#341 「筋肥大のためにはセット間レストを短くすべき!」という考え方は、科学界では否定されつつある


 

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ウエイトトレーニングのプログラムデザインにおいて、強度・量・頻度・エクササイズ選択といった変数と比べると、ちょっと地味な存在である「セット間レスト(時間)」。プログラムデザインを説明する書籍においても、比較的サラッと触れられただけですぐにスルーされてしまう可哀想なやつ。

そんな「セット間レスト」が唯一スポットライトを浴びるのが、筋肥大が話題になる時です。一般的に、筋肥大を目的にトレーニングをする時は、セット間レストを短くすべき!と言われています。モノにもよりますが、1分前後というのが定番です。

しかし、そんな考え方がここ最近見直され始めています。特に科学界で否定されつつある、というのが私の印象です。

 

 

筋肥大のためにはセット間レストを短くすべき!という考え方が見直されている理由

①そもそもの根拠である「ホルモン仮説」がビミョー

そもそも、なぜ「筋肥大のためにはセット間レストを短くすべき!」と言われるようになったのでしょうか?

これは、1980〜90年代に発表されたWilliam Kraemerらの研究において「セット間レストを短くしたほうが(例:1分)レストを長めに取るよりも(例:3分)、トレーニング後の血中ホルモン濃度が高くなる(特に成長ホルモン)」と報告されていることにもとづいています。成長ホルモン等はanabolicつまりタンパク質合成作用があると考えられているので、トレーニング後にそれらのホルモンがより多くドバっと出るようなトレーニングプロトコル(短いセット間レスト)が筋肥大には適しているという仮説(「ホルモン仮説」と呼ぶとか呼ばないとか)に結びついたのです。

しかし、この「ホルモン仮説」の根拠は、1回のトレーニングセッション後の急性ホルモン応答にすぎません。そのような急性の応答が、それを繰り返すことで長期的に起こるトレーニング適応(つまり筋肥大)を正確に予測できるのか、という点について、研究者の間からも疑問の声があがっています。

さらに言うと、筋肉を太くするためのトレーニング刺激はホルモンだけではありません。他にも、メカニカルストレスや代謝環境、筋ダメージ等が重要な刺激になると現在は考えられています(詳しくは石井直方先生の「筋肉の科学」を読んでください)。したがって、そのような複数の要因の中の一つにすぎない「ホルモン」に着目して、それだけにもとづいて筋肥大にとって最適なセット間レストを決めるのは、根拠が薄いと言わざるをえません。

 

②レストが短いと扱える重量が軽くなるorこなせるレップ数が減る

これは個人的にも昔から疑問に思っていたことなんですが、レストを1分程度に短くすると成長ホルモンはドバドバっと出るのかもしれないけど、扱える重量は軽くなります。もしくは、同じ重量を使うのであれば、こなせるレップ数が減るはずです。そしたらトレーニング効果は減っちゃうんじゃないの?ってことです。

もし、筋肉を太くする刺激としてホルモンだけが重要なのであれば、重量やレップ数が減ったとしても関係ないんでしょうが、上述したように、実際にはメカニカルストレス等の他の要因も重要な刺激なんです。したがって、レストを短くして重量やレップ数が減ったら、それらの他の刺激が減ってしまうので、結果として筋肥大効果が下がると予想するのが自然でしょう。

 

③長期の研究(longitudinal study)では支持されていない

上述したように、そもそも「ホルモン仮説」は急性の応答を調べた研究(acute study)にもとづいています。それが、実際に長期のトレーニング適応を予測しうるのかを調べるためには、長期の研究(longitudinal study)を実施して、本当に短いセット間レストのほうが筋肥大効果が高いのかどうかを検証する必要があります。

残念ながら、そのようなlongitudinal studyの数はあまり多くありません。しかし、その数少ない研究をレビューした論文(Henselmans & Schoenfeld 2014)によると、2014年時点での科学的知見は「セット間レストが短いほうが筋肥大効果が高い」という仮説を支持していないようです。

また、昔ながらの短いセット間レスト(1分)よりも長いレスト(3分)のほうが8週間のトレーニングにおける筋肥大効果は高いという最新の報告もあります(Schoenfeld in press)。

 

 

まとめ

ということで、これまで言われてきた「筋肥大のためにはセット間レストを1分程度に短くすべき!」という考え方は否定されつつあります。そのようなガイドラインは一度頭の中から捨て去って、あらためて最適なセット間レストを考えなおす必要があるでしょう。実際、私自身も、筋肥大期のプログラムにおいて、セット間レストを短く設定するのをやめました。

じゃあ、現時点で入手可能な科学的知見にもとづくと、筋肥大のために最適なレスト時間はどのくらいなんだ?とツッコまれたら、現時点ではなんとも言いようがありません。科学的に言えるのは、「筋肥大には短いレストが良いよ!」っていう昔ながらの考え方には根拠がないということくらいなんですから。

個人的には、スクワットやデッドリフト等の多関節エクササイズについては3分程度を目安にしつつも、アスリートが次のセットを開始する準備ができたら始めるように言っています。2分で準備できたら始めちゃってOKだし、3分たってもまだ回復していなければもっと長めに休んでもOKです(こういうのauto-regulationと呼んだりします)。

また、単関節エクササイズに関しては、レストは1分程度の短めのままでも良いかなと思います。単関節エクササイズを使う時はメカニカルストレスとかよりもホルモンを含めた代謝環境という刺激をターゲットにしていると思うので。ご参考まで。

 

 

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【編集後記】

先日、指導しているアスリートのトレーニング中にテレビ取材がありました。「自分も映るかな〜」と思いながら放送を見ていたら、映りました!2秒間の全国放送デビューでした!短かった・・・(笑)

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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