前回のブログ記事が予想外のヒットを記録しました。思いついた事をパパっと書いただけで、構想と書き上げるのに30分もかかっていないのに。
逆に長期間かけて構想を練りに練って書き上げた超大作があまりヒットしない事もあります。わからないものです。
でも、そもそもこのブログは自分が勉強した内容とか思っている事を書く場として使っているので、たくさんの方に読んでもらうかどうかはあまり気にしないでしこしこ続けようと思います。でも、将来的には狙ってヒット記事を生み出せるようになるといいな・・・。
S&Cコーチの役割 1.0
さて、S&Cコーチの役割とかS&Cプログラムの目的とかっていうと、一般的には「傷害予防」と「パフォーマンス向上」の2つが挙げられると思います。
NSCAジャパンのウェブサイトに載っている情報によると
”ストレングスコーチは主にアスリートを対象に、パフォーマンスの向上と傷害予防を目的として…”
とあります。
スポーツ科学やS&Cを勉強し始めた若造の頃は「傷害予防ってなんか受身的な発想だな〜。やっぱり積極的にパフォーマンス向上させるのがS&Cでしょ。ガシガシトレーニングして筋力とか爆発的パワーを向上させれば、どんなアスリートもトップレベルに行けるっしょ」くらいの考えでいました。S&Cを万能なもののように捉えていたのかもしれません。
しかし、年をとっていろいろと経験をしてくると(まだ気持ちは若いですが)、傷害予防の重要性が身にしみてわかってきたり、S&Cは重要だし大きな貢献ができるとは思うけどそれが全てではないという事がわかってきたり、冷静な目で大きな枠組みの中でのS&Cの役割を客観的に考える事ができるようになってきた気がします。
そんな現時点で私が考えるS&Cコーチの役割をまとめてみました。
S&Cコーチの役割 2.0
①アスリートに害を与えない(Do no harm)
これはもともとDan Johnという人の考えです。
最初聞いた時は「そんなの当たり前でしょ」と思ったのですが、時間がたつにつれて徐々に自分の中に染み込んでくるような考えです。
適切なトレーニングを実施すればアスリートにとって利益になるはずですが、時にはめちゃくちゃなトレーニングをアスリートに実施させる事で、逆に害を与えているS&Cコーチを見かける事もあります。それならトレーニングなんかしないほうが良いという事にもなります。私自身はそこまでひどいS&Cコーチだとは思いませんが、自分がやっている事がアスリートにとって逆効果になっていないかを常に冷静に考えるのは重要です。
また、アスリートにとって必要だからそのトレーニングをさせているのか、それとも自分がS&Cコーチで自分がやらせたいからトレーニングをやらせているのかを客観的に考えるのも大切だと最近は思えるようになってきました。
②トレーニング中の傷害を予防する
これも「そんなの当たり前でしょ」的な考え方ですが、非常に重要なコンセプトです。トレーニング中にアスリートにケガをさせるなんてあってはならない事で、トレーニング中にアスリートがケガをしたらそれは全てS&Cコーチの責任だというくらいの気構えでいたほうが良いでしょう。
トレーニング中の傷害を予防するためにS&Cコーチができる事の例としては
- 施設・器具の整理整頓をする
- 正しいフォームでエクササイズを実施させる
- アスリートの能力以上の重さを持ち上げさせたり、能力以上のトレーニング量を処方したりしない
- トレーニング強度・量を増やす時は漸進的に実施する
- わけのわからない危険なエクササイズ(競技動作自体に過剰な負荷をかけるとか)を実施させない
等が挙げられます。
要するにS&Cコーチとして基本的な事を実施すれば良いのです。ちょっとこの①と②の考え方はかぶっているような気もしますが、①はS&Cコーチとして大きな枠組みでの考え方で、②はもっと具体的な考え方と捉えてみて下さい。
③競技中(練習中も含む)の傷害のリスクを減らす
ここでポイントなのは傷害を「予防する」のではなくて「リスクを減らす」という点です。
トレーニング中の傷害を予防するのはS&Cコーチとしてコントロールできる部分ですが、試合中や競技中の傷害をS&Cコーチが完全に予防するのは不可能です。S&Cは万能ではないのです。
しかし、適切なS&Cプログラムを処方すれば傷害のリスクを減らす事は十分可能で、S&Cコーチとしてはここを目指すべきでしょう。
S&Cプログラムが傷害のリスクを減らすメカニズムとしては
- 筋・腱・靭帯等の結合組織を強くする
- 力学的に効率的で負担の少ない動作を覚える
- 筋力・柔軟性を向上させる
等が挙げられるでしょう。まあ、要するに正しいエクササイズテクニックを用いて、適切な負荷のかけ方を心がければ良いという事になります。
④競技力のポテンシャルを向上させる
ここでポイントなのは競技力そのものではなくてポテンシャルを向上させるという点です。
S&Cによって筋力やら爆発的パワーやらが向上しても、それが競技力向上に直接結びつくわけではないからです。時には体力向上が競技力DOWNにつながる事さえあるのです。
このあたりの議論は以前のブログでお話済みですのでそちらを読んでみて下さい。
#48 トレーニングによる筋力UPは、やり方によっては競技力UPにも競技力DOWNにもつながりますよって事をコンピューターシミュレーション研究の結果をもとに考えてみる
また、競技の性質によってもS&Cが競技力向上に貢献できる度合いが異なってきます。
例えば、パワーリフターにとっては筋力の向上が競技力向上に直接的に結びつくというのは直感的に理解できると思いますが、サッカー選手にとって体力の向上が成績に結びつくかどうかは不明な部分が大きいです。特にチームの成績という事になると、個人のプレーヤーの体力の向上がどれほど貢献できるのかはさらに不透明になってきます。
もちろん、個々のプレーヤーの体力が向上して、チーム全体の怪我人の数も減ればチームにとってはプラスになるはずですが、チームの成績にはそれ以外にも多くの要因が関わってくるものです。まったく同じチームでも監督が変われば成績が大きく変わる事もありますが、これは個々のプレーヤーの体力や傷害数が急激に変わったわけではないはずです。
こうした冷静で客観的な視点を持ちつつ、S&Cが貢献できるはずだという信念で取り組む必要があるのではないでしょうか。
まとめ
S&Cは傷害を完全に予防できないとか、競技力そのものを向上させるのではないとか、ちょっと後ろ向きな表現が多くなってしまいました。別にS&Cの効果を信じていないというわけではなくて、客観的にS&Cができる事を考えましょうという事です。S&Cが万能だと信じこんでしまうと、偏った考え方になり結果として指導するアスリートにとってマイナスになる事があるかもしれません。
この客観的にS&Cのあり方を考えるというのは、シンガポールで働いていた時や現在国立スポーツ科学センターで働いていて、他の分野(栄養、トレーナー、心理、科学etc)のスタッフと一緒に活動する機会があったのが大きいです。また、競技のコーチとも直接話しをする機会が多かったり、選手の競技練習を見たり試合での様子を観察する機会があったのも影響しています。
S&Cの役割を客観的に考えつつも、私はS&Cがアスリートのポテンシャルを最大限に引き出すための手伝いができると強く信じています。そのためには、S&Cコーチの役割を常に考えつつ、自分ができる最大限の仕事をするように心がけたいものです。
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