#562 【論文レビュー】ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチをするべきかせざるべきか

 

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クリーンやスナッチ等のウエイトリフティング(WL)関連エクササイズにおいて、バーをキャッチするべきか、しなくてもトレーニング効果は変わらないか、というのはS&C業界ではたびたび議論される話題です。

関連記事:#555 ウエイトリフティング関連エクササイズでキャッチまで実施することで、体幹部(脊柱+骨盤)の剛性を一気に高める能力を鍛えることができる?

 

競技としてWLをやっているのであれば、キャッチせざるをえません。

しかし、体力を向上するための手段としてWL関連エクササイズを取り入れているのであれば、「キャッチしないとダメ」ということはありません。

キャッチしなくても同様のトレーニング効果が得られるのであれば、「キャッチしない」という選択肢もアリなのです。

 

キャッチする場合としない場合のバイオメカニクス的な比較については、イギリスとアメリカの研究グループを中心に、ここ10年ほどの間に論文が発表されています。

しかし、バイオメカニクス的な特徴だけから、長期的なトレーニング効果を推測するのはなかなか難しい作業です。

そこで、実際に被験者を「キャッチするグループ」と「キャッチしないグループ」の2つにわけてトレーニングをやってもらって、効果に差が出るかを調べるような研究(RCT; Randomised Control Trial)が重要になってくるのですが、残念ながら、そのような研究はこれまで発表されていませんでした。

 

今年(2018年)に入り、これまでキャッチするvs.しないのバイオメカニクス的研究の論文を数多く発表してきた研究グループが、はじめてキャッチするvs.しないのRCT論文を発表したので、今日はその結果を紹介します。

 

  

論文の内容

Comfort et al. (2018) An Investigation Into the Effects of Excluding the Catch Phase of the Power Clean on Force-Time Characteristics During Isometric and Dynamic Tasks: An Intervention Study. J Strength Cond Res. 32(8):2116-2129

 

研究プロトコル

シーズン期間中の男女プロアスリートや大学生アスリートの被験者をCatchグループとPullグループに分け、全8週間ウエイトトレーニングを実施してもらった(頻度は週2回)。

ウエイトトレーニングの内容は、WL関連エクササイズに加えて、スクワットやRDL等の高重量エクササイズも含まれた包括的なものであった。

WL関連エクササイズについて、Catchグループはパワークリーンやmid-thighパワークリーンを実施し、毎回バーをキャッチしてもらった。一方、Pullグループはクリーンプルやmid-thighプルを実施し、バーはキャッチしなかった。

トレーニングの強度(%1RM)はグループ間で同じとした。結果として、トレーニングの量(volume load)もグループ間で差はなかった。

 

結果 

反動なしの垂直跳び(SJ; squat jump)はCatchグループのほうが有意に大きな伸びを示した。反動なしの垂直跳び(CMJ: countermovement jump)においては、トレーニング前後の変化率にグループ間で有意な差は見られなかった。下記の図を参照

※他にもいろいろな変数が報告されていますが、わかりやすいパフォーマンスの指標であるSJとCMJにフォーカスして議論するため、省略します。

 

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考察

論文のDiscussionやAbstractを読んでみると、著者の論調は概ね「CatchもPullもトレーニング効果に大きな差は見られなかったから、どちらを使っても良い」という感じです。

しかし、SJに関して言えば、あきらかにCatchグループのほうが大きな伸びを示しています。それにCMJについても、統計学的な有意差こそありませんが、Catchのほうが伸びが大きい傾向は見られます。

この結果を見ると、「どっちでも良い」とは言い切れないという印象があります。

どちらかというと、垂直跳びパフォーマンスという点では、キャッチまでやることに利点があるのではないかと考えられます。

その原因が、キャッチ動作そのものにあるのか、キャッチをしないといけないからプル動作(下肢伸展)においてよりモチベーションが求められることにあるのか、はわかりません。

が、少なくとも、私が解釈をすると、この研究結果からはキャッチまで入れることに利点がある可能性が示唆されたので、同様の研究をもっとたくさん見てみたいというのが現時点での感想です。

 

ここで、1つ注意したいのが、この研究においては2つのグループ間でトレーニング強度や量を同じにするために、同じ相対強度(%1RM)を用いてWL動作のトレーニングが実施された点です。

キャッチをしないプル動作の利点の1つは、キャッチをするよりも重い重量(例:>1RM)を扱える点です。したがって、この研究においてPullグループがより重い重量を用いてトレーニングをしていたら、結果は変わっていたかもしれません。

したがって、この研究から言えることは、あくまでも「CatchとPullでトレーニング強度を同じに揃えた場合」であることは頭の片隅においておいてください。

 

 

まとめ

WL関連エクササイズにおいて、キャッチするべきか、しなくてもいいのか、という議論はずっと続くでしょう。

身体の使い方や柔軟性等の影響で、キャッチ動作を適切なフォームで実施できないのであれば、トレーニング効果の大小以前の問題で、安全面を考えてキャッチはさせないという判断をすべきだし、べつに無理にWL関連エクササイズをやらなくてもいいです。

しかし、少なくとも、トレーニング効果という点では、どちらのほうが利点が大きいのか、について科学的知見が蓄積されるのは喜ばしいことだし、そのような情報を提供してくれる研究者には敬意を払いたいです。

特に今回ご紹介した論文は、RCTという時間も手間もかかる手法でこのテーマに取り組んだ、おそらく世界初の研究なので、とても価値の高いものだと思います。

ただし、1つの研究だけで結論を出してしまうのは危険なので、今後、同様の研究がたくさん発表されることが期待されます。

ちなみに、今回の論文を読んだS&Cコーチとしての私の感想は「キャッチ動作を適切に実施できるのであれば、キャッチまでやらせたほうが良さそうだな」です。ご参考まで。

 

 

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【編集後記】 

先日受けたコンサルティングに関連したブログを中山さんがお書きになっています。