#349 科学的知見にもとづいたベストの方法を常に選べるわけではないのが現実だから、セカンド(あるいはサード)ベストも考えておくことが必要 〜concurrent trainingの例を添えて〜


 

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今回はフランス料理のメニューみたいなタイトルを付けてみました〜(最後の部分だけですが・・・)。

S&Cの専門家として「できるだけ科学的知見にもとづいて、現時点で選択できるベストの方法をアスリートに提供する」というのが私の目指すところです。しかし、実際にアスリートの指導をしていると、必ずしもベストの方法を選択できる状況ばかりではない、という現実に直面します。

 

 

いつもベストの選択をできるとは限らない現実(例:concurrent training)

①ベストの選択

たとえば、ウエイトトレーニングと持久系トレーニングの両方を実施すると(=concurrent training)、ウエイトトレーニングのみを実施した場合と比べて、ウエイトトレーニングの効果が低下する、という科学的知見があります(Hickson 1980)。これはinterference effect(=阻害効果)と呼ばれたりします。なので、ウエイトトレーニングの効果(例:筋力向上)を最大限に高めたいのであれば、持久系トレーニングは一切しないほうが良いはずです(ベストの選択)。

※余談ですが、私の師匠のひとりDr. Greg Haffから聞いた話では、研究者でもありウエイトリフティングコーチでもあるDr. Mike Stoneは、自分が教えているウエイトリフターが駐車場に車を止めて、建物に入るまで歩いているのを目撃して怒ったそうです。「そんなに歩いたら、interference effectが出るじゃないか!建物の入口に一番近いところに車を止めて、歩く距離をできるだけ短くしろ!」と。真実かどうかはわかりません。単なるDr. Haffのネタじゃないかと個人的には思うのですが・・・。

 

②セカンドベストの選択

しかし、実際には、ウエイトリフティングやパワーリフティング等の競技をのぞけば、筋力etcだけでなく持久力も向上させる必要がある競技がほとんどなので、持久系トレーニングを一切しないという選択肢は現実的ではありません。現実として両方やらないといけないのであれば、次に考えるべきなのは「どうしたらinterference effectを最小限に抑えることができるか?」ということになるでしょう。

そこでいろいろ調べてみると、ウエイトトレーニングと持久系トレーニングを両方やるなら、別々な日にやったほうが両方を同じ日にやるよりも筋力向上効果が高い、という科学的知見が存在します(Sale et al. 1990)。したがって、interference effectを最小限に抑えるためには、ウエイトトレーニングと持久系トレーニングをできるだけ別の日にやったほうが良いということになります(セカンドベストの選択)。

 

③サードベストの選択

しかし、ここで「現実」という問題が再び立ちはだかります。

ウエイトトレーニングと持久系トレーニングを別々の日にやるとなると、S&Cセッションの頻度が増えることになりますが、練習スケジュール的にそれが困難な場合があります。たとえば、週に2日しかS&Cセッションの時間を与えられない場合、interference effectを避けるためにウエイトトレーニングと持久系トレーニングを別々の日に実施しようとすると、それぞれのトレーニング刺激を入れるのが週に1回のみとなります。しかし、それだとトレーニング量・頻度が不十分なので、どちらのトレーニング効果もあげられない可能性が高いです。したがって、現実的には、両日ともウエイトトレーニングと持久系トレーニングのどちらも実施せざるをえないでしょう。

別々な日にやったほうがいいんだけど、現実として両方を同じ日にやらざるをえないとなると、次に考えるべきなのは「同じ日にやるなら、ウエイトトレーニングと持久系トレーニングのセッションをどのように配置するとinterference effectを抑えられるだろうか?」ということになります。

そこで、またいろいろ調べてみると、ウエイトトレーニングと持久系トレーニングを間に休みを入れずに同一セッション内で連続して実施するよりも、6時間の休みを挟んで実施したほうがinterferennce effectは小さいという科学的知見があります(Robineau et al. 2016)。したがって、両方を同じ日にやらざるをえないのであれば、できるだけ2つのセッションの間を空けて実施したほうが良いという判断になります(サードベストの選択)。

 

④フォースベストの選択

しかし、一般的には、同じ日に6時間の休みを間に挟んでウエイトトレーニングと持久系トレーニングを実施できる状況は少ないでしょう。多くの場合、「午前中は競技練習するから、午後のみS&Cセッションとして使ってくれ」ということになるはずなので、現実的にはウエイトトレーニングと持久系トレーニングを連チャンでやらざるを得なくなります。となると次に問題になるのは「どちらを先にやったほうがinterference effectを抑えることができるのか?」ということになります。

その問いに対する答えは、現時点では確定的ではありません。持久系トレーニングを先にやると、疲労によりその後のウエイトトレーニングにおける力発揮が低下するため、扱える重量が小さくなってしまい、筋力向上のポテンシャルも下がる(=interference effectが大きくなる)とする文献もあれば、低強度の有酸素運動を先にやることによって筋肥大効果が大きくなるとする報告もここ数年でなされています。

したがって、現時点では「何がフォースベストの選択か?」を確定することはできませんが、一連の流れとして、ベストの選択が現実的に採用できない場合に、その後、どのように対応していけば良いかの具体例の説明にはなったかと思います。

※ちなみに、ここで紹介した選択以外にも、持久系トレーニングの内容を低強度有酸素運動にするのか高強度インターバルにするのか、とか、ウエイトと持久系トレーニングの間に適切な栄養補給をすることでinterference effectを抑えよう、とか、他にも色々な選択肢が存在することは指摘しておきます。

 

 

まとめ

今回取り上げたconcurrent trainingについての話はあくまでも説明をわかりやすくするための例であり、結局何が言いたいのかというと、「科学的知見にもとづいたベストの方法を常に選べるわけではないのが現実だから、セカンド(あるいはサード)ベストも考えておくことが必要」という、タイトルそのままのことです。

S&Cコーチ本人が科学的知見に精通していなくても、他のS&Cコーチや研究者が科学的知見をまとめて、いわゆる「ガイドライン(=ベストの選択)」を提示してくれる場合があります。教科書に載っている内容などは、まさにこのガイドラインと言っていいでしょう。そういったガイドラインを活用することは悪いことではないですが、そのガイドラインをそのまま適用できない現実に直面した時に、応用が効かないというマイナス面があります。

そう考えると、やはりS&Cコーチとして活動していくのであれば、ある程度、自分で学術論文を読んで、セカンドベスト・サードベストの選択肢を自らの力で発見していく能力を鍛えるのが大切なのではないでしょうか?

#338 S&Cコーチとして学術論文を読めるようになるまでのプロセス

 

 

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【編集後記】

三菱自動車の燃費データ不正問題を受けて、池井戸潤の「空飛ぶタイヤ」という小説が売れている、というネット記事を読みました。リオ五輪でのサポートに向かうため長時間移動があったので、空港で購入して読んでみました。結構ページ数は多かったのですが、どんどん引き込まれてあっという間に読み終えてしまいました。非常に面白かったです。オススメです!

 

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  • 河森直紀(かわもり なおき) PhD, CSCS

    1979年10月17日 神奈川生まれ 埼玉育ち
    ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。

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