#422 【スポーツ科学者向け】研究と現場の乖離について〜Martin Buchheitのブログ記事の紹介〜

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Apollo13 crew

 

できるかぎり科学的知見に基づくトレーニング指導を提供しようと努力する姿勢は、すべてのS&Cコーチが持ち合わておくべきものです。

その一方で、スポーツ科学の研究と実際のトレーニング現場との間には、大きな溝が存在することも多くの人が感じているでしょう。

NSCAのような専門家団体が「Bridging the gap between science and application」というミッションステイトメントを掲げて活動をしているのも、そのような溝を認識しているからこそでしょう。

 

しかしながら、この大きな溝はまだまだ埋まっていないのが現状です。

おそらく、スポーツ科学者とS&Cコーチの双方に責任があるはずで、相手を批判し合っていても意味がなく、お互いに溝を埋めるためにできることはまだまだあるはずです。

 

 

「Houston, we still have a problem」 by Martin Buchheit

そんな中、サッカーのパリ・サンジェルマンFC(PSG)という欧州のビッグクラブでHead of Performanceとして働いているスポーツ科学者Martin Buchheit氏が、まさにこのトピックについてブログ記事を書いていたので紹介します。

参考 Houston, we still have a problemmartin buchheit

 

この記事は、研究と現場の乖離について、スポーツ科学者の視点から書かれたものなので、特にスポーツ科学者に読んでもらいたいと思います。

それも、ただ研究をして学術論文を発表して満足しているような人たちではなく、スポーツ現場でアスリートの勝利に貢献したいと真剣に考えているスポーツ科学者の皆さんに読んでもらいたいです。

 

特に面白いな〜と思ったのは、試合後に冷水浴を「9℃x2分間」というプロトコルで選手にやらせていた理学療法士に対して、「科学的知見に基づくと冷水浴は11-15℃で10-15分間浸からせたほうが良いって知ってる?」とMartinが話しかけたところ、「バスの出発まで35分しかなくて、その間に選手はメディア対応やファンサービスもやらないといけないし、冷水浴用のバスタブが2つしかなくて、それぞれ10人ずつの選手に冷水浴をさせないといけない状況だから、1人あたり2分間くらいしか冷水に浸かれないんだけど、その場合は何℃の水が最適だって言うんだい?」と反論されて、何も言えなかったというエピソードです。

研究においては、理想的なシナリオの中でベストな方法は何か?を追い求める傾向がありますが、実際のスポーツ現場ではそんな理想的なシナリオなんて滅多にお目にかかれません。

制限に次ぐ制限で、科学的知見に基づいて「こういう風にやりたい」と計画したことがそのまま実行できるケースのほうが珍しいくらいです。

 

となると、上記の冷水浴の例で言うと、「リカバリー目的のために最適な冷水浴のプロトコルは何か?」という研究課題(research question)よりも、「現場では1人あたり2分間ずつくらいしか冷水浴する時間ないんだけど、そういう条件下でベストな水の温度は何℃?」という研究課題を設定して調べてもらったほうが、現場で役に立つ実践的な情報を提供してくれる可能性が高いということです。

ただし、そもそもスポーツ科学者が現場の状況を知らなければ、そんな研究課題を思いつくはずがありません。

したがって、適切な研究課題を設定してもらうためには、スポーツ科学者と現場で働くコーチやその他の専門家との間でのコミュニケーションが重要なんだと、つくづく感じます。

 

 

まとめ

現場で役立つ実践的な情報をスポーツ科学が提供するためには、適切な研究課題の設定が重要です。

そして、適切な研究課題を見つけるためには、スポーツ科学者が現場に足を運び、コーチや他のスタッフとコミュニケーションを図りながら、現場での課題について知ることが大切です。

そのことを認識するためにも、Martin Buchheit氏のブログ記事をぜひ読んでみてください。

英語ですが、研究者なら読めるはずです。

 

現場での実践的な課題を解決するような研究は、学術論文としてジャーナルにアクセプトされづらいという状況は理解していますし、研究者として学術論文を発表することが重要なのもわかります。

しかし、より実践的なスポーツ科学の研究を掲載するようなジャーナルも最近は増えてきているので(例:International Journal of Sports Physiology and Performance)、もし、アスリートの勝利に貢献するスポーツ科学者を目指すのであれば、楽なほうに逃げずに、茨の道を歩む覚悟を決めてもらいたいです。

そういう人材は少ないので、いずれ現場の人たちから感謝されることになるはずです。

 

 

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【編集後記】

ドイツでフェンシングの世界選手権が始まりました。

フェンシングにはエペ・サーブル・フルーレの3種目があるのですが、種目によって参加選手数が全然違うのに驚いています。

特に、エペという種目の参加選手数が飛び抜けて多く、この中で勝ち抜くことの難しさを改めて感じています。