを崩さないように、エクササイズBを◯番目に◯セット×◯レップ(レスト◯分)で週に◯回するように追加する」という形で説明してくれるのであれば、特異的エクササイズを実施するのはアリだと思います。

ただ、実際にはそんな条件を有しているS&Cコーチなんてほとんど見たことがありません。したがって、現在、特異的エクササイズを用いているS&Cコーチは、上のような説明をできるだけの根拠を持っていない状態でそのようなエクササイズをアスリートにやらせている事になります。そんなんでいいのでしょうか?

残念ながら、最初に書いたように、特異的エクササイズはコーチ・アスリートからの受けは良いです。見た目が実際の競技に似ていることから直感的にこのトレーニングは効果がありそうだと思う事が多いのでしょう。スクワットやらRDLやら地味でキツいトレーニングをやるよりも、すぐに結果に結びつきそうな特異的エクササイズに飛びつきたがるアスリート・コーチも少なくないと思います。

そういう光景を見るたびに忸怩たる思いになりますが、自分にできる事は「トレーニングは魔法じゃないし、トレーニングにショートカットなんて存在しない。一番の近道は地道にコツコツとトレーニングすること」と説明したうえで、地味で基礎的なトレーニングに頑張って取り組むアスリートに対して自分ができるベストのサービスを提供する事くらいだと自分に言い聞かせて頑張っています。

たまにはやるせない気持ちになる事もありますが、自分と同じ考え・信念を持っているS&Cコーチとたまにお会いしてお話をすることでパワーをもらっています。この記事が多少そんなパワーをお分けする事になれば嬉しいです。

 

 

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【編集後記】

最近、The Journal of Strength and Conditioning Researchへの投稿論文の査読(ジャーナルに論文を掲載するかどうかの審査)を頼まれて実施しました。報酬はなく完全にボランティアです。研究者として査読をする事は実績の1つになるのですが、現在、私は研究をしていないので特に実績を稼ぐことにはつながりません。だから断ってもよいのですが、依頼してくれた編集委員が大学院時代の恩師だったので断りづらかったこともあり、また、多少はS&C界の発展に貢献したいという思いもあったので引き受けました。でも、ジャーナルを売ってお金を稼いでいる出版社を助けるために無償で働くという査読のシステムがイマイチ納得できないな〜と思うのは私だけでしょうか・・・。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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