ブラジルW杯直前の準備期間において、サッカー日本代表が心拍数やGPS、血液検査等のハイテク技術を用いて選手たちのコンディション把握につとめていた様子が、さまざまなメディアで報道されていました。
ハイテク機器の使用そのものを否定するつもりはないですが、正しく使わないといろいろな問題点が出てくるので、その使用には最新の注意を払う必要があるというのが私の実感です。
ハイテク機器使用の問題点
ハイテク機器の使用について、よくある問題点をいくつか挙げてみます。
①ハイテク機器を使っていれば科学的トレーニングをしていると勘違いしてしまう
ハイテク機器を使用していると、何だかスゴい事をしている気分になっちゃいます。
ハイテク機器ってそんな魔力があるんです。
これはしょうがないです。
私自身、プライベートではいわゆる「ガジェット」と呼ばれるハイテク機器が好きで、使うたびに「ハイテク機器を使いこなしている俺ってカッコいいだろ〜」と悦に入ることも多いです。
しかしだからこそ、「ハイテク機器を使っているからといって科学的とは限らない」と自分に言い聞かせ続ける必要があると思うのです。
今回のサッカー日本代表のコンディション調整の件について言うと、「ハイテク度」という点で言うとかなり高かったと考えられます。
しかし、前回のブログで指摘したように、コンディション調整の担当者が「フィットネス−疲労理論」をきちんと理解していなかったために、シーズン終了直後でアスリートの疲労が蓄積している時期に追い込むようなキツいトレーニングをさせるという間違った選択をしてしまいました。
そもそもトレーニング計画の段階で科学的理論に基づいた正しい選択ができていないと、いくらハイテク機器を駆使したとしてもその間違いを埋め合わせることは不可能である、ということを良く示した例だと思います。
極端な話、ハイテク機器を一切使わないアナログな環境であっても、S&Cコーチが科学的理論をもとにトレーニング計画を立ててそれを実施すれば、それはもう「科学的トレーニング」なんです。
だってハイテク機器を使っていれば科学的トレーニングになるんだったら、S&Cの知識は一切無いけどハイテク機器の使い方は知っている技術者でも科学的トレーニングができちゃうってことになっちゃいますからね。
そんなことあるわけないのに。
②ハイテク機器を使っていろいろなデータを計測するだけでS&Cコーチとしての仕事をした気になってしまう
月刊トレーニング・ジャーナルの連載(2014年9月号)でも書いたのですが、測定をしただけでS&Cコーチとしての仕事をした気になってしまう人は多いです。
そして、ハイテク機器を使って数多くのデータを計測すると、この「仕事をした感」がさらに強まるような気がします。
でも測定をしてデータ(多くの場合は数字)を得るだけでは何の意味もありません。
そのデータを使わないと。
そして、そのデータを使ってもトレーニングやコンディショニングのoutcomeすなわち成果に影響がないようであれば、そんなものを測定するのは時間の無駄です。
メディアは目新しいものが好きなので、ハイテク機器を使用しているという部分をフィーチャーする傾向がありますが、そんな取材に喜んで答えてしまうようなS&Cコーチは、どうせハイテク機器を使って測定しているだけで満足してるんだろうなと思ってしまいます。
③ハイテク機器によって得られる数字が何を意味しているのかちゃんと理解していない
ハイテク機器の利点は自動で即時にフィードバックしてくれるところでしょう。
ボタンを押して計測すれば、ポンっと数字を返してくれます。
しかし、この数字が何を意味しているのかちゃんと理解しているS&Cコーチはどれだけいるでしょうか?
そして、その数字が示しているとされるデータを本当に計測しているのかどうかを把握するためには、測定原理を理解する必要がありますが、そこまでの知識を持っているS&Cコーチはどれだけいるでしょうか?
心拍数やらGPSやら血液検査やら尿検査やらを使ってコンディションをモニターするというのはサッカー日本代表に限らず実施しているチームは他にもあると思いますが、じゃあ具体的にどの数字を見て「コンディション」なる抽象的なものの状態を判断するのでしょうか?
そして、その指標がどのくらい変化したら「コンディションが低下した」と判断するのでしょうか?
そういった部分を突き詰めることなく、とりあえずデータを集めるだけなら意味がありません。
このあたりの議論は過去にもしているので、是非読んでみてください。
このブログの右の欄にある「カテゴリー」という部分から「測定・スクリーン・テクノロジー」を選択して頂ければ、関連記事を見つける事ができます。
まとめ
結局何が言いたいのかというと、タイトルでも書いたように「ハイテクトレーニング」と「科学的トレーニング」を混同するな!ということです。
どれだけハイテク機器を用いたとしても、S&Cコーチの科学的知識不足によるトレーニング・コンディショニング計画のミスを埋め合わせることはできないのです。
それは、 今回のサッカーW杯のコンディション調整の失敗を見ればあきらかだと思います。
ハイテク機器に費やす予算があるなら、その予算を使って優秀なS&Cコーチを雇った方がいいんじゃない?と思うのですが、それは大きなお世話でしょうか。
でも私の素直な感想です。
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【編集後記】
最近は、ブログにおいても連載記事においても、私の毒舌が強まってきているな〜という自覚があります。
昔の私はメチャメチャなトレーニング指導をしているS&Cコーチ(もどき)を見ても「ま〜、人それぞれだから」みたいな当たり障りの無い態度だったのですが、そんな悠長なことは言っていられないほど日本のS&C・フィットネス業界の現状はヒドい事になっていると悟ったので、少々毒舌になっていこうと思います。