#270 【月刊トレーニング・ジャーナル記事転載⑪】エクササイズ指導で気を付けていること

公開日: : 最終更新日:2015/08/07 コーチング


 

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月刊トレーニング・ジャーナルに掲載して頂いた記事(河森執筆部分)を転載するシリーズの続きです。今回は連載第11回の「エクササイズ指導で気を付けていること」です。ちょうど前回のブログでエクササイズ指導について書いたところのなので、同じテーマに関連したブログが続くことになります。前回のブログと合わせて読んでみてください。

#269 レジスタンスエクササイズ中の動作改善について:すぐ改善できる場合 vs. 時間をかけて改善を図る場合

 

=====ここから記事=====

今回は、アスリートにエクササイズ指導をする時に気を付けていることをランダムに紹介していきたいと思います。私は個人競技種目を担当する機会が多いので、主に少人数(10名以内)に対して指導するシチュエーションを想定しながら話を進めていきます。大人数のチーム相手に指導する場合に当てはまるとは限りません。

 

立ち位置

アスリートのエクササイズフォームを観察する時の立ち位置は、「後ろ」「横」「斜め横」の3つが基本です。例えばスクワットを指導する時は、最初にアスリートの後ろに立ち、バーを正しい位置に担いでいるかを確認したり、開始姿勢での足幅やつま先の向きをチェックしたりします。その後、最初の1-2レップは後ろから観察して膝の向き等を確認し、その後移動して残りのレップは横から観るようにしています。しゃがむ深さ(可動域)や骨盤の前傾・後傾の程度(とそれに伴う腰椎の伸展・屈曲の程度や動きの有無)、上体の傾き、バーや重心の前後位置やエキセントリック・コンセントリック動作のスピード等、多くの情報を横から観察することで得ることができます。

1セットの全レップを横から観ることも多いです。スクワットに限らず、横からエクササイズ指導をすることが7-8割くらいになると思います。それに加えて、ルーマニアンデッドリフトやハングポジションからスタートするクリーン・スナッチ等の指導時に、ウエイトプレートに視界が遮られて膝関節の位置や動きが見づらい場合には、真横ではなく斜め横からアスリートを観察するようにしています。

 

オーバーコーチングを避ける

ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチとして、エクササイズ指導における「引き出し」をたくさん持っておくことは重要です。しかし、それらを全てアスリートに伝えたいという気持ちが強すぎてオーバーコーチング状態になってしまうと、アスリートが困惑してしまい逆効果になる、なんてことが起こりえます。

アスリートの立場から考えると、一度にたくさんのことを言われても全てを意識することなんて不可能です。1セットの間に意識できるポイントはせいぜい1つか2つでしょう。あれもこれも伝えたい気持ちをグッと抑え、優先順位を決めて本当に重要なポイントに絞ってアスリートに伝える能力は、S&Cコーチとして常に磨く必要があるものだと感じています。エクササイズフォームにおけるエラーの1つが修正されれば、他のエラーも自動的に修正されるなんてこともよくあります。

それに、S&Cコーチとしての指示がバッチリと当たってエクササイズフォームが改善されることよりも、アスリート自身が色々と試行錯誤して自分でコツを掴むことのほうが多いです。その試行錯誤を邪魔するオーバーコーチングはできるだけ避けたいところです。一方で、何の指導もせず放ったらかしにしているのは、ただのS&Cコーチとしての怠慢です。「最低限必要なコーチングは与えつつ、オーバーコーチングは避ける」というバランスを取るのはなかなか難しいですが、常に最適なバランスを探しながら指導をすることを目指しています。

 

簡潔なコーチングキューを活用する

セット中にアスリートに指示を与える時は、できるだけ簡潔な言葉(コーチングキュー)を使うよう心がけています。理想は単語1つです。あまり長い文章で指示を出しても、重いバーベル等を担いで余裕のない状態では、アスリートがその指示を理解することは難しいでしょう。かといって、事前の説明もなくいきなり単語を1つだけ言われても、それはそれで何を意図しているのか理解するのは困難です。したがって、例えば「肩甲骨をぴったりと寄せて胸を張った状態をレップ中ずっとキープするように」とあらかじめアスリートに説明をしておいたうえで、セット中は「肩甲骨!!」とだけ叫べばこちらの意図が伝わりやすくなります。

ポイントは事前に説明をしておく事と、セット中はその説明を思い出させるような簡潔なコーチングキューを使う事です。

 

ダメな点を指摘するだけではダメ

例えば、デッドリフトで「背中が丸まっていてダメ」とアスリートに指摘するだけではS&Cコーチとして失格です。なぜ背中が丸まってしまうのかを見極めて、それを修正するための解決策(例:「肩甲骨を寄せておく」と指示する、胸椎伸展モビリティドリルを導入する、しばらくはデッドリフトの代わりにルーマニアンデッドリフトをやらせる)まで提示できて初めて、S&Cコーチとしての仕事をしたことになります。そこまでできないのであれば、そもそもダメな点を指摘するべきではないし、適切なフォームを指導できないのであれば、そのエクササイズをプログラムに加えるべきではありません。

 

良い点は具体的に褒める

エクササイズ指導中は、良くないところを見つけてそこを修正することに意識が行きがちですが、アスリートの立場から考えてみると、悪い点ばかりをいつも指摘されていてはモチベーションが下がってしまいます。良くできた時は褒めてあげることでバランスを取ったほうがいいでしょう。また、なんとなく褒めるだけよりも、具体的に何がどう良かったのかを説明したうえで褒めてあげたほうがアスリートにも伝わりやすいし、アスリート自身も意識しやすくなるのでフォームの改善が定着しやすくなると思います。

 

個人差を認識し、型にはめない

例えばスクワットを指導する時に、S&Cコーチはそれぞれ独自の指導法があるでしょうし、「理想のフォーム」的なものが頭の中にあると思います。そういったものを持つことは大切だと思いますが、それに固執して、無理やり選手をそのような型にはめようとするのは避けるべきです。選手によって柔軟性や筋力、身体部位の長さの比率、関節の形etcがまったく異なるので、同じスクワットでもアスリートAにとって最適なフォームとアスリートBにとって最適なフォームは全く別物に見える可能性があるのです。

例えば、大腿部の長さが下腿部や胴体と比較して長いアスリートの場合、スクワットでは上体の前傾角度がきつくなる傾向があります。「スクワット時の上体の前傾角度はこのくらいだ!」という型を持っていてそれに無理やりアスリートを当てはめようとすると、大腿部の長さの個人差を考慮に入れることができず、そのアスリートにとっては最適ではないフォームを強制してしまう恐れがあるのです。したがって、エクササイズを指導する時は、最低限これだけは外せないというポイントだけはしっかりと守りつつも(例:腰は曲げずにピシッと伸ばしておく)、それ以外の点については個人に合わせて柔軟に対応することが必要だと思います。

 

アスリートの学習タイプを見極める

柔軟性や身体部位の長さの比率等の身体的特徴だけでなく、学習タイプにもアスリート間で個人差があると感じています。エクササイズのやり方を口頭で説明すれば理解できて、自分の身体で再現できる「頭脳学習タイプ」のアスリートもいれば、エクササイズのやり方をデモして見せたり本人のフォームをビデオ撮影してフィードバックしたりすることを好む「視覚学習タイプ」のアスリートもいます。また、エクササイズ中に意識すべき筋をS&Cコーチが触ったりつついたりすることでフォームが改善したり、文字通り手取り足取り指導をして半強制的に適切な姿勢を取らせることで理解できる「触覚学習タイプ」のアスリートもいます。

自分の指導しているアスリートがどのような指導方法に一番反応するタイプなのかを見極めることで、より効果的かつ効率的なコーチングができるはずです。実際には、いくつかの方法を組み合わせながら指導するのがベストだと思うので、どの方法でも指導できるようにS&Cコーチとしての引き出しを広げておくのが重要です。引き出しを広げておけば、例えば異性のアスリートに対して「触覚型」の指導ができない場合に(セクハラ等の問題を避けるため)、口頭での説明や視覚に訴える方法で指導をできるようになります。

 

 

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【編集後記】

先日、焼き肉やらスイーツやらを食べ過ぎてお腹の調子が悪いです。自分は身体のわりに少食なので。しかし、世の中にはたくさん食べる人がいるものですね。たとえば身体を大きくしたいアスリートの場合、たくさん食べられるというのも1つの才能なんだろうな〜と感じました。

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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