#245 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載②】レジスタンスエクササイズ中の可動域

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 S&Cコーチとしての思考


 

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月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第2回の「レジスタンスエクササイズ中の可動域について」です。

 

=====ここから記事=====

フォームが重要

レジスタンスエクササイズ中は「適切なフォームを維持しつつ、できるだけ大きな可動域を使ってトレーニングする」というのが私のコーチング哲学です。

「適切なフォームを維持」することが特に重要で、「大きな可動域を使う」ことよりも重視しています。例えばスクワットでは、大腿前部が床と平行になる深さ(パラレル)を目標とし、できるだけ深くしゃがむようコーチングしています。しかし、柔軟性の欠如等により、深くしゃがもうとすると腰が丸まってしまうアスリートに対しては、脊椎をニュートラルに保てる範囲内でスクワットを実施させます。たとえ、それがパラレルより浅くても、です。

そのような場合、適切なフォームを維持しながらできるだけ大きな可動域を用いて根気よくスクワットを続ける事で、次第に可動域が増大してパラレル以下でスクワットできるようになるものです。もちろん、ストレッチ等を用いて柔軟性向上も図りますが、できるだけ大きな可動域を用いてある程度の重量でスクワットをすること自体が、最適なストレッチ効果をもたらすと感じています。逆に言うと、ストレッチ等だけで可動域を増大させても、新たに獲得された可動域における筋力増加が伴わなければ、パフォーマンスの向上につながる可能性は低く、傷害リスクを高める事になりかねません。

 

同じ可動域を使うべきか

今回のテーマを語る上で避けて通ることのできない議論の1つに「レジスタンスエクササイズにおいても競技中の動きと同じ可動域を使ってトレーニングするべきか?」というものがあります。例えば、バレーボールやバスケットボール、陸上の跳躍種目等におけるジャンプ力を向上させるには、フルスクワットとクウォータースクワットのどちらを採用するべきかというお話です。後者を採用する理由としては「可動域が実際のジャンプ動作に近いからトレーニング効果がパフォーマンス向上に直結するはず」という考えがあるのでしょう。一見すると、これは論理的に思えるかもしれませんが、クウォータースクワットの優位性を証明する科学的データは私の知る限り存在しません。逆に、最近の研究によって、クウォータースクワットよりもフルスクワットのほうがジャンプ力向上に効果があると報告されているのは興味深い点です(文献1, 3)。

では「クウォータースクワットの可動域が実際のジャンプ動作に近いからトレーニング効果がパフォーマンス向上に直結するはず」という考え方のどこに問題があるのでしょうか?

まず挙げられるのは「2つの動作は似ているけど違う」という点です。「2つの動作の可動域が似ている」というのはバイオメカニクスで言うところのキネマティクスに限定した議論であり、キネティクスを無視した不完全な議論です。確かに、2つの動作の見た目(=キネマティクス)は似ているかもしれませんが、目には見えない部分、例えば力発揮の大きさ・タイミング・方向etc(=キネティクス)に関しては大きく異なっているはずです。したがって、可動域という1つのキネマティクス的要因が似ているからといって、クウォータースクワットによるトレーニング効果がジャンプ動作のパフォーマンス向上に直結するという考え方そのものが成立しません。

また、仮に2つの動作が似ているという主張を全面的に受け入れたとしても、「似ているからトレーニング効果がパフォーマンス向上に直結する」という部分が非論理的で根拠がありません。恐らく、このような主張は「トレーニングの特異性」を勘違いして理解している事により出されるものでしょう。「トレーニングの特異性」とは、身体に加えられたトレーニング刺激に対して特異的な生理学的適応が起こることを説明しているもので、いわゆる「SAID (specific adaptation to imposed demands)の原則」で説明される概念です。「実際の競技動作に見た目が似ている(特異的な?)エクササイズを実施すればトレーニング効果がパフォーマンス向上に直結する」というのは誤った解釈です。エクササイズを選択する際には、そのエクササイズがどう見えるかではなく、そのエクササイズを実施する事でどのような効果を生み出そうとしているかを基準に判断するべきです。

 

傷害リスクの検討

今回のテーマについてもう1つ良くある議論が「大きな可動域を用いたトレーニングは傷害リスクを高めるか?」というものです。できるだけ大きな可動域を用いようと無理をしてフォームを崩してしまえば、もちろん傷害リスクは高まるでしょう。

例えば、スクワットで深くしゃがもうとして、腰が丸まったり膝が過剰に前方に移動して踵が床から浮いたりした場合です。これは、「大きな可動域を用いる」という、トレーニング効果を高めるための手段が目的にすり替わってしまったケースであり、そもそも論外です。

その一方で、「たとえ正しいフォームでトレーニングしていても、フルスクワットのように深くしゃがむと膝や腰に負担がかかって傷害につながるから、クウォータースクワットのほうが安全だ」という類の主張は昔からあります。しかし、実際にそのような主張を裏付ける科学的データや論理的な説明を私は見たことがありません。

最近発表されたレビュー論文(文献2)においても、スクワットで深くしゃがむことが傷害リスクを高めることはないという結論が出されています。結局のところ、専門家の指導の下で正しいフォームを身につけ、「適切なフォームを維持しながら、できるだけ大きな可動域を使う」というルールを守り、漸進性過負荷の原則にしたがって少しずつトレーニング量・強度・頻度等の変数を増やしていけば、大きな可動域を用いたトレーニングが傷害リスクを高める可能性は低いでしょう。

【参考文献】

  1. Bloomquist K, Langberg H, Karlsen S, Madsgaard S, Boesen M, Raastad T. Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations. Eur J Appl Physiol. 2013;113(8):2133-42.
  2. Hartmann H, Wirth K, Klusemann M. Analysis of the load on the knee joint and vertebral column with changes in squatting depth and weight load. Sports Med. 2013;43(10):993-1008.
  3. Hartmann H, Wirth K, Klusemann M, Dalic J, Matuschek C, Schmidtbleicher D. Influence of squatting depth on jumping performance. J Strength Cond Res. 2012;26(12):3243-61.

 

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【編集後記】

プレゼン時に私物のMacBook Airの調子が悪くなってKeynoteが使えなくなった場合に備えて、iPhoneやiPadとプロジェクターを繋げてプレゼンができるアダプタを購入しました。さっそくiPhoneをプロジェクターに繋げて動作確認してみたところ、MacBook Airを使っているのと変わらないクオリティで動作することがわかりました。今後プレゼンする時はiPhoneとこのアダプタだけ持っていけばいいんじゃないか、と思うくらいのクオリティです。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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