#36 【論文レビュー】アクチベーションドリル その1

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前回のブログでアクチベーションドリルとは何ぞやという事について書きました。今回は、このアクチベーションドリルに関連する研究をいくつか紹介していきたいと思います。

 

アクチベーションドリル研究紹介

①アクチベーションドリルはターゲットとする筋群を本当に動員(recruit)しているのか?

まず調べる必要があるのは、例えば中殿筋のアクチベーションドリルとして実施されるエクササイズは本当にターゲットとしている中殿筋を動員(recruit)しているのかという事です。そもそもこの前提が成り立たないと、この後の全ての議論が成り立ちません。

Side lying hip abduction scaled1000

さまざまな自体重エクササイズ中の殿筋群の筋活動レベルを調べたDistefanoら[1]の研究によると、中殿筋のアクチベーションドリルとしてよく用いられるside-lying hip abductionエクササイズ(上の写真)実施時の中殿筋の筋活動レベルは81%MVICと報告されています(%MVICとは、最大アイソメトリック運動中の筋活動レベルを100とした時の相対的な値の事です)。これは、forward lunge(42%MVIC)やfoward hop(45%MVIC)等のよりダイナミックで実際のスポーツの動きに近い多関節エクササイズと比べても有意に高い値となっており、side-lying hip abductionエクササイズは中殿筋をisolateして動員(recruit)するという目的にかなったエクササイズであると判断する事ができそうです。

ただし、ここで注意が必要なのは、この研究で調べたエクササイズは全て自体重を用いて実施された、いわゆる低負荷エクササイズだという事です。例えばforward lungeやその他のウエイトトレーニングエクササイズをバーベル等の高負荷を用いて実施した場合は、もしかしたら中殿筋の筋活動レベルはさらに高くなるかもしれません。残念ながら私の知る限り、同一の研究の中でside-lying hip abductionのような自体重エクササイズと高負荷ウエイトトレーニングエクササイズの筋活動レベルを比較した研究は存在しないので、この議論はあくまでも推測に過ぎません。

少なくとも、リハビリやウォームアップ目的のためにアクチベーションドリルを用いるという事を考えれば、他に器具の必要もなく自体重のみで実施できるside-lying hip abductionエクササイズのようなドリルは、非常に使い勝手の良い方法であると言えるのかもしれません。たとえ、高負荷のforward lungeの方が中殿筋の活動レベルが高かったと仮定しても、アクチベーションドリルとしてリハビリ中のトレーニングやウォームアップドリルの一部として高負荷のforward lungeを実施するのはあまり現実的ではないでしょう…

Clam shell scaled1000

Distefanoらの同研究では、中殿筋のアクチベーションドリルとしてよく用いられているclam shellエクササイズ(論文中ではclam、上の写真)における筋活動レベルも調べられています。予想に反して、clam shellエクササイズ中の中殿筋の活動レベルは40%MVIC(股関節30°屈曲位)または38%MVIC(股関節60°屈曲位)と低い値となっています。clam shellエクササイズ中の中殿筋の活動レベルが比較的低いという報告は他のいくつかの研究でもなされており[2,3]、clam shellエクササイズは中殿筋のアクチベーションドリルとしては適さない可能性が考えられます。

つまり、今回のブログの最初の質問である「アクチベーションドリルはターゲットとする筋群を本当に動員しているのか?」という問いに対する答えとしては、「選択するエクササイズによる」という事になるのかもしれません。

また、別の研究によると、アクチベーションドリル中にアスリートに対して与える指示(cue)によって、ターゲットとする筋の活動レベルを変化させる事ができる可能性が示唆されています。Lewisら[4]は、prone hip extensionエクササイズ実施時に「ハムストリングはできるだけリラックスさせてお尻の筋肉(gluteal muscles)を使うように」と指示した場合、実際にハムストリングの筋活動レベルが低下し、大殿筋の筋活動レベルが向上する事を報告しています。つまり、同じエクササイズを実施していても、コーチの指示の出し方によって(あるいはアスリートの意識の仕方によって)、ターゲットとする筋の動員レベルが変わってくる可能性があるという事です。

 

まとめ

今回紹介した研究から示唆される事をまとめます:

  • アクチベーションドリルとして一般的に用いられている自体重エクササイズは、ターゲットとする筋群をisolateして動員する事が可能であるが、この能力はエクササイズによって異なるため、目的に応じて適切なエクササイズを選択する必要がある
  • 同じエクササイズを実施していても、コーチが与える指示やアスリートの意識によって筋活動レベルが異なるため、ターゲットとする筋群を意識しながらアクチベーションドリルを実施する事が重要である

つまり、最初の問いに対する答えは、「適切なエクササイズを選択し、かつターゲットとする筋群を意識して実施すれば、アクチベーションドリルはターゲットとする筋群を動員する事が可能である」という事になります。

次回のブログでは、「適切なアクチベーションドリル(例えばside-lying hip abduction)を実施してターゲットとする筋群(例えば中殿筋)をactivateしておくと、その後に他の動き(例えば高負荷のスクワットや実際の競技動作)を実施する際に、ターゲットとする筋群がより動員されやすい状態になっているのかどうか?(アクチベーションドリルを実施しない場合と比べて)」という疑問について考えたいと思います。

 

参考文献

[1] Distefano LJ, Blackburn JT, Marshall SW, and Padua DA. G luteal muscle activation during common therapeutic exercises. J Orthop Sports Phys Ther. 2009;39(7):532-40.

[2] Boren K, Conrey C, Le Coguic J, Paprocki L, Voight M, and Robinson TK. Electromyographic analysis of gluteus medius and gluteus maximus during rehabilitation exercises. Int J Sports Phys Ther. 2011;6(3):206-23

[3] McBeth JM, Earl-Boehm JE, Cobb SC, and Huddleston WE. Hip muscle activity during 3 side-lying hip-strengthening exercises in distance runners. J Athl Train. 2012;47(1):15-23.

[4] Lewis CL, and Sahrmann SA. Muscle activation and movement patterns during prone hip extension exercise in women. J Athl Train. 2009;44(3):238-48.